見出し画像

赤字の小型銘柄が1年間お金を掛けずにIR活動したら、思っていたのと違った結果になった話(前編)

株式会社うるる(東証グロース/3979)の近藤です。
IRを担当しております。

4月に入って新年度を迎えたので、この1年間のIR活動の振り返りを取りまとめて取締役会でレポーティングしたのですが、よくよく考えたら公開情報だけを元にした振り返りなので、せっかくなのでnoteでも公開しようと思いました。

最近、うるると同じくらいの規模の上場企業のCFOやIR担当者の方から、IRについて質問をいただくことも増えてきたので、どちらかというとそういった方々を対象として書いています。

図とかグラフが手抜きなのは、元々社内向け資料がベースなのでお許しください。数字のファクトチェックもそこまで真面目にやっていませんので、あくまで参考程度にエンタメとして読んでください。

■小型銘柄のIR

世の中に公開されているIRセオリーは決して多くないながらも、書籍やウェブ上、証券会社やIR支援会社から得られます。
ただ、これが時価総額100億円前後、もしくは100億円未満の企業になると全くと言っていいほど情報がありません。国内外機関投資家は時価総額や売買代金でスクリーニング(後述)しており、小型銘柄は初めから検討対象外だったりする中、個人投資家向け説明会をやりましょう、という提案を証券会社やIR支援会社などからされるくらいです。

海外投資家にこうやってアピールしています、という話を他社CFOから教えていただく機会もあり、その度に羨望の眼差しを向けているのですが、残念ながら小型銘柄と呼ばれる企業には(少なくとも足元は)縁遠い世界なのです。。。。

■事前分析

小型銘柄のIRセオリーが無いのであれば自分で考えるしかない!

ということで、この1年間のIR活動の方向性を考える前提として、まずは現状把握ということで、2021年4月に株価、株主数、出来高・売買高、株式分布、投資家からの評価などの整理・分析、考察を行いました。1週間くらい掛けて、振り返り、ドキュメントをまとめていきました。

A4サイズ18ページの超大作()の目次部分。
見せるには恥ずかしいところはモザイク処理しています。


その一連の考察の中で、SaaS銘柄のバリュエーション(変数はPSRを使いました)について、相関分析や重回帰分析を行いました。

分析前は、「売上高成長率が高い」企業が「高PSR」なんだろうなと考えていました。

しかし結果は、

  • 「売上高成長率」と「PSR」に相関関係はあるものの、因果関係はない

  • 「海外投資家の持分比率」が「PSR」に正の有意な影響を与えている

でした。
(ディスクレーマー!私は大学で統計解析の授業落としているので、結果の信憑性は保証しません

なるほど、結局ハイバリュエーションを許容するのは海外投資家だから、海外投資家に保有してもらうことが結果的にバリュエーション向上につながるのだ、と理解しました。

じゃあうるる株をどうしたら海外投資家に保有してもらえるか?
一般論として、時価総額が300億円以上、もしくは500億円以上でスクリーニングを掛けている海外投資家が大半とされています。
ので、時価総額100億円前後で推移しているうるるは残念ながらいくらIRを頑張っても相手にされません

であれば国内機関投資家へアプローチだ!
といっても、国内機関投資家も同様に時価総額スクリーニングはあるし、流動性が低い株は扱えないというレギュレーションを持っていることが多いです。

■IR方針

ということで、まずは流動性(売買代金)向上、という目標を立てました。
国内機関投資家のレギュレーションをクリアできるだけの流動性を確保し、国内機関投資家に保有してもらったその先に、ハイバリュエーションを許容してくれる海外投資家を目指す、というものです。

とはいっても、うるるは五年間の中期経営計画の真っ只中で、赤字を厭わずに成長投資を行っているところです。
当然IRは重要であるものの、今のフェーズではIRにコストを投じるなら成長投資に充てるべき、とIRを担う私自身もそう捉えていました。

ので、極力コストを掛けることなく、既存の固定費の中で効率を最大化させることを意識してIR活動を進めていくこととしました。

国内外機関投資家で相手にしてくれるところは多くない、となるとやはり個人投資家にうるるのことを知ってもらい、売買してもらうしかありません。
ただ、日本に上場企業が4,000社近く存在する中、当然ながら知らない会社の株は売買しません。そして、時価総額100億円前後のうるるという会社なんて、残念ながら投資家の間では知る人ぞ知る銘柄です。
ので、まずはうるるの存在を知ってもらう活動をしていこうと考えました。

■IRロードマップ

分析や当面のIR方針を踏まえ、向こう数年間の想定時価総額とIRロードマップを作りました。
変数が多すぎるので、IR責任者として時価総額に目標を置くのは個人的に好きではないのですが、大まかな指針が無いとチームとして動きにくいし、ボードメンバーへのレポーティングもやりにくいよなと考え、フレキシブルな目安として数字や時期を置くことにしました。

