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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第22話『扉の向こうへ』

僕たちは待機していた。

分厚い扉の前。

奥からは場内のBGMがうっすらと聞こえる。

会場には既に観客がいるに違いない。
果たしてどれだけの人数がいるのか。

そんな事も今の時点では全く分からない事がさらに僕たちの緊張に拍車をかける。

——スタオベのライブを見てから1ヶ月後。

クソガキは今ネバーランドの控室にいる。

イトウはギターとエフェクターボードを持ち。

タツタもベースとエフェクターボードを持ち。

クオリはドラムステックとペダルを持ち。

僕はブルースハープをポケットに仕込んでいた。

それぞれ楽器を持っていつでも登場できるようにスタンバイしている。

次の瞬間。

場内のBGMの音量が上がった。
登場の合図だ。

「よっしゃークソガキいくぞー!」

とイトウは言い。

「「「「おーっ!」」」」

と、気合を入れる。

僕たちはステージへと続く扉を、力いっぱいに開けた。

          ◆◆◆

「「「「おはようございます!」」」」

そう言って、僕たちはネバランに会場入りする。

スタッフの人たちが「おはようございます!」と挨拶を返してくれて、僕たちは荷物を一旦隅のほうに下ろす。

今日は楽器だけじゃなくてCDを準備した物販用のケースをある為なかなかの荷物だ。

あたりを見渡すととても広く感じる。

前に来た時はスタオベのライブで人が大勢いたから、今は人が少なくて余計にそう思うのかもしれない。

「あーあーワン、ツー、ワン……」

正面のステージではリハーサルが行われていた。

ギターボーカル、ベース、ドラムの3人編成バンド。

全員男でもしかすると僕たちと同じ高校生かもしれない。

ギターボーカルの人は自分のマイクをチェックし終えた後に元気よくマイクに向かって話す。

「3ピースバンドのサニーボーイです。今日はよろしくお願いします!」

その言葉の後。

シャーン シャーン シャーン シャーン

とドラムのハイハットが響き、一斉に楽器隊加わる。

………
……

「凄っ」

僕がポロッと言葉を漏らすと隣で見ていたタツタも。

「やば、普通に上手いな」

「何か余計に緊張するわ」

「確かに」

と僕たちは素直に焦る。

今日は全部で5バンドが出演する。
自分達以外のバンドを意識しないはずがない。

しばらくして「次はクソガキさん、お願いします!」と、声がかかり僕たちは楽器をケースから出してステージに上がる。

僕はステージに立ち会場を眺める。

まだ観客は誰もいない。

スタッフさんや対バン(他の共演バンドの事)の人が何人か見ているぐらい。

それでも興奮が止まらなかった。

初めてのライブハウスのステージ。スタオベが立っていた場所。その場所に今自分たちが立っている。

他のメンバーも緊張しつつも、どこかワクワクしたような表情をしていた。

それぞれがチューニングなどの準備が終わるとPA席から声がかかる。

「じゃあドラム、バスドラからお願いします」

あ……これって。

そう。この流れは先日、レコーディングでヨシユキさんから指示されていた事と同じ。

ドラム、ベース、ギター、ボーカルの流れでそれぞれ音出しをして、音響さんが会場で聞こえる音を調整する。

改めてレコーディングをしておいて良かったと思う。

あの経験は確かにメンバーの力になっていた。

そして、僕の声とブルースハープまでチェックが終わると、

「じゃあ次は曲でお願いします。1コーラス(1番のサビ終わりまで)でお願いします」

と次の指示がかかる。

僕たちは「片想いでいこか」と少し会話をして、再び正面へと向き直す。

カン カン カン カン

とクオリはスティックで4カウントを鳴らし、曲がスタートする。

………
……

「ありがとうございました!今日はよろしくお願いします!」

とスタッフさんに挨拶をしてリハーサルが終了する。

何だかリハーサルの時点で色々と疲れてしまった。

全5バンドでクソガキの出番は2番目。

今から本番まで約2時間ほど時間がある。

イトウが「なぁマクド行こうやーネバランの前にあったで」と安定のデブキャラの発動させていると、ふいに声がかかる。

「あのークソガキさんですよね?」

「そうですけど…あ、さっきの!」

「はい、サニーボーイです」

話しかけた人物はさっきリハーサルをしていたサニーボーイのボーカル。

とにかく爽やかな雰囲気でめちゃくちゃ愛想がいい。

「僕はケンイチ、ギターのマナブ、ドラムのヒサです。今日はよろしくお願いします」

近くにいたマナブとヒサも僕たちにペコリと頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします」

「頑張りましょ」

とタツタもクオリも頭を下げる。

イトウはマクドの事を一旦除外して質問する。

「もしかして高校生ですか?」

「はい、高2です」

「おぉー僕らと同じですね!」

僕はテンションが上がる。 

「そうなんですね、ちなみに今日スリーマインドってバンドも出るんですけどそいつらも高2です」

「すげぇーめっちゃおもろいな。じゃあ、タメ声でいこ」

「せやね」

とタツタとケンイチ君は盛り上がる。

「どうもお疲れ様です」

そこへ新たな4人組がやってくる。

「おぉ、ちょうどみんなの話しててん。今日対バンのクソガキさん」

「どうも、スリーマインドです」

と、また新たな4人組も頭を下げる。

ギターボーカル ユウタ
ギター タクヤ
ベース タクマ
ドラム オカジ

僕たちは全員高校二年生。その後も色々な話をして楽しんでいた。

「クソガキ」「サニーボーイ」「スリーマインド」

後にこの3バンドは最大のライバルになっていくのだった。
          ◆◆◆

あっという間に時間が過ぎ、僕たちは最後の準備に取り掛かる。

後ろのテーブルにクソガキの物販コーナーを設置。

1stシングル「片想い」のCDをいい感じに並べていく。

2曲入りで500円。

昨日はイトウの家でずっとジャケットや歌詞カードをコピーしたりとやる事ばかりだった。

けど、そのおかげで今日は全部で50枚のCDを持ってきている。

売れる事を願うばかり。
そして、以前からの課題だった集客。

僕たちはそれぞれケータイを向き合い、来てくれそうなお客にもう一度確認の連絡を取る。

タキタニと校門前で言い合いになってから、僕たちはさらに燃えていた。

絶対に成功させる。

そんな思いから集客もできる限り力を注いだ。中学の時の友達なんかにも声をかける。

僕もシンとナリとゴッドにはもう声をかけてある。みんな来てくれるとの事で本当に有難い。

——そして、ライブが始まった。

1番目のバンドがライブをしている間、僕たちは控え室で準備運動や最終確認をして出番を待つ。

そして1番目のバンドのライブが終了。

荷物を片づけて控え室を後にする。

次はいよいよクソガキの出番。

それぞれがふーっと息を吐きながら椅子から重い腰をあげる。

僕たちは待機していた。

分厚い扉の前。

奥からは場内のBGMがうっすらと流れている。

会場には既に観客がいるに違いない。

果たしてどれだけの人数がいるのか。

そんな事も今の時点では全く分からない事が、さらに僕たちの緊張に拍車をかける。

スタオベのライブを見てから1ヶ月後。
クソガキは今、ネバーランドの控室にいる。

イトウはギターとエフェクターボードを持ち。

タツタもベースとエフェクターボードを持ち。

クオリはドラムステックとペダルを持ち。

僕はブルースハープをポケットに仕込んでいた。

それぞれ楽器を持って、いつでも登場できるようにスタンバイしている。

次の瞬間。

場内のBGMの音量が上がった。
登場の合図だ。

「よっしゃークソガキいくぞー!」

とイトウは言い。

「「「「おーっ!」」」」

と僕たちは気合を入れる。

僕たちはステージに続く扉を開けた。

バンド「クソガキ」のライブが今始まる。

つづく

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