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詩「物の命」

20240110

頼む 俺のために死ぬな
頼むから もう一度息をしてくれ
名もなきものども 俺のために
もう一度だけ動いてくれ

テレビ ラジカセ ゲーム機
パソコン ビデオカメラ エアコン
掃除機 電動歯ブラシ ドライヤー
炊飯器 電子レンジ IH

俺のために生きて 俺のために死んだ
全てのものどものために涙を流そう
いきものとは限らないものどもは
いつも寡黙に生活に彩りを与えていた

鉛筆 ボールペン シャーペン
消しゴム 修正テープ セロテープ
ハサミ カッター 下敷き
スティックのり 定規 コンパス

使うたびに削れてゆき 無くなれば死ぬ
錆びつき 掠れて 疲れ果ててゆく
全てのものどもは俺のためだけに生きる
無駄なものしか生み出さない俺のために

代わりの効かないものなどない
それを知りつつ時間と共に消耗されていく
俺のこの身体と心は
名もなきものどもと同じだ

廃品の山に埋もれて涙を流す時間が無駄になる
それが一日の価値になる 欠けたカッターの刃が
皮膚にめり込む 赤い液体が降りかかる
目が見えなくなる 感じたことのない安堵感がする

瞳を閉じる 舌なめずりする
鉄の味がする プラスチックの夢を見る
一緒に何処かに行ける気がする
巨大な船に乗って 何処までも行ける気がする

親しきものどもに別れの挨拶をする
俺のために生きて死んでいったものども
親しきものどもに手を振ってみる
手がないことに気付いた時 眠りにつく

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