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ハーバードに合格した入試エッセイ(全文と解説)

以前noteにも書いたように、日本の人は一度は留学するといいんじゃないかと思っています。

留学先にアメリカを選んだ場合、出願時にほぼ必ず求められるのが小論文(エッセイ)。日本の受験とわかりやすく異なる点なので、「エッセイってどんなのを書いたの?」と、在学中などはよく聞かれていました。
その度、あまり明確な答えができないでいました。学部受験のエッセイは、自分の価値観を赤裸々に表現するもの。人様にお見せするものではないと思い、あまり内容にふれてこなかったんです。

しかしこの頃、留学に関する相談を受ける機会があり、久しぶりにこのエッセイの事を思い出しました。書き上げてからもうすぐ10年、そろそろ時効かと思います。一人でも多くの受験生に参考にしてもらえればと思い、以下特に印象的だった一本を、和訳の上載せることにしました。

本ページ下部分に、エッセイに関する考察も載せています。そちらも併せてご覧ください。

以下、ハーバードに提出したエッセイです。

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きらりと光る巨大なC-14望遠鏡が、狭い天文台の真ん中に置かれています。フレッドが小惑星2055マゼランの座標を入力すると、C-14が指定された方向に旋回。1枚目の画像はぼやけています。「CCDの温度を下げよう」私が提案します。 「露出時間をもっと短くするのは?」クロエが言います。ピントのあった画像が5枚取れた後、それぞれを3人でくまなく精査します。 「この影がそうじゃないかな!」フレッドが叫びました。かすかな数ピクセルのかたまりが、デジタル画像上の他の星に比べて不規則に動いています。私たちが追い求めていた小惑星です。ついに探し当てました!

Summer Science Programの最初の週のことでした。参加者に与えられたプロジェクトは、チームワークを学びながら小惑星を追跡するというもの。教授は、参加者を3人ずつのチームに分け、常に協力するよう指示しました。私たちのチームはうまくやっていました。ヨーロッパ出身のクロエは、夜空のすべての星座を熟知していました。アメリカ人のユーモラスなフレッドは、読みやすいレポートを書きました。そして日本出身の私は、チームの誰よりも速くプログラムを書きました。それぞれが強みを持ち寄った、素晴らしいチームです。

撮影に成功した後、デジタル画像上の座標を天球上の座標に変換するソフトウェアを作成する必要がありました。フレッドはバグについて私に尋ね、私はそれに丁寧に答えました。 2時間後、クロエと私が全工程を終わらせた時、彼はまだ同じバグを直していました。私は彼の隣に座り、一緒にバグを直しました。彼は一生懸命頑張っていたし、私は喜んで手伝いました。

プロジェクトには多くの工程があり、各工程で、フレッドが追いつくのを待ちました。最初は気になりませんでした。しかしプロジェクトが進み、やることが増え、徐々に時間が足りなくなってきます。質問に対する私の答えが短くなるにつれ、フレッドが冗談を言うことも減っていきました。

締め切りまで48時間。6つの軌道要素を正しく計算し、プロジェクトの最小要件をクリアしました。教授に報告すると、誤差を大幅に減らす手法の一覧表を配布されました。新たなチャレンジに私は心からワクワクしていました。チームメイトはどうだろう、と彼らの方を見ます。クロエはもうPythonのエディタを起動していました。フレッドは圧倒され、配布資料を見つめていました。

フレッドとの思い出が頭をよぎります。彼の底抜けの明るさ、優れたレポート、そしてコーディングが上手になりたいという誠実な頑張り。締め切りが刻一刻と迫っていました。小惑星をより正確に追跡するスリルについて考えながら、私は配布資料を見ました。

クロエと私は3時間おきに会い、その度に計算結果が改善されたことを喜びました。彼女は光速にまつわる誤差を計算していて、私はもう一段階微分をしていました。私たちのチームワークは完璧…だったのでしょうか?

フレッドを方を見ます。タスクのない彼は、facebookを更新していました。罪悪感を感じましたが、ふと時計をみると、クロエとの次のミーティングまであと10分しかありません。私はチームのためのプログラミング作業に戻りました。

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(注:人名は改変しました。)

10年経った今改めて読み返すと、このエッセイが効果的だったと思う理由は以下の3つかと思います。

1.大学が求めている気質を持っていることを示せた

ハーバードが学生に求める点はhttps://college.harvard.edu/admissions/apply/what-we-look に列挙されています。そのうち、このエッセイを通じて、以下に答えられたのだと思います。

Have you been stretching yourself?(能力を最大限に生かして頑張っているか?)
Do you care deeply about anything—Intellectual? Extracurricular? Personal?(勉強・課外活動・個人的な出来事等々、何かについて心から関心を抱いているか?真摯に打ち込んでいるか?)

エッセイの中で、私は残り48時間の時点で、プロジェクトの最低要件をクリア。その後教授に追加課題を渡されますが、それはやってもやらなくても良いものでした。
私が追加の課題に取り組む頑張りを惜しまなかった。というか、そんなことを考える間も無くプロジェクトの計算精度をあげることにワクワクしていた。そんな情熱が、このエッセイを通して伝わったのではないかと思います。

How have you used your time?(時間をどのように使ってきたか?)
What is the quality of your activities?(活動の質はどのようなものか?)

このプログラム、名前はSummer Science Programと平凡ですが、実は結構有名。10倍の倍率を勝ち抜いた理系の高校生がアメリカに集まり、夏休みの2ヶ月間大学レベルの天文学を学びます。卒業生の実に7割が、MIT、CalTech、スタンフォード、アイビーリーグ(ハーバード含む)のどれかに進学。エッセイに出てくるクロエも、私と同じ年度にハーバードに入りました。

当時はカリフォルニアとニューメキシコの2箇所で開催されていて、私はニューメキシコ工科大学の方で学びました。なぜにニューメキシコ、と思うかもしれませんが、周りに砂漠と砂しかないため、光害がなく、天体観測に適しているんですね。

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ニューメキシコ工科大学の裏手。アメリカよ、なぜここに大学がある。

余談ですが、Summer Science Programは1959年設立。ソ連がアメリカより早く人工衛星を打ち上げた事への危機感から、若いアメリカの科学者を育てるために立ち上がったらしいです(へー)。

とにかく、夏休み有意義な時間の使い方をしているかを大学側は見ていて、それに応えられたのだと思います。

2.出願書類全体でストーリーを構成した

実はこのエッセイの話には続きがあります。私のチームは最も正確な計算結果を出し、プログラム最終日、参加者全員の前で表彰されました。表彰についてエッセイでは触れていませんが、出願書類の受賞歴の欄に記載しています。

またこのエッセイの他には、あまり理工系の活動は強調しませんでした。というのも、ハーバードの合格者は、概ね25%が特定の勉強に強い人、25%が特定の課外活動に強い人、残り50%がオールラウンダーとのこと(そのように公式な説明会で言われました)。私はオールラウンダー枠を目指していたので、出願書類全部に目を通すとバランスの取れた人に見えるよう、意識していました。

自分のどの側面を、出願書類のどの部分で見せるか。このあたりの設計が功を奏したのだと思います。

3. 弱みを見せた

このエッセイは「成功のためなら時に冷徹になれる」という、当時の私の弱みとも取れる性格をさらけ出しています。あえてこの弱みを映し出すエッセイを書いたことで、私の人間らしい部分も含めて理解し、評価してもらえたのかなと思います。

ただこの弱みは、他の大学で見せていたら落とされていたかもしれません。当時エッセイを読んでもらった先生に「このエッセイはすごくいいけれど、ハーバード以外には出すな」とさえ言われました。

今になって思えば、ハーバード在学中、このエッセイと全く同じ状況で、逆の立場に立たされたことがありました。シリコンバレー出身の友人とペアでプログラミングの課題に取り組んだ時のことです。私のスピードが遅く、彼がしびれをきらせてしまいました。私に割り当てられていた分の課題まで、まるごと彼にやられてしまったのです。

ハーバードは、あくまで成功が最優先される場所ということなのでしょうか。私が弱みと思っていた部分は、むしろ大学側が求めていた気質そのものだったのかもしれません。

なお、エッセイの中の私はとがっておりますが、これは10年前の話。今はもっとまあるくなっておりますので、その点どうぞご安心ください。

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10年前の私

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今の私

いかがでしょうか。アメリカ留学に向けたエッセイを準備するにあたり、何か参考になる部分があったのであれば幸いです!

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