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K-POP,韓国ドラマ の現在地と戦略

「愛の不時着」、「梨泰院クラス」、「サイコだけど大丈夫」などの韓国ドラマがネットフリックスで上位を占め、音楽ではBTS, Black Pinkがヒットを量産しているなど、韓国コンテンツの快進撃が止まらない。一方でドラマ、音楽それぞれのコンテンツにおける戦略は似ている部分と異なる部分があるように思う。今回はそれぞれの共通点と相違点を見てみたい。

韓国ドラマに見る女性の強さと家族愛

最近ヒットしている韓国ドラマで共通して見えるのはヒロインの芯の強さだ。愛の不時着やサイコだけど大丈夫では社長であるヒロインが力強く描かれ、梨泰院クラスでは天才で破天荒なヒロインが登場する。彼女たちの激情がストーリーのスパイスとなっている。
これは韓国の現代社会において、女性の自立が大きなテーマになっているからだけでなく、世界的にも共通のコンセプトが広まっていることが共感を呼びやすくなっているのではないか。
また、家族愛もこれらのドラマの大きなテーマの一つだ。梨泰院クラスは父の復讐劇、愛の不時着は兄の死の理由を暴こうとする主人公、サイコでは障害を持つ主人公の兄との関係性などが描かれている。家族愛は万国で共通に受けるテーマであり、ストーリーを組み立てる上で意識的に取り入れられていると思われる。

ドラマを支える韓国文化のエキゾチック性

愛の不時着における北朝鮮の描写や、梨泰院クラスにおける韓国料理店、サイコだけど大丈夫における絵本などはいずれも韓国における歴史的背景や文化を色濃く強調しているように思われる。韓国カルチャーのディテールを描写することにより、そのエキゾチック性をグローバルに発信していると言えるのではないか。ある意味ドラマというコンテンツを通じて、文化を宣伝しているようにも思われる。
ドラマで出てくる韓国のフライドチキンが美味しそうで食べたくなったり、韓国料理が無性に食べたくなる。国内向けのプロダクトプレースメントなのだろうが、特定のチェーンがよく出てくる。

このように韓国ドラマは万国で共感するようなストーリーのテーマと、韓国文化の強調によるエキゾチック性が海外においても大きく受けている要因だろう。一方でドラマはコンテクストを伴うので、共感という意味では、欧米よりも文化的には近いアジアでの反応の方が強いと思われる。ここまでが端的な韓国ヒットドラマの考察だ。

K-POPはネクストステージに

既にBTSに関するマーケティングの考察は行ったところだが、ドラマ同様、国際的なテーマを歌詞で歌っている。

今回のBTSの「Dynamite」Black Pinkの「Ice Cream」はもう一段ステージが上がっている。まず歌詞が全て英語なのだ。これは明らかにこの2つのグループが世界全体をターゲットにし、より幅広い層を取り込もうとしていることの表れだ。
これまでK-POPの多くは英語の割合を増加させながらも、韓国語も残した形の曲が多かった。今回完全に英語になっているのは、韓国のアーティストというブランドから、世界的なポップアイコンとしての脱皮を表している。訓練されたダンスのうまさ、ファッションのユニークさ、音楽のクオリティなどが、エキゾチックの領域を超えた、完全にグローバライズされたパッケージとして表現されていると言える。BTSの所属事務所BigHitの上場も2020年10月中旬となっているが、Black Pinkもグループメンバーがラグジュアリーブランドのアンバサダーとなるなど国際的にも認知される存在となっている。

韓国ドラマはK-POPと同じ位置を占められるか

ドラマと音楽を比較すること自体があまり適切ではないかもしれないが、K-POP が完全にグローバルなブランドとなった一方で、韓国ドラマはまだその域に達していないと思われる。
その要因はいくつかあると思うが、1つはドラマの方がよりコンテクストが重要であり、文化的な嗜好に受け止め方が左右されるというところがあるだろう。音楽の方が国の文化特有のコンテクストを乗り越えやすい部分がある。またコンテンツの時間の長さは、流通のスピードに影響することが考えられる。3分から4分で完結する音楽の方が、一回あたり60分以上あるドラマよりコンテンツとして流通しやすい。しかもドラマはその連続するストーリーで構築されるため、途中で離脱するリスクも高い。こういったコンテンツのフォーマットがヒットの確率に与える影響は大きいように思われる。

ビジネス面からの音楽とドラマの違い

従来音楽はコンテンツの販売収入が中心で、ドラマは広告収入とコンテンツの版権収入両方が中心だった。
一方でこの構造は近年崩れてきている。音楽はライブやグッズ販売、アーティストの広告タイアップなどの収入に収益源が多様化してきている。しかし、ドラマは一部のプロダクトプレースメントなどはあるものの、広告収入と放映権収入のモデルから脱しきれていない。むしろTVが見られなくなり、広告収入が減少するなかで、グローバルなストリーミングのプラットフォーマーに版権の価格づけにおいて優位に立たれ、収益面で厳しい状況になってきていると言える。TVドラマはTV局が中心に制作会社と連携してコンテンツを売り出してきたが、今やコンテンツを作れるTV局のプロデューサーは独立して制作会社と組んだ方が、TV局による中間マージンを取られずに稼ぐことが可能となる。TVドラマがK-POPと同じようなグローバルブランディングを可能になるのは独立系のドラマ制作会社がコンテンツ作りにおいて優位性を持てるようになった時だろう。実際に「愛の不時着」を制作したスタジオドラゴンはCJグループのドラマ事業を切り出した会社の子会社で、Netflixに約5%の株式を保有されており、2020年1月にMOUを結んでいる。

もしかしたら今後韓国ドラマはよりグローバル市場を意識した作品の制作によって、その地位を確立していくのかもしれない。そうすれば、広告や商品開発等でタイアップするブランドもグローバルブランドとなり、さらなる収益の拡大が見込めるだろう。K-POPのビジネスモデルからも今後学び、グローバル化するその入り口まで来ているのだろうか。

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