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配膳ロボットは飲食店の救世主となりうるか

■テクノロジーがサービス業を変える?
 コロナ禍が収束し、飲食店に賑やかさが戻ってきたのですが、一方で飲食業界の人手不足は深刻です。帝国データバンクの調べ(※1)によると、図1の通り、飲食店では特に非正社員の人手不足を感じる企業が80%を超えています。これは2019年以前の水準(※2)に戻っており、今後これが改善されるかどうか不透明です。

図1:飲食店で人手不足と感じている会社の割合
〔データ出所:帝国データバンク2023年5月2日レポートより(グラフは筆者作成)〕

 そのような中、飲食店における人手不足の救世主として注目を集めているテクノロジーが配膳ロボットです。2021年現在、配膳ロボットの市場規模は国内で約25億円程度といわれており、更に2027年度には150億円規模になるといわれています(※3)。
 しかし、本当に配膳ロボットは飲食店における人手不足の救世主となりうるのでしょうか。

■配膳ロボットはコスパが悪い?
 サイゼリヤ元社長堀埜氏は「配膳ロボットはコスパが悪い」と言われています(※4)。配膳ロボットはお客さまのテーブル前まで食事を届けることはできても、最後に食事をテーブルに乗せるのはお客さま自身でやらなくてはならないのです。その際、小さなお子さんだとロボットを触ろうとして熱い鉄板に触れて火傷をするリスクがあるというのです(※4)。
 配膳ロボットは、どのようにコスパが悪いのでしょうか。これから配膳ロボットは飲食業界に浸透していくのでしょうか。それとも一過性のもので終わるのでしょうか。

■配膳ロボットの価値を可視化
 配膳ロボットと競合するのはアルバイト(非正社員)のホールスタッフになります。所謂、人間です。このアルバイトを確保できないから配膳ロボットを導入する訳ですが、本当にコスパが悪いのであれば、マシントラブルのリスクがあるロボットなど導入せず、少ない人員で対応できる店舗営業にした方がよいという判断もありえます。
 まず一般的にいわれている配膳ロボット導入のメリットとデメリットを比較します。
【配膳ロボットのメリット】
 ①効率・省力化、人件費の節約
 ②顧客満足度の向上
 ③コロナ禍での感染予防・衛生管理
 ④エンターテインメント性
 ⑤話題性
【配膳ロボットのデメリット】
 ①完全な無人化は難しい
 ②導入可能な環境が必要
 こうして見るとメリットの方が多いように見えますが、メリットの「話題性」は飽きられたら終わりです。一方でデメリットの①と②は深いものがあります。デメリット②の導入可能な環境とは、通路は一定の広さが必要や段差がないこと等、そもそもロボットを導入できない店舗があるのです。そして、デメリット①について以下に詳細を考察しました。

表1:ホールスタッフの業務と配膳ロボットの業務範囲〔筆者が作成〕

 現状の配膳ロボットが単独でできるのは④のみで、⑦下げ膳は店員の補佐として機能しているそうです。あと、タブレットと組み合わせることで、②と⑥を自動化できます。それを実施しているのがファミリーレストランといえます(※5)。しかし、席の案内(定点での顧客案内ロボットはあり)やドリンク対応(例えば、ビールの注文を受けてジョッキにビールを注ぐ作業)は現行の配膳ロボットではできません。特に「食器の片付け」を自力でできないのはホールスタッフの相棒としては少し物足りなさを感じます。
 そこで、競合の人間と比較することで、今後の配膳ロボットの可能性が可視化してみます。競合とは比較対象であって、必ずしも奪い合いの関係だけでなく共存もありうるものなのです。
 まず、ざっくりとした概算費用を計算します。あくまでも費用感を確認するためのものですので、時期によって金額は変動することをご了承ください。
 配膳ロボットのコストですが、USENの配膳ロボット・サービス料(※6)を参考として5万円/月(月額リース料と保守費用込み、消費電力としての電気代を含まず)とします。
 次に人件費ですが、飲食店ホールスタッフのアルバイト平均時給は、タウンワークの情報(※7)によると、最も高い東京都で1,141円、最も安い青森県で888円ですが、都心部はだいたい1,000円なので、ここでは1,000円/hとします。1日10時間稼働(昼3時間、夜7時間として)の30日勤務とすると、人件費は30万円/月となります。
 だいたいホールスタッフ(アルバイト)の人件費は配膳ロボット・コストの6倍といえます。

