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部員2名のバレー部を、ヤンキーと一緒に立て直して優勝した話。

30歳を過ぎた今でも、時折あの日々を夢に見る。

当時私は、東京の多摩にある公立中学校に通っていた。
所属はバレーボール部で、入部した理由はよくある単純な理由、「背を伸ばしたい」だった。

なぜなら、週末はラグビースクールに通っており、将来は180センチ以上、90キロの体格で聖地花園を沸かすことを夢見ていた私にとって、身長は必須条件と当時は思っていたからだ。(この時、未来の自分が170センチ80キロ止まりになることを知る由もない)

加えて、同じ中学に通っていた3つ上の姉の言葉も入部理由の一つだった。
「うちのバレー部は強いから、よく朝礼で全校生徒の前で表彰されるし、モテるよ」と。

今思えば、9割方後者が志望理由かもしれない。

幼なじみでありヤンキーのK

そんな理由でバレー部の門を叩いた私だが、残念ながら強かった時代のスパルタ顧問が異動となり指導者不在となってしまっていた。スパルタ顧問の指導を受けた先輩たちがいるうちはそれなりに試合で結果を出すことができていたが、もちろん弱体化は進み、中2の夏に先輩が引退したときには部員が2名となってしまった。

私とヤンキーのKである。

Kは同じ幼稚園からの付き合いではあるが、まともに関わるのは中学に入ってからだった。中学生になったKは薄い革カバン、細いエナメルのベルト、そしてリーゼントヘアといった、いわば平成時代に舞い降りたビー・バップ・ハイスクール、トオル。

他校に喧嘩で殴り込む事もあれば、酒タバコもすでに知っている。いわゆる「ヤンキー」のような出で立ちと素行ではあるが、バレーボール一家に育ったこともあり、バレーへの愛は人一倍で、何より情に厚い優しい男だった。

かたや私は自分でも言うのものなんだが、生徒会や体育祭実行委員などを務める真面目で見た目も普通な14歳である。強いて言うならばラグビーとバレーボール、部活後に警察署で柔道に勤しむスポーツオタクであった。

そんな対照的な2人だけが中二の夏、バレー部に残った。

ちなみにバレーボールは6対6でするスポーツである。
つまり我々は試合はおろか練習すらまともにできない。

「これから俺たちどうしようか、K。」
「だなぁ。あ、小堀てめぇ、ぜってぇ辞めんなよこら」
「辞めないけどさ、どうするかなぁ」
「だなぁ」

自分たちの置かれた状況をどうにかできるものなのか。真夏の体育館特有のムワッとした床の匂い嗅ぎながら、ガリガリ君を片手に途方に暮れていた。

そんな我々が、自分たちなりに考えた方針は以下のようなものだった。

①中3の夏までに人数を集め引退試合に出場する。
②それまでの間、女子バレー部に混ぜてもらいながら練習をする
③将来、人数が集まった時に機能するチームにするために、小堀はリベロからセッターに転向、Kがアタッカーとする

自分たちもちゃんと試合をして、勝って、引退したい。
そのために考えた方針ではあるが、正直なところ①が実現しないと水の泡である。現実はなかなか厳しく、後輩や同級生で途中から入部してくれるような人や手を貸してくれる人は皆無だった。

校内では「男子バレー部は廃部になった」「まだやってるの?」とからかいの声が上がることも多く、その度にKが「てめぇぶっ殺すぞ」と拳を握って先生や生徒に対して喧嘩をしに行った。Kをなだめながらも今に見ていろと、我々の意志をからかう人間を睨み付ける自分がそこにいた。

中二の冬だった

ケータイにKから連絡が入った。Kは声を詰まらせていた。

「タバコがセンコーにバレた。ごめん。2人でやっているのに、お前に迷惑をかけることが申し訳ない。本当にごめん。廃部だけにはしたくない。」
確かそんなことを言っていた。

「バカヤロウ」

真っ先にバレー部の顧問やKの担任に頭を下げてなんとか廃部だけは避けて欲しいと懇願した。幸いにもこれまでの我々の姿勢を理解してくれていた穏健派の人が多かったこともあり、Kの一定期間の謹慎で許しを得られた。

その日から1週間ほど、バスケットゴールに向かってパスをする日々になる。
早く戻ってこんかいと、内心思いながら。

中三の春だった

結局、私とKは半年以上2人でパスをし続けていた。セッターである私とスパイクを打つK。当時、あさのあつこの小説『バッテリー』が流行っていたこともあり、

「俺らってなんか、野球のバッテリーみたいだな!」
と私がよく言い、
「おめぇ、気持ちわりぃな」とKが返すのがお決まりだった。

ここで一人、同級生でテニス部だったGが入部をしてくれることになる。
GはKといつもつるんでいる仲間の1人で、我々の取り組みに共感してくれて力を貸してくれることになった。運動神経も高く、Kと共にアタッカーを担ってくれることになる。

