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ロシアによるウクライナ侵攻の可能性 -クウェート侵攻の歴史から学ぶ-

 ロシアによるウクライナ侵攻の危機が高まっています(※1)。既にロシア軍は医療部隊をウクライナ国境に派遣したといわれてます(※2)。
 ロシアがウクライナに侵攻した場合、台湾有事の可能性も高まるといわれており(※3)、そうなると日本にとっても遠い場所での出来事とはいえなくなります。
 戦争の可能性を予測することは専門家でも不可能といわれていますが、ここで可能性の仮説を立てることで、後に仮説検証を行い、現代のような不確実性の高い時代におけるリスクマネジメント力の糧にしたいと考えます。

 さて、可能性を考察するうえで参考となるのは歴史です。歴史はより近い時代のものが参考になりえます。1990年に起きたイラクによるクウェート侵攻との比較から考察してみたいと思います。
 国際政治は複雑です。考察の方法としては外形的な類似点と相違点からシナリオの仮説を立て、要所を深堀考察することとします。

クウェート侵攻との比較
 イラクによるクウェート侵攻は、石油と領土を巡って隣接する両国間のトラブルがきっかけとされており、イラクが軍事的威嚇を行うもクウェートは相手にせず、交渉が決裂したことでイラク軍が国境を越えてクウェートに侵攻しました。
 以下の観点からウクライナ危機との類似点・相違点を考察します。
①国境付近に軍隊を集結し威嚇
 イラクはクウェート国境付近に軍隊を集結させクウェートを威嚇しました。国際社会はこれを「単なる脅し」として扱い、軍事侵攻してもイラクが領有権を主張している地域への限定的侵攻か、局地的な戦闘程度だろうと楽観視され、クウェート軍の備えは不十分でした。しかし、実際には全面侵攻となり、イラクがクウェートを併合しました。
 ロシアもウクライナとの国境付近に軍隊を集結させています。国際社会の評価は分かれています。筆者の個人的な見解としては、クウェート侵攻時ほど国際社会は楽観視していないが「ロシアによる全面侵攻はない」という見解が大勢ではないかとみております。
 決して「楽観視」ではないが、ウクライナ軍の旧式装備を見ると(欧米諸国から最新鋭の武器を渡されても、急にはそれを使いこなすことはできませんので)、備えは十分とは言えないのではないでしょうか。
②国際社会からの孤立
 イラクは、イラク、クウェート、サウジアラビア、エジプトから成る4カ国会議を提案されるも孤立すると考えて拒否しました。クウェート侵攻時のイラクは孤立していたといえます。
 一方でロシアもNATOと対峙し、2014年のクリミア半島併合以来、経済的な制裁を受けていることから孤立しているといえます。しかし、ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツによる4カ国協議では、必ずしもロシアが孤立するとはいえず、特にドイツはロシアに対して融和的といわれています。少なくとも4カ国協議は行われるのではないでしょうか。
③交渉の着地点
 交渉が平行線で決裂したためにイラクはクウェートに軍事侵攻しました。交渉に着地点を見いだせるかどうかが重要なