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デジタル時代に直面する行政組織の課題(私見)

この1年くらい行政組織のあり方について以前よりもフォーカスして考える機会が多い。その中で改めて行政組織の非効率は何によって生み出されているのか、思うところがあるので自分なりに整理してみたい。全ては行政組織の経営に問題があるというのが自分の立場だ。

経営感覚のない行政組織

企業経営においては事業戦略を立て、それに合わせて資本と労働力を配分することが求められる。行政組織においては事業戦略=政策の基本方針、資本=事業予算、労働力=行政官の人数*能力と考えられる。
しかし、そのそれぞれの要素に関して現状の行政組織には欠陥があるように思われる。

1. 事業戦略に優先順位が付けられているのか

そもそも行政組織の戦略の多くは総花的かつ前年度からの継続性を意識するあまり、ほとんど戦略になっていないのではないか。これは各部局の声に対して意思を持って優先順位付けする人が行政組織に限られているからである。その権限を持っている人すら、それを行使していないのではないか。
政策の連続性を意識するあまりに、時代の変化に合わせて優先順位付けをするという視座が欠けている。
また自らの行政組織のミッションやバリューを言語化できていないが故に、組織として何を価値基準に判断したら良いのかの軸がない。

2.外注による事業費執行と少ない組織運営費

行政組織の予算を考えた場合に①事業費と②組織運営費の2つに大きく分けることができる。

①は、政策を実現するために投下される費用であり、ほとんどが政策目的を持った資本の市中への再配分に費やされ、多くは外注することによってその配分が実施される。しかしながら外注の結果として施策実施のナレッジが組織に蓄積されず、効果的に政策を届ける方法を行政組織が理解していない。ナレッジが蓄積されないので、行政官はどういった事業者に発注したらより効果的に政策を届けられるかという目利きも十分できていないのではないか。

②は公務員の人件費や、職場の生産性改善のための経費であり、これまで無駄削減の名の下に絞り込まれてきた。加えて、ITに関するスペシャリストが組織内に十分いない結果として、IT投資による業務の効率化が軽視され、行政官の能力に依存し、酷使することによって、オペレーションを成立させてきた。つまり組織のパフォーマンスをIT投資(生産性向上の投資)の代わりに残業代(人的労働)に投下することで維持し、生産性の改善を行なって来なかった。
公務員の残業の多くはこの帰結であり、そこに手を打って来なかったツケが若手官僚の退職増加である。

3.行政官は万能であるという虚構

予算の効果的な利用は組織内部にいる人材の能力に依存することは2.の記載の通りである。①効果的に予算が利用されず、望ましい形で政策が国民に届かない、②行政組織のオペレーションの生産性が上がらないことの理由は、それぞれに対応する能力を持った人材の欠如である。

①が生じる理由はそもそも行政官が2年程度のローテーションで変わる一方、各政策分野の専門性は深化している中で担当者が持てる専門性に限界がある。故に行政官にとっては何が効果的な政策かを特定することが難しい。

環境変化が早い中、餅は餅屋で、各政策分野についてドメイン知識を持つ専門家は外部から行政組織に採用することで内部化し、その人材と行政官が連携することで政策を作っていくということが必要である。

外注をする場合でもこうしたエキスパートが内部にいることはより効果的な政策実施につながる可能性がある。特に大きな予算規模を持つ場合には、専門人材を採用して内部化する方が、外注者に支払う事業費も低減でき、費用対効果を高められる可能性もある。

優秀とされる大学を卒業したエリートと呼ばれる人たちが行政官になった結果として、自分達ができないことを認められない、プライドが許さないといった面もあるのかもしれないが、万能な人間などいないことを認め、官僚純血主義を終結させる必要がある。

②についても業務のデジタライゼーションを進めるに当たって、十分なIT専門人材を組織が抱えていないが故に効果的なIT投資が実現できず、生産性を高めることができていない。また、デジタルサービスを前提とした組織となるために内部でもそういった人材を育てる必要があるのに、組織を経営する立場の人間がそれを重要な取組として認識せず、教育に対する投資がなされていない。

バックオフィスの無駄な紙作業は政策担当の行政官の業務負担にもなっており、組織全体の生産性を下げることになる。バックオフィスのIT人材こそ組織の生産性向上にとっては最も意義があるにも関わらず、政策対応を優先してその投資を軽視する、もしくは考えていない行政組織の幹部は多いのではないか。

実は優先している政策対応もバックオフィスのデジタル化を進めた方がよりそちらにリソースを割くことができるようになるということに目を向けていないのではない。またサービス自体もデジタル化することが求められているのにそれに対応しようという努力がなされていない。

4.年功序列から能力主義による組織運営へ

上記の通り、行政組織の非効率を解消するには、何に優先順位を置くべきか、予算をいかに効果的に執行し政策を届けるのか、外部人材の登用、人材育成、IT投資などを通じて組織の生産性をいかに高めるのかなどに課題がある。

その解決として、
1)組織のミッション、ビジョン、バリューを再度定義し、それに従い資源配分の優先順位を考える
2)専門性に優れた能力を持つ人材を組織内部に取り込み、プロパー行政官と協働する環境を構築することでパフォーマンスを上げられるようにする
3)デジタル技術の活用を通じて非効率な業務を自動化し、より付加価値の高い業務に職員が取組める環境を整備する
といった形で行政組織をリニューアルしていく必要がある。

これらの取組を進めるにあたり、加えて考えなければいけないこととして、年功序列の見直しがあると思われる。

例えばデジタルの分野に関する意思決定はデジタルネイティブな若手の方が適切な判断が可能かもしれない。
この20年でインターネットによって世の中が大きく変わったことを考えれば、それに大きく影響を受けた人とそうでない人の間には大きな考え方の差が生じる。当然、年配であってもその重要性を理解できる人もいるかと思うが、これが各職位のレベルで影響していると考えるとその影響は計り知れない。

民間IT大手企業でも早期退職をシニアクラスに求めるケースが出てきているが、新しい環境に適応した意思決定を現状のシニア層ができていない、リスキルにも限界があるといった課題を乗り越える手段としてこれが取られていると思われる。

意思決定権者が適切な判断ができないことは組織のパフォーマンスを著しく落とすことになる。環境に合わせて意思決定を早くするためには人材の成果とポテンシャルを見極め、年齢に関係なく優秀な人材が意思決定していく仕組みを組織内に構築しなければ、改善が見込まれないだろう。少なくとも今後デジタル化を注力する行政領域についてはこうした人事を進めるべきではないだろうか。

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