時期ごとの想定時価総額とActionを定めたIRロードマップ
恥ずかしいので時期や時価総額、Action内容はモザイク掛けています。


■IR体制

IR体制は私ともう一名の担当者で、二人共色々と兼務です。この限られたリソースでできることをやっていかなければいけません。

うるるくらいの規模の上場企業に話を聞く限り、体制は大体どこもこんな感じです。それどころか、IR担当者ゼロなんて会社も珍しくないと思います。

■この1年間で行ったこと

コストを掛けずともできることはたくさんあるを合言葉に、あまり一般的なIR手法ではないことにも色々とチャレンジしてみました。
実際にこの1年間で行ったことは主に以下です。

  • 個人投資家向け説明会(6回/年)

  • SNS(Twitter、Facebook)での情報発信

  • Peing-質問箱でのIR質問受付

  • 1:2の株式分割

  • 早めの翌期予想アナウンス

個人投資家向け説明会(6回/年)

複数社が登壇するIRイベントにて説明会を開催する他、SNS上で積極的に活動されている個人投資家の勉強会コミュニティに4回お邪魔し、説明会を開催いたしました。
お邪魔したコミュニティは以下。
いずれも毎回必ず参加されている方から新規の方もいて、その熱量に驚かされます。
(主催者の皆様、本当にいつもありがとうございます!)

説明会に参加いただく方のみならず、フォロワーをたくさん抱えている主催者の皆様が勉強会の告知をしてくれることによって、うるるの社名の露出が増えたという実感があります。

SNS(Twitter、Facebook)での情報発信

TwitterとFBでIR情報を発信することを始めました。
これに際して、公式IR Twitterアカウント私個人のTwitterアカウントは新規に開設しました。
フォローお願いします!

Twitterアカウント開設により、前述のコミュニティ主催者の方々ともSNS上でコミュニケーションがスムーズになりました。

また、SNS上で他社のCFOやIR担当者の方々とつながることができたのは非常に良い財産になっています。特に小型銘柄のIRは、まだ世の中に知見が出回っているものではないので、情報交換は欠かせません。

Peing-質問箱でのIR質問受付

これまで、個人投資家の方々から電話やメールでのお問い合わせを多数いただいていました。
たくさんご質問いただけるのはとてもありがたいものの、1on1のやり取りとなってしまい投資家間の情報格差が生まれてしまうこと、似たような内容のやり取りが複数発生してしまうであること、が課題だなと感じていました。

どうせならこのやり取りをオープンにしてしまえば課題を解決できるんじゃないかと考えました。

最初はTwitterで質問を受け付けようと考えたのですが、完全匿名の方が質問しやすいんじゃなかと思い、Peing-質問箱で質問を受け付けてみることにしました。Twitterでよく見かけるアレです。

質問来なかったらやめよう、荒れたらやめよう、とモジモジしつつ、まずはやってみなはれの精神で2021年8月に始めてみましたが、ありがたいことにこれまで累計3四半期で165個のご質問をいただきました。

これを始めてから、目に見えて電話やメールでの問い合わせは減少、やり取りもオープンになりました
そして一番良かったのは、質問を通じて投資家の方々が何を疑問に感じているのかが改めて可視化されることでした。質問への回答を行う中で、ああこれは次回の決算説明資料に入れ込むべきだな、というものが少なからずあったりします。
IRは企業側からの一方的な情報発信のみではなく、双方向のコミュニケーションであるべきだと考えているので、これがオンライン上でできたのは大きな成果でした。

Peing上だとQ&Aの一覧性が低いので、取りまとめたものをIRサイト上で公開しています。

本当はサイレント期間を除いて常設で質問を受け付けたいのですが、現状は私が全て回答しており、リソースの限界ゆえ、各四半期決算発表から10日程度の期間限定開設としています、、、許してください。

1:2の株式分割

2021年10月1日に1株を2株にする株式分割を行いました。
売買単位価格を引き下げて、売買しやすくする狙いでした。

早めの翌期予想アナウンス

2022年3月15日に業績予想修正を行いましたが、そのリリースの中で翌期(2023年3月期)の予算編成方針についてのアナウンスを行いました。

2019年5月に五年間の中期経営計画を開示し、2021年5月に追加投資を行うという内容の計画ローリングを行ったのですが、このことから、2023年3月期にも更に追加投資するのではないか、という投資家からの懸念を感じていました。

業績上の懸念がある状態だとボラティリティが上がりがちになり、概してβも上がってしまいがちなので、CAPMにおける株主資本コストが上がる要因となることから、本決算発表を待たずして翌期のアナウンスを早めに行うことで、安心感を与えることを狙いました。

2022年3月15日リリース「2022年3月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」の中の一文。
翌期は、既開示の中期経営計画をベースにした予算とする旨をアナウンス。

業績予想修正のリリースの中で翌期のことについて触れることはあまり事例は無いような気がしますが、企業が考えていることを表に出すこと自体は投資判断に資するだろうと思います。


■結果、どうなったか?

この1年間のIR活動は、リソースも限られ忙しい中で、お金を掛けずに色々やれたかなと自分なりには思っていますが、まあいうてもやっぱり大事なのは結果です。流動性や株価はどうなったか。

この結果の振り返りが本記事のメインなのですが、ちょっと長くなったので後編に記していきます。

前編、読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m


後編はコチラ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?