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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第21話『軽音楽部』

「どうしよか……」

部室の机の上にはチケットの束。

そこにはクソガキの名前が書かれている。

ネバーランドからチケットがイトウの家に届き、ようやく自分達もバンドとして認められたような気がして僕は嬉しかった。

しかし、何やら空気が重い。

「……ぶっちゃけどう?」

イトウの問いかけに対し、

「いやー……」
「まぁー……」
「せやなー……」

と、タツタとクオリと僕はそれぞれに、首を傾げたり頬を掻きながらお茶を濁す。

「おいおい、もっと自信持って行こうやー」

とイトウがおちゃらけて言うので、僕も反撃の狼煙を上げる。

「じゃあイトウはどうなん?」

「え、俺?うーんまぁなー……」

と結局、同じような言葉が返ってくる。

絶望。これはバンドとしては大問題だ。

僕たちクソガキが何に頭を悩ませているかというとそれは集客だった。

——1枚2000円で20枚ノルマ。

ネバーランドの人と話をして、クソガキが出演する際の条件がこのように決まった。

つまり、1枚も売る事が出来なければ40000円の赤字。
逆に20枚を超えるとバックと言って1枚につき500円が売り上げになる。

単純計算で4人のメンバーで割れば1人が5人にチケットを売ればノルマは達成。

しかし、これは一筋縄ではいかなさそうだ。

と言うのも、今の会話で気付いてしまった。
つまり残念ながら僕たちには。

——人望がない。

これは僕だけだと思っていた。

しかし、よくよく考えるとイトウもタツタもクオリもそれぞれ癖が強くて、あまり友達が多いという感じでもなかった。

それに加えて二年になり人間関係も新たにリセットされた為、もはやみんな条件は同じ。友達いない軍団クソガキ。

「さぁ、どうしよ?」

イトウは苦笑いを浮かべる。

「流石に自腹は嫌やなー」

タツタは嘆き。

「けど、売るしかないやろ?」

僕は強がり。

「……あーどうやって?」

クオリは素朴な疑問を口にする。

一同がうーんと悩み続けている中、

「あ!」

と、タツタが名案でも閃いたと言わんばかりに表情を明るくして口にする。

「校門で宣伝しよか?」

タツタは口角をニヤリと上げてみせた。

          ◆◆◆

放課後。

僕たちは校門前に待機し、部活終わりの下校する生徒に声をかける。

「軽音楽部ライブしまーす!」

「見に来てくださーい!」

どうにでもなれ。僕はもうヤケだった。

ノルマを達成できないのは嫌だ。

けど、それ以上に当日観客が少ないというのも、僕たち自身のモチベーションが下がってしまうので何とか一人でも多くの人に来てもらいたい。

先手必勝。

僕とタツタはアイコンタクトをしてこくりと頷く。
早速二年生になった権力を行使する時が来た。

ピッカピカの一年生を捕まえて。

「なぁ、俺らのライブ行きたいやろ?」

「行きたいよな?」

「え……あ……」

うん、カツアゲみたいな感じになっていた。

案の定1年生は「すみませーん」とビビって逃げていった。

僕とタツタは首をかしげる。

「何があかんかったんやろ?」

「本間やな」

「二人とも何してんねん。まじめにやろうや」

「「へーい」」

僕とタツタは普通にイトウに怒られわちゃわちゃしていると、一人の男子生徒がこちらにやって来る。

……見たことがある。同級生か。

「あの……この前のライブ良かったわ!」

「おぉ、ありがとう」

イトウがポップな感じだったので、ここは任せる事にする。

「ネバーランドでライブするん?」

「せやねん」

「凄いな。めっちゃ行きたいねんけど」

「「「「マジで!?」」」」

僕たちは分かりやすくテンションが上がった。

「日はいつなん?」

「あーこの日なんやけど……」

イトウがチケットを見せながら詳細を説明する。

「あーごめん。その日はちょっと予定あって……次は絶対行くな」

「ありがとう!」

そう言って帰っていった。なんだかんだ応援してくれる人もいるんだな。そう考えると励みになる。

僕たちはさらに校門前で声を張り上げる。
ラストスパートだ。

「軽音楽部ライブやりまーす!」

「お願いしまーす!」

「よろしくお願いしまーす!」

その瞬間。

「お前ら何してんねん?」



声がかかる。

僕たちは咄嗟に振り返る。

——生徒指導のタキタニが立っていた。

日に焼けた肌。強面の陸上部顧問。

「…………」

沈黙がしばらく続く。

「何してるねんって聞いてんねん!」

イトウが口を開いた。

「いやあの……ライブの宣伝を……」

「誰かに許可取ってるんか?」

許可は取ってない。僕たちが勝手にやったことだ。

「……いいえ」

と次はクオリが答える。

「お前ら何部や?」

「軽音楽部です」

イトウが答えた後、タキタニは僕らを一瞥して。

「あぁ文化祭でやってたあれか。バンドとかチャラチャラして。どうせこのライブも遊びみたいな感じなんやろ?」

「え?」

タキタニのその言葉にみんな耳を疑った。

我慢しなきゃいけない。軽音楽部のイメージがさらに悪くなる。

けど僕は、どうしてもその言葉を聞き流すことが出来なかった。

勝手に口が動く。

「遊びってなんっすか……」

空気が変わる。

「遊びやろ。そもそもお前ら部活として認められてないんや」

何だよそれ。

もう限界だった。

僕は思わず口調を荒げる。

「僕らだってね……一生懸命やってるんですよ!」

僕が苛立ちを露わにしているのに対し、タキタニはフンと鼻を鳴らす。

「甘いわ、何が一生懸命やねん。運動部と比べてみろ。何か賞を取ったり、実績もないのに何を調子乗ってるんや!」

「そんなん関係ないでしょ。僕らと運動部を一緒にせんといて下さいよ!」

「ちょっともりちゃん……」

イトウが咄嗟に止めに入る。

「……何やお前、さっきから反抗的やのぅ」

「……」
「……」

「とにかく……他の真面目な生徒を巻き込むな」

全ての言葉が。

全ての態度が。

僕には理解が出来なかった。

分かりましたなんて口が裂けても言えなかった。

「もういいっす……」

「ん?」

「絶対に結果残しますから。見ててください!」

そう言って、僕はその場を後にする。

「もりちゃん!」

「ちょっと待てって!」

確かに運動部に比べたら実績はないかもしれない。

けど僕らは目の前の事に真剣に悩み、考え、挑戦を続けてきた。

それだけは真実だ。

だから「遊びのライブ」だなんて言わる事が、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

軽音楽部のイメージを絶対に変えてやる。

僕は沈みゆく夕日に向かってそう誓った。

つづく

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