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280円のガレットを28,000円で買って頂くという考え方

僕が営むNowheremanのスペシャリテ(看板商品)の一つ、ガレット・ブルトンヌ。フランス・ブルターニュ地方の郷土菓子のバターたっぷりの厚焼クッキーだが、開店2年間ですでに約20,000枚以上販売しているまさに定番・看板商品である。2枚組560円(税込)で販売しているので、1枚280円の価格設定である。

僕はこの280円のガレットをお客様には、最低28,000円で買ってもらいたいと思って作っている。ぼったくり?どういう意味?結論から言うと、それはつまり、最低100回はリピートしてもらおうという気持ちで作っているということだ。

以前、仲良くさせてもらっているアクセサリーブランドの経営者と話している時に「お菓子は単価が低いから大変だよね。うちは1つ売れたら○万円の客単価だから、その差は大きいよね。」と言われて、はっとしたのだ。確かにお菓子は1つ数百円の低単価ではある。だが、一度買うとずっと何年も着け続けられる高価なアクセサリー(裏を返せば同じものは基本買い足さないので店舗に足を運ぶ機会は少ない)に対して、お菓子は、食べればすぐに消えて無くなってしまう。また食べたくなると店を訪れ、そのお菓子を買う。食べるごとに消えて無くなるのだから、それを繰り返す。気に入ったお菓子は家族や友人に贈りたくなる。店に訪れる。ある意味で美味しいお菓子とはサブスクリプション・ビジネスになる。リピートし続けてもらえれば、例えば年単位でそれが積み上がったら、そのお菓子の存在単価、価値は決して安くないのだ。それが280円のガレットで言えば100回繰り返すと28,000円の価値になると言う意味だ。だから僕は100回買ってもらうつもりで美味しいお菓子を作ろうと励んでいるというわけだ。

とはいえ、当然、「リピートしたくなる美味しいお菓子には」その価値が生まれるという大前提がある。どんなに一時的に流行、話題の商品であっても、一回体験したら満足されて、もうリピートされないようなものはそのお客様にとっては一回分(一個分)の数百円の低い価値しかなかったと言えるのだ。昨今はある一つのスイーツが流行ると一斉に表層的なパクリ店があふれて一瞬で消費される。ブームが去ったタピオカミルクティーやチーズタルトなど、一度は試しに買ってみるが、一度でもう十分、となってしまって、毎週のように店に通っているという人は珍しいだろう。お菓子は繰り返し、食べてもらってこそ価値が見出される。定番品こそ強い価値のある商品だ。ビジュアルだけキャッチーでも味がつまらなければ、それはビジネスとしては価値が低く継続できない。それは消費されてすぐ終わる。だが、リピートされ続ける定番商品は長く愛され、時をともに過ごし、心に刻まれる思い出の味になるのだ。京都にはそういう味がたくさんある。出町ふたばの豆餅なんて本当に素晴らしくてただただ僕はリスペクトしている。あれこそが価値のある菓子だと思う。ああなれたらどんなに素敵だろうか。

目先の利益だけ見て一瞬で消費される商品を作ることは虚しい。きっと愛情を持って生まれてこなかった商品だと思う。そんな商品は作らないでほしい。それではお客様も、お店自身も決して幸せにはなれない。僕はどうせ作るなら、母から娘に譲られ、二世代で着けられて愛され続けるアクセサリーのように、母も娘も通って長く愛してくれるお菓子を作り続けたいと思っている。

今後の記事では、具体的に僕がどういう着想で新商品を作っているか、も書いていきたいと思う。

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