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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第18話『少年たちの決意』

赤。

青。

緑。

黄。

音に合わせて照明が輝きステージの上を彩る。

そこには英雄たちがいた。

——ベースのユウさん。

髪は金髪でイケメン。前髪は少し長め。その甘いマスクから女性ファンも多い。

何より観客を釘付けにしていたのはそのステージング(ステージ上での見せ方)だった。

ベースを弾きながら回転したり、ジャンプしたり、ネックを逸らして音のタインミングで振り下ろしたり。

ステージの上を華麗に舞っていた。

——ギターのヨウイチさん

身長が高めでスタイルがいい。黒髪でキリッとした瞳。

ユウさんほど情熱的なステージングではないが、とにかくギターが上手いのとコーラスの歌声がとても美しい。カネムラさんのボーカルを力強く支える。どこか独特の世界観を感じられる人だった。

——ドラムのサダオさん

柔らかい表情をしているが体格がとても良い。そしてドラムもパワフルな演奏だった。

まるで大地を揺れ動かすような、バス、スネア、シンバル。

そしてステージングも素晴らしく、途中でドラムスティックを回転させたり、音楽を楽しんでいるという感じが誰よりも伝わってくるのがサダオさんだった。

——ギターボーカルのカネムラさん

カネムラサンはギターの位置がかなり低く、それもまた格好良さを演出している。何よりこれだけ凄いメンバーがいるのに結局観客はカネムラさんに釘付けになる。

それはもはや「オーラがある」という言葉を使うしかない。

そんな英雄達が集結して、スタンディングオベーションというバンドを作っていた。

僕たちは興奮が止まらなかった。

鳥肌が立ち、何度も心を揺さぶられる。

全く曲なんて知らなかったけど、他の観客と同じように僕たちも瞳を輝かせ、手を掲げ、声を張り上げる。

そんな中、一曲目が終了した。

拍手と歓声。

そして、急に静けさが訪れる。

………
……

ティー ティーン ティーン
ブーン ブー ブーン

メンバーはそれぞれチューニングを始める。

カネムラさんはドラムセットの前に置いていた水を飲み、再びマイクの前に立つ。

そして、少し息を切らしながら話し始める。

「俺らはさ、バカなんだよ……」

観客の視線がカネムラさんに集中する。

「けど、そんなバカでもさ。お前らの記憶に今日っていう思い出を作ることはできる!」

その言葉の後、観客が沸いた。

「楽しんでるか?」

「おー!!!!」

「楽しんでるかー!?」

「おー!!!!!!」

「楽しんでるかーー!!??」

「おー!!!!!!!!」

「ぶちかますぞーネバーランド!!ナマステーーー!!」

曲名を聞いた途端さらに歓声が大きくなる。

え?ナマステって確かタツタが言ってた……。

そして、ヨウイチさんのギターフレーズから曲が始まる。

ジャージャジャージャジャージャジャージャジャッジャッ
ジャージャジャージャジャージャジャージャジャッジャッ

「かっこいい……」

僕がそんな言葉を漏らしたのも束の間、カネムラさんのピックスクラッチ(ピックで弦を引っ掻くように動かして音を出す奏法)をきっかけにAメロがスタート。

全ての楽器隊が一気に加わる。

歌詞は英語だった。

意味も全く理解出来ない。

けど、なんかそんなんじゃない……。

バンッッッッッ

楽器隊が一気にブレイク(演奏を一時停止すること)

そしてカネムラさんが……

——叫んだ。

「ナマステーー!!!!」

再び楽器隊が全て加わる。

「ナマステーー!!!!」

カネムラさんが叫ぶメロディと共に、観客の盛り上がりも最高潮に達する。

みんな激しく体を揺らす。体がぶつかる。
もう何もかもがお構いなしでどんどんぐちゃぐちゃになる。
さらにはダイブする人も現れて他の人がそれを支える。
またぐちゃぐちゃになる。

激しすぎる光景。

けどそれが最高で

それがなんか。

——生きてるって気がした。

          ◆◆◆

ライブが終了してスタオベが控え室から観客がいるホールに登場する。

そしてあっという間に観客に囲まれ、メンバーは楽しそうに話しをしていた。

ユウさんも。

ヨウイチさんも。

サダオさんも。

そしてカネムラさんも。

全員が何かをやり切ったような、とても清々しい表情をしていた。

それが格好良くて。

それが眩しすぎて。

気がつけば言葉にしていた。
         
「俺らもさ……あんなスタオベみたいになろうや」

恐らく他のメンバーも全く同じことを感じていたのだろう。

「あぁ、絶対なってやろ」
「いけるっしょ」
「おう」

イトウもタツタもクオリもそう答える。

僕たちはまだ見ぬ未来の自分達の姿を思い描く。

そしていつか必ず辿り着いてみせると。

心に誓った。

つづく

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