見出し画像

ファッションのフラット化とアーカイブ・古着ブームの関係

日本での古着ブームは過去90年代に起こったが、現在再度古着のブームが来ている。これはいくつかの要因によるものであると考えられる。今回は過去の古着ブームとどのように文脈が異なるのか見ていきたい。

SDGsによるリユース志向の高まり

1つの要因としてはファッション産業における大量廃棄の問題がある。コレクションブランドではブランド価値を毀損しないように売れ残ったアイテムをセールで叩き売りすることはしないため、大量に廃棄が行われている。最近では会員限定のオンラインセールサイト等で販売するブランドもあるが、リメイクして再販するようなブランドも増えてきた。こうした中で環境配慮の観点から古着も最注目されているというのは1つのトレンドだろう。なるべく新しい服を買わず、古着でも良いものを着ていこうという発想だ。
加えて、メルカリを代表するように個人間の売買がモバイルを通じてパソコン時代より民主化されたことも大きく影響している。自分の所有物をシェアするように売る時代になったことが、ファッションにおいても言える。
こうしたP2Pの売買サービスはある程度ものがある先進国で中心に普及していると聞く。シンガポールのCarouselというフリマアプリはアジアでも香港などをターゲットに進出しており、メルカリもアメリカに進出しているのはこうした背景があるからだろう。このように先進国の循環経済が古着の流行の大きな流れを作ったと言えそうだが、果たしてそれだけだろうか。

90年代の日本ブランドの再評価

これまで古着といえばより古いものの価値が高いといったところがあり、欧米の服が流行の中心だった。90年代は軍ものやジーンズ、スニーカー、ヨーロッパ古着などが盛り上がっていた。また、ブランドでもヴィトン、エルメス、シャネルなどの高級ブランドが古着市場の中心だった。2000年代以降、日本ブランドも扱う古着店としてラグタグなどが出てきたほか、StussyやSupremeなど、海外のストリートブランドの古着も広がっていった。
一方で最近のアーカイブブームでは90年台の日本発ブランドの再評価が進んでいる。30年経って、かつての裏原宿の文化や、日本でも新進気鋭だったブランドがある意味歴史になったということだ。自分も好きなUndercoverに止まらず、Number Nine、Hectic、Good Enough、 A Bathing Apeなどの古着が高値で取引されている。これはある意味その時代が1つの時代を作ったということであり、現在のラグジュアリーブランドのストリート化のルーツがそこにあることも影響しているかもしれない。詳しくは以下の記事も見てもらいたい。

ファストファッションを中心にファッションが画一化していく中で、90年代から2000年代の日本のストリートウェア、コレクションブランドの作り込みや、数の少なさによる希少価値は、現代の人のファッションの差別化につながる。なおかつ当時のブランドに「着られる」と「格好いい」を両立したデザインが多いからこそ、今でも色あせず若者でも着られる。こうしたブランドのアーカイブを専門に扱うショップも出てきている。

インターネットを通じたファッション情報のフラット化とリアルへの欲求

今やファッションもeコマースが中心となり、その傾向はコロナで更に加速したと言える。インターネットで検索すれば、新品の服も古着も全て同じ画面で並列な選択肢として我々には見える。現代においてファッションはその服が持つ意味や文脈と共に買う人と、全くそうした潜入感を持たない人の二極化を引き起こしている。しかしながらこの両方を引き起こしているのはインターネットのフラットさにあると言える。前者の人たちは全てのファッションのストーリーをウェブ上で深く読み込み、その意味を味わいながら服を買う。このため年代は関係なく、ストーリーが自分に響けば響くほど欲しくなる。後者の人たちには服のデザインが全てフラットに比較されるため、本当に気に入ったデザインであれば古着であろうが、新品であろうが構わない。こうした中で古着が新品の服とフラットに並んでいるのが現代なのだろう。
しかし、そこには実はインターネットからこぼれ落ちているものがある。それはインターネットに上がっていない古着の情報だ。これらの情報は本や雑誌にしか残っておらず、また商品もインターネットに出回ることが少ない。つまり、リアルでしか発見できないものの方が希少性が高く、差別化できるものとなっているということだ。前述の日本ブランドのアーカイブや、レアなスニーカーの情報などは当時の雑誌にしか掲載されていないといったことも多い。こうした状況がある意味、リアルでしか買えない、発見できないというインターネットにない体験を提供している。古着屋で気に入った服を見つけた時の喜びはかつてもあったが、世界がインターネットによりバーチャルに拡張されたことによって、リアルでのその喜びが相対的に大きく感じられるようになったということだろう。

ここまでで見てきたように現在の古着ブームというのはただ単に循環経済がブームになったということだけではなく、日本のファッションがある意味1つの時代を築いたこと、インターネットの普及によるリアルにしかないものの希少性、体験価値が高まったという、歴史的、構造的な背景もあると言えるのではないか。こうした視点も持ちながら日本のファッションを現在行われている国立新美術館の展示で見ても面白いかもしれない。


引き続きご関心あればサポートをお願いします!