そんな我々もこの春入学してくる新入生を獲得することが、最後の望みだった。体験入部期間に3人で奔走しながら、ひたすら声をかける日々。
そして、最終的に入部を決めてくれた新入生は5名。

1年ぶりに試合ができる。

引退までの残り3ヶ月、今までKと半年間準備をしてきたことを新入生に全てインプットし、共にコートに立つことに全力を注ぐことになる。

中三の夏だった

同級生は皆、高校受験への意識も高まり、学年の空気は徐々に受験モードになっていった。私も多分にもれず、受験のことはいつも頭の片隅にありつつ、将来ラグビー部がある高校へ行くのだと、ずっと考えていた。バレーだってそのために背を伸ばす手段だった。

ただいつしか、優先順位は変わり、この夏ばかりは受験よりもラグビーよりもこれまで一緒に耐え忍んできたK、転部をしてくれたG、我々の想いに応えようとしてくれる新入生の5名と、結果を残すことに比重を置いていきたい、そう思うようになっていた。そのためならば、体育館の床であろうと、校庭の砂利の上であろうと、ボールに飛び込むことは苦でもなんでもなかった。むしろもっとこの時間が続いて欲しいとさえ思っていた。

1年ぶりの公式戦へ

我々が出られる大会は2つ。東京都大会への出場権をかけた地区ブロック予選。そして、市内のバレー部No.1を決める多摩カップ。
規模的な部分で見れば都大会予選は参加が8校、市内大会が3校と大して大きなものではない。しかし1年以上も試合をしていない、かつ専門の指導を受けていない我々にとってはそもそも1勝すること自体がハードルが高かった。

まず、都大会予選の結果は、3位決定戦で惜しくも敗退。上位3校が都大会へコマを進められる予選だったため僅差で都大会への切符は掴むことができず天を仰いだ。ただ、1年ぶりの試合かつ、メンバーの半数以上がバレーボール歴3ヶ月という状態で都大会常連校に一矢を報いたことは我々にとって相当な自信となった。

▲担任がまとめていたクラス通信。予選での結果やそれまでの思いを記していた。

引退試合前夜だった

ケータイにKからメールが来た。

「今までおまえと3年間がんばってきたのを無駄にしないようにしなきゃな☆タバコとか吸っちゃったりしてゴメンなあ。俺まだまだおまえとバレーしたりねぇよ…。でも明日で俺らの3年間は終わっちゃうんだよな。なんかホント寂しいな。ちなみに今泣きそうです…(笑)」

ちなみにミレニアル世代以前の人たちは当時のケータイについてよくわかると思うが、メールのメッセージ毎に保護設定ができ、指定したメールが自動消去されなくなる。このメールも実家にあるあのケータイを充電すればおそらく蘇るのではないかと、久々に思いを馳せている。

そして翌日、我々は市内大会で優勝をして引退する。

Gや1年生が拾ったボールを私が繋ぎ、Kが決める。素人集団が1年ぶりに公式の大会に名前を残すことができたことは小さな快挙だった。

夏休みが終わった始業式の日に、大きな優勝カップを背負って、入学当初に思い描いた「全校生徒の前で表彰される」ということが実現されたのであった。モテるということだけを除き、夢が現実と化した。

もう一度中学生に戻る

なぜ、今こうして、振り返っているのかというと、私自身の結婚式の準備で実家に戻ると当時の夏休みの宿題であった「3行日記」や、当時の「クラス通信」が実家から出てきたからである。3行日記に関しては毎日書く課題であるにもかかわらず7月27日の引退試合のことだけで全ての余白を埋めている。

▲夏休みの宿題「3行に収まらない日記」

そして、私は約10年ぶりにKとGと結婚式で再会した。成人式ぶりだ。

▲成人式(左からG・K・小堀80kg)

お互いにいつも気にはかけているけれど、住む場所も生活環境もみんなバラバラになり、なんとなく会わなくなった地元の仲間ともう一度中学生に戻る機会としたかったのだ。

言わずもがな、再会した瞬間に我々はバッテリーに戻った。
3人で体育館の床に飛び込んでいた瞬間や、シューズの裏の埃を手のひらで拭き取る感触までありありと思い出される。

▲結婚式でKと。

スポーツは未来の自分を応援する行為

たまに夢に出てくる「体育館での練習」や「引退試合の景色」は、今の自分の行動を左右する原体験になっている証だと感じる。

過去の自分が仲間と成し遂げた小さな成功や、思いを一つにしたことが、そこに間違いなく存在した時、今の自分は同等の、もしくはそれ以上の熱量や感情を抱きながら、生きているのか?もがいているのか?

いわば過去の自分の行動や、KやGと成し遂げた思い出に「応援されながら」今を生きているのではないかとも思うのである。

スポーツは選手を応援するものである。
そして同時に、スポーツをする者自身が未来の自分を応援することになる。

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