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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第24話『戦友たちの宴』

「「「「乾杯ー!!!!」」」」

飲み会でのお決まりの挨拶。

大人達はビール片手にグラスをコツンと当てたりするが、高校生である僕たちは……こっそりと……ひっそりと……未成年だということがバレないように……いや、もはやそんな配慮は完全になくなり盛大にグラスをコツンと当ててビールをたしなむ。

そして全力で盛り上がっていた。

ライブの打ち上げ。

場所はネバーランドの近くにある小さな居酒屋。

以前からクソガキのメンバーでよく来ていたのだが、今日はいつもとかなりが顔ぶれ違う。

——サニーボーイとスリーマインド

同じ同学年バンドもビール片手に楽しんでいた。

「いやーマジでクソガキ良かったわー」

「確かになーそれにちょっと焦ったし」

「ジャンル的には似てるもんな」

【サニーボーイ】ボーカルのケンちゃんとギターのマナブ。ケンちゃんは甘いマスクで人当たりがよく、マナブは身長が高くてスタイルがいい。

「なぁ、ヒサ?」

ケンちゃんがドラムのヒサに話を振る。

「ダイちゃん。この餃子めっちゃ美味いな!」

「まいうー!」

「……お、おぅ」

苦笑いのケンちゃん。
そこではデブの会が繰り広げられていた。

ドラムのヒサは低身長デブ。

ちなみにこの頃から、イトウのあだ名は「ダイちゃん」とか「ダイスケ」とかって名前で呼ばれるようになった。

当時、世界仰天ニュースというテレビ番組に出演していた、体重200キロの加藤大にやたら似ているとクラスで言われた事からこのあだ名がついた。

僕が何となーくそんな様子を眺めていると。

「もみぃの曲もめっちゃ良かったわ」

【スリーマインド】ギターボーカルのユウちゃん、これまた高身長でイケメン。かなりモテているだろう。

ちなみに僕はいつの間にかもみぃと呼ばれるようになった。
地元のあだ名がまさかこんなところまで広がるとは。複雑な心境。

「あぁー片想いー♪」

「落ちては溶けるー♪」

「おぃおぃ歌うな歌うな」

ギターのタクヤとベースのタクマが、他バンドの曲を歌うという新手のイジリに僕は速攻つっこむ。タクヤは少し大人びて控えめな雰囲気。ベースのタクマはメガネをかけたお調子者だ。

僕はビールを一口飲んで、素直な気持ちを言った。

「……俺は逆にスリーマインドが羨ましいわ」

「何でなん?」

ユウちゃんが反応する。

「あんな英語の歌詞とかスタオベみたいでカッコイイし。それに……」

「それに?」

「何かイキってるし」

「おいおいイキってるとかやめろよ!」

さっきまで唐揚げを食べていたドラムのオカジーが大げさに突っ込む。短髪で濃いめの顔。軟骨にピアスをつけていたり何気にオシャレ。

「俺らはそんなおしゃれな感じは無理や」

「そうそう。熱くいこ!」

僕とタツタは肩を組み宣言する。

「あの二人はどんどん熱苦しくなっていくけどなー」

クオリがそう言い、僕たちはクオリの目線の先へと振り返る。

「ヒサ!次はラーメンや!」

「あいよ兄貴!」

デブの会がさらに盛り上がり、謎の兄弟同盟が結ばれていた。

それを見て僕たちは笑い合う。

何かいいなって思った。みんな音楽で繋がってる。お互いのバンドをちゃんと評価してこの場を楽しんでる。あんまり人が多い空間が苦手な僕もこういうのはいいなって素直に思えた。

あぁ……ちょっと酔ってきたかな。
僕は当時からそんなに酒は強くない。

ケンちゃんが急に声を張り上げる。

「あ、スリーマインドは出演するやんな?」

ユウちゃんはだし巻き卵を食べていた手を一旦止めて。

「あぁ、1ヶ月後のやつ?」

「そう」

「出るに決まってるやん!」

二人は目を合わせニヤリと微笑み。

「「ティーンズ!!」」

と声を上げた。

ん? なんじゃそれ?

僕は全く訳ワカメ。

「何なんそれ?」

ダイスケ(ここからはイトウをダイスケと呼ぶ)がラーメンをジュルジュルとすすりながら質問した。

「でかいバンドの大会やで」

ケンちゃんが言う。

——ティーンズミュージックフェスティバル

10代限定の音楽の祭典。

全国16の都道府県で地区予選を行い、地区大会の上位入賞者が東京で行われる全国コンクールに進出する。そこで優勝すればインディーズデビューの権利が与えられる。

それは高校生バンドたちにとって、まさに夏の甲子園だった。

ちなみにここで打ち明けると僕たちは奈良県出身。
1ヶ月後にティーンズの奈良県大会があると言う。

「え……すっげぇ」

僕は素直に口にする。

「おぉーそれめっちゃいいやん。全国で優勝したらインディーズデビューか!」

タツタはテンションが上がる。

「うん、ダイスケ。俺らも出よや!」

クオリも興奮してダイスケに話を振る。

「まいう?」

「まいう?」

ダイスケとヒサは口に食べ物をパンパンに頬張り、もはや別世界の住人と化していた。

「もりちゃん」

「おぅ」

僕とタツタは立ち上がる。さぁ、処刑の時間だわっしょい。

「あーごめんごめん!俺らも出演しよ!」

慌ててダイスケはそう言いクソガキの出演が即決定。
こんな感じでもダイスケはリーダーなので、みんな彼の意見を尊重する。

「ちなみに去年、県大会で優勝したバンドってどこやと思う?」

オカジーが何やらニヤニヤした表情でそう言う。うん、顔が濃い。

「え、どこなん?」

僕がそう聞くとケンちゃんが誇らしげに瞳を輝かせて。

「……スタオベやで!!」

「「「「えーそうなん!!」」」」

クソガキ全員が驚く。

「次の大阪大会では負けたらしいんやけど、奈良県で優勝しただけでも一気に知名度が上がったみたい」

憧れのスタオベが去年の優勝バンド。
もしかしたら近づけるかもしれない。

「これは……優勝せなあかんな」

僕の心の中で沸々と熱い何かが燃え上がり始めた。

それに反応してスリーマインドのユウちゃんが。

「じゃあ戦いやな」

サニーボーイのケンちゃんも。

「俺らも負けてられへん」

そしてクソガキの僕も。

「いや、俺らが勝つから」

とみんな闘志を燃やす。

ダイスケもその空気に乗って声を上げる。

「じゃあ正々堂々、1ヶ月後の奈良県大会。思いっきり戦おうや!」

「「「おー!!!」」」

少年たちの表情はキラキラと輝き、夢と希望に満ちている。

熱い夜はいつまでも続いた。

つづく

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