ユニクロの経営戦略と+J
ユニクロの+Jラインが復活し、自分も購入して、手にとったがそのクオリティに感動した。特にシャツやジャケットは素晴らしい。値段は通常のユニクロより高いが、それでも他のお店で買う値段に比べればずいぶん安い。
+Jは、ジル・サンダーという有名デザイナーを招聘してユニクロが2009年に立ち上げたラインでしばらく休止していたが、ファンも多かった。この後、ユニクロは様々なデザイナーとコラボレーションを行う。現在もクリストフ・ルメールによるユニクロUやJ.W.アンダーソンとのラインなど様々なデザイナーとコラボレーションしているが、これらのコラボレーションがユニクロのデザイン性と価格帯を一段引き上げたことは間違いない。
それまでのユニクロはフリースをはじめとする機能性のある日常着を提供する会社でその価格の安さと機能性が売りだった。フリースは1994年から、ヒートテックは2003年、エアリズムは2012年から展開されている。帝人、東レなど繊維企業ともコラボレーションし、日常着に機能性を取り入れた功績はユニクロにあると言ってもいい。ユニクロが機能性ウェアを投入するまでは、アウトドアブランドしか機能性の高い服を生産しておらず、それは価格としても高いものだった。ユニクロはこれを大量生産することによって普通の人にも届く価格にしたのだ。
一方で当初はユニクロの服は安いものの、ダサいというイメージがあり、タグを切り取って着る人も多かった。そのイメージを払拭しようと初期はCMや広告戦略を通じたブランド価値の向上に取り組んでいたように思う。タナカノリユキをクリエイティブディレクターに置き、2008年にはuniqlockのキャンペーンはカンヌの国際映画祭でも賞を取った。
しかし、依然として服のデザインは野暮ったく評価が低かった。2002年にデザイン研究室を立ち上げ、2003年からアンディウォーホルやキースヘリングなどポップアーティストのグラフィックを配したTシャツプロジェクトを始め、UTというTシャツラインを導入していった。これはユニクロの服のイメージを変えていくきっかけにはなったものの、その他の服のデザインはまだまだ他のブランド服に比べればデザインは落ちると言わざるを得なかった。2004年にセオリーを買収したのも、ブランドが持つデザインに関するノウハウを手に入れるためだったと思われる。そう言った意味では2000年代はユニクロがデザイン改善に試行錯誤を繰り返していた時期なのかもしれない。
このユニクロのデザインに対するイメージを一新したのが+Jだったのだ。おそらくそれまでの低価格と機能性だけに依存した戦略だけでは駄目だということで踏み切ったタイミングだったのだろう。価格帯もユニクロの中では高めに設定し、ジルサンダーのブランドエクイティ、デザインの秀逸性を導入しながらユニクロのサブブランドとした。広告も高級ブランドのように洗練されたものだったことから、それまでのユニクロのイメージを大きく変えるものだった。結果として大人気となり、売切れが発生するなど成功を収めた。ユニクロにとっても商品の価格帯を引き上げる上でデザインという要素が投資する価値のあるものであることをこのプロジェクトを通じて理解したと思われる。
+Jの後、2011年からイッセイミヤケのクリエイティブディレクターだった滝沢直己をデザインディレクターとして採用、2012年には日本発のブランドでパリコレにも進出したアンダーカバーとのコラボレーションや、2013年にはA Bathing Apeの創設者NIGOをUTのディレクターに招聘、現在のユニクロのデザインディレクターであるルメールとのコラボレーションも2015年から開始した。こうしたコラボレーションや人材招聘によりデザインの改善がこの10年で進んだ。
現在ユニクロは東京、上海、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリにR&Dセンターを持ち、素材の機能だけでなく、デザインの改善も行われている。ユニクロUのデザインはパリのR&Dセンターで行われており、デニムの加工技術はロサンゼルスで研究されている。定番の製品も毎シーズン前年から改善が加えられているのが商品を手に取るとわかる。価格、機能で市場を切り開いたユニクロは、デザインの面でもシンプルかつ洗練されたものに変わってきている。
またビジネスがグローバル化する中でデザインの世界対応も進めている。インドネシアではバティック柄という伝統的なデザインを生地に取り入れたり、ハナタジマによるムスリムファッションのラインも存在する。
さらにデジタルテクノロジーの導入も進んでいる。2015年からアクセンチュアとの協業も発表。現在ではアプリの会員証でオフラインでの購入履歴を取り、オンラインの購入履歴とも合わせて消費者にリコメンドを提供したり、商品の在庫についてもオンライン、オフラインが統合して管理されている。現在ユニクロは生産量をこうした購買データに基づいてコントロールしており、売れ残りが生じないような値下げ等の価格戦略も講じていると思われる。
今回の+J復活はユニクロにとって何をもたらすのか。ポイントは価格帯のさらなる複線化と高価格帯の消費者層の取り込みではないかと思われる。ユニクロは既にユニクロUやJWアンダーソン、最近ではエンジニアドガーメンツやアレキサンダーワンとのコラボレーションなどによって通常のユニクロより少し高い価格で良いデザインの商品を売ることに成功している。その価格引き上げ幅は1000円程度である。一方で今回の+Jはこれよりも更に高い価格帯になっている。シャツで比較した場合、通常ラインが1900円代、ユニクロUが2900円代に対して、+Jは3990円となっている。つまりデザイン性をより追求した商品であれば、もっと高い価格で商品が売れるのではないかということだ。他のブランドの商品と比較して同じレベル、もしくはそれ以上のレベルの商品であれば、価格を2000円上げたとしてもまだ安い、ということだろう。つまりこれはハイブランドに対する戦線布告なのではないか。シャツで言えばハイブランドでは数万円する。クオリティの高いデザイン、機能性を兼ねた商品を提供しているとすれば、ユニクロはまだ安いのだ。+Jが今後のシーズンでも展開されるのか不明だが、ユニクロのラインに+Jが加わることで3つの価格帯を用意し、デザインも差別化することにより、より高価格帯の顧客層を取り込むことが目的かもしれない。かっこいい服が安く手に入ることは消費者にとってより手軽にお洒落を楽しめることにつながる。今回の+J復活が継続されることが期待される。
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