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組織カルチャーの浸透圧

経済産業省で行政サービスのデジタル化を進めるに当たって、はじめにやったことのひとつは、民間企業で活躍してきたITエキスパートを採用してチームを作ることだった。

2018年から取組を進め、専門職非常勤という形で採用を進め、彼らが働きやすいカルチャーづくりを推進してきた。このチームは現在でも引き続き進化を続け、省内のデジタル化を推進するためになくてはならない存在となっている。

元々は情報プロジェクト室という原局の一つの室であったが、現在では大臣官房のデジタル・トランスフォーメーション室として位置付けられ、名実ともに組織をリードする存在となり、ITエキスパートのメンバーも拡大している。

このチームがワークするためには、行政官とITエキスパートが対等な立場で効率的に働けるカルチャーを作ることが重要であることは以前以下の記事でも書いている。

一方でこうしたカルチャーを組織全体に広げるにはいまだにハードルがある。経済産業省本省だけで4300名近い人材がいるのに対して民間出身のITエキスパートは20名(0.5%)に満たない程度である。

デジタル化を通じた業務効率の向上や、IT企業のような効率的なワーキングカルチャーを広げようとしても、長年新卒のプロパー人材を中心に続いてきた行政組織にこれを広げることは、経済産業省であっても大きなハードルを感じる。

一方で現在デジタル庁は800名近くの組織であるが、その3分の1以上が民間企業出身のプロフェッショナルになっている。

デジタル庁内でも当初は行政職員と民間出身の職員のカルチャーにはギャップがあったが、職員の努力によりこれがかなり埋まってきているように感じる。そこにはさまざまな努力があるのだが、詳しくはこちらのデジタル庁のnoteを見てもらいたい。

ここで思うのは、例えばデジタル庁に民間企業出身者が1桁だったら、同じような新しい組織カルチャーの形成ができたのかということだ。

当然新しい組織であるから、新しい取組をしやすいという面もある。しかし、プロパーの行政職員が多ければ、これまでと同じような行政組織のカラーを色濃く反映した組織となり、現在ほど様々なカルチャー醸成の取組をスピーディーに実行することは難しかっただろう。

何が言いたいかと言えば、組織の柔軟性を高めたければ構成員の均質性を大きく変えることが有効であるということだ。多様性の重要性の1つもこの点にある。

新卒採用を中心とした職員が大半を占め、同じ業務のやり方や考え方を維持しようとする人が多ければ、少し外部の人材を入れる程度では組織の変革は非常に難しい。それではカルチャーの浸透圧が低く、化学反応も起きにくいのだ。

これまで組織が持たない能力を持つ人材を受け入れるために組織を変えていこうという力が十分働くためには、それなりの割合の人材が外部から流入する仕組みを作らなければいけない。
ある程度の割合の外部人材が流入することで、それまでの同質性が見直され、人材間の新しい化学反応をより強く働かせることができる。現状の組織に対して外部のカルチャーが流入しやすくする浸透圧を高めるのだ。

当然その過程には衝突もあるが、これをどのように緩衝し、着地させるか、新しいカルチャーを見出すかがマネジメントの役割である。

行政組織に限らず、既存の大組織の多くは、外部の人材が多く流入することで組織が壊れてしまうのではないかという不安からこれに取り組めないケースが多いと思われる。
しかし、現状の組織に市場に対応する能力がない、ビジネスに最適化された組織になっていないなら、組織自体のあり方を見直さなければ存続はない。

人材の流動性の高さが、社会全体の生産性を高めるといったこととも繋がっている。
シリコンバレーから多くの巨大テック企業が生まれたのは、グロースハックをある企業で実現した人材が転職し、他の企業で同じことを再現することによってそのやり方が伝播していくといったことが起こっているからであると思われる。
組織能力をどうやったら高めることができるか、どんなカルチャーを組織に形成することがパフォーマンスを高めるかを外部から流入した人材が教えてくれるのだ。

いきなり組織の大きな割合の人材を入れ替えるといったことは確かに大きな組織崩壊のリスクを伴う。デジタル庁で最初期に起きた危機は、まさにそのカルチャークラッシュによるものだった。

しかし、その組織に足りない能力を整理し、それを補う人材採用のロードマップを描き、段階的に外部人材が活躍できる領域を拡大しながら、組織カルチャー自体も変えていくといったことは可能なのではないか。

現在、行政組織でも職員の退職が増加しており、新卒のプロパー職員採用だけでは組織能力の先細りは免れられない。
また、だからと言って中途採用の人材に現状の硬直的な行政組織のカルチャーで働くことを強要するなら、その人たちの能力は発揮されず、また辞めていくことに繋がってしまう。

デジタル庁もまだ発展途上であり、試行錯誤を繰り返しているが、そこで行われている組織づくりは、今後の行政組織のあり方の変革に対してのヒントをもたらすのではないかと考える。


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