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「アマゾンの最強の働き方」とその示唆

「アマゾンの最強の働き方」を読んだ。アマゾンが継続してイノベーションを起こし、新しいビジネスを広げてこられた組織運営におけるノウハウが多く詰まっており、示唆に富む内容だった。今回はその中でも印象に残った部分と感じたことをまとめてみたい。

新規事業の成功と工夫

電子書籍マーケットとKindle

もともと物理的な本を販売していたアマゾンが電子書籍のカテゴリーを切り拓けたのは、「シングルスレッドチーム」という形で完全に既存ビジネスから独立した形でプロジェクトを進めたからであり、責任者を1人に定めたからだった。
また、Appleが音楽のカテゴリでipodとitunesという「ハードウェアとソフトウェアの両方を押さえに行った」ことから学び、Kindleを自社で開発し、マーケットプレイスと一体で展開したからだった。
アマゾンには「Working Backwards」という企画手法が確立されており、まず商品のプレスリリースとFAQを整理することでユーザーにどんな価値を提供するかから、逆算して製品を考える。これはアマゾンがデザイン思考をビジネスプロセスの中に早い段階から組み込んでいたことを示す。

アマゾンプライムビデオ

ネットフリックスが動画コンテンツのストリーミングによるサブスクリプションビジネスで台頭する中で、アマゾンは既にリリースしていたアマゾンプライムの会員にコンテンツを提供することで、一気にカスタマーベースを拡大した。
また、上流の独自コンテンツの開発とユーザーの接点である端末Fire Tabletを安価で提供することで、ここでもハードウェアとソフトウェアの両方によるユーザーの囲い込みを図っている。

コミュニティ拡大とAWS

アマゾンもかつては密結合のソフトウェアアーキテクチャであったが、これをAPIによる疎結合なシステム構成にすることによってソフトウェア全体に影響を与えずクイックに改修を実施できる体制を築いた。
AWSはこうしたソフトウェアを開発するインフラをアマゾンが既に持っていたことが有利に働いているが、それ以上に商品アフィリエイトを組み込むためのAPIが開放されていて、これを利用するエンジニアのコミュニティがあったことがキーになっている。エンジニアに対して、それまでのオンプレミスのサーバ調達の苦労から開放することが目的であり、従量課金も実際の開発者の利用の仕方を見て、何が大きなコスト変動要因になるかを踏まえて決められた。これもWorking Backwardsに従っている。

組織運営における工夫

組織構成

アマゾンでは前述の通りシングルスレッドチームを作り、責任者であるリーダーを定め、そのプロジェクト専任・独立にすることで、他部門の影響を受けず、自律性を担保することで新規事業を成功させている。
また各プロダクトのカテゴリーにはビジネスサイドのリーダーとエンジニアリングのリーダーの両方が位置付けられており、両輪になっている。

採用

採用においてはバーレイザー制度によって、常に社内の人より優れた点を一つ以上持つ人を採用する。これにより、より高い水準の人材が常に採用されるようになっている。採用面接においては、認知バイアスがかからないように工夫するとともに、具体的なシチュエーションでどのような役割を果たしたか、行動ベースで候補者を評価する。

会議の進め方

会議のプレゼンテーションもパワーポイントなどでは因果関係等が十分追うことができず、判断にバイアスがかかるため、議題を6ページの文書にまとめ、冒頭20分でそれぞれ黙読してから議論を始める。こうすることで同じ文章に基づいて認知を揃えて議論することが出来る。

データ分析

アマゾンでは売上などのアウトプット指標で事業を評価するのではなく、自社でコントロール可能な「インプット指標」で事業を評価する。品揃え、価格、利便性の指標は自社でコントロールできるものであり、その改善があアウトプットに結果としてつながるからだ。アマゾンプライムも「配達日数」と「配送費」という変数がユーザーの利便性を左右するため、これをどのようにして改善するかのアイデアの中から生まれた。

示唆

上記に挙げたものは本書で語られている中の一部だが、自分が読み進める中で印象に残った点だ。
アマゾンの新規ビジネス拡大は既存の資産を上手く活用しながら長期的なビジョンに基づいて大胆に投資していることが成功につながっている。
そしてそれを実現する上で、個人のリーダーシップや責任の明確化を実行するとともに、なるべく認知バイアスにとらわれず、正確に状況を把握しようという姿勢が組織の仕組みとして働いていることがわかる。
加えて、アマゾンの顧客第一主義は、デザイン思考がビジネスプロセスに反映されていることを表しており、アマゾンこそデザイン経営を実践してきた企業であると言える。
デジタル、データ、デザインの3つを消費者に対しても組織内部に対しても上手く活用する組織を作り上げることによってアマゾンがここまで成長してきたことを改めて知ることができたとともに、行政を含め、全ての組織にそれが求められていると言える。
本書でも書かれているリーダーシッププリンシプルも参考になる。


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