図2:配膳ロボットのブレイクスルー可能性

 そこで、コストと技術がもたらす顧客にとっての価値を2軸にとり、配膳ロボット技術の可能性を可視化してみました。
 図2は、あくまでも筆者の主観的なイメージのマップです。飲食店舗によって業務範囲をカバーできることによる価値は違いますので、一概にこのマップの通りとは言えないところがあることをご了承ください。
 縦軸をコスト、横軸を「業務範囲」とし、安いコストで業務範囲が広いほど技術がもたらす顧客にとっての価値は高いので、右上が最も“顧客にとっての価値”が高いポジションです。
 縦軸(コスト)では、配膳ロボットの方が人間よりも上回っていますが、横軸の業務範囲が狭く、縦軸でのプラス面は横軸のマイナス面で相殺されている可能性があります(前述の繰り返しですが、あくまでも筆者の主観であり、業務範囲カバーによる価値は飲食店舗によって異なります)。
 ここにロボット導入による店舗環境整備(イニシャルコスト)や前述のサイゼリヤ元社長堀埜氏が言われたような「リスク」も踏まえると、配膳ロボット導入メリットは微妙なポジションかもしれません。
 しかし、配膳ロボットの業務範囲がもう少し右にシフトすれば、飲食店での導入が広がる(メリットを感じる飲食店が増える)可能性は大いにあると考えます。この「もう少し右にシフト」を具体的にいうと次の通りです。
 表1でいう⑦下げ膳(店員の補佐は現在もできている)と⑧テーブルの掃除をロボット単体で実施するのは現行コストのロボット技術水準では難しい(これをやろうとするとコストが飛躍的に高くなる)ので、⑤配膳帰路に空いた食器の片付けだけでもロボットが自律でできれば(ロボットが自ら空いている食器を認識してお客さまにアナウンスして片付けるイメージ)、顧客(飲食店)にとっての価値は高まるように思えますし、画像認識技術とAIの進化によりできる可能性はあると考えます。その理由として、飲食店の人手不足は一時的なものではないためです。

■技術の価値とは
 飲食店に限らず、これからこうした機械化ニーズは増えていくでしょう。一方で、ロボットを利用するユーザーは、こうした新技術にリスクを感じるのだということを技術者は認識しておく必要があります。
 新技術を開発する技術者は、「顧客が支払うコスト」と「顧客が負うリスク」に対し、「顧客にとっての価値」が上回る水準はどこにあるかを意識して研究開発をするべきなのです。
 配膳ロボットのブレイクスルーに期待します。

<参考にした情報>
※1:データ出所:帝国データバンク2023年5月2日レポートより
※2:2019年12月の帝国データバンク調べでは飲食店非正規社員の人手不足感は85%だった
※3:デロイトトーマツミック経済研究所「サービスロボットソリューション市場展望【法人向け編】(2022年6月13日公表)」 より
※4:日経XTECH「サイゼリヤ元社長堀埜氏『配膳ロボットはコスパが悪い、DXの前にアナログを極めよ』」(2023年4月25日)より
※5:「すかいらーく」での配膳ロボット導入パターン(2022年現在)
※6:USENの配膳ロボット・サービスHPでは月額36,700円のリース料とあるが、これとは別に保守サポート費用12,500円を要するので、合計で約5万円/月が目安といえる
※7:タウンワーク「その他飲食店(ホールスタッフ)のアルバイト・バイト・パートの平均時給」(2023年5月5日現在)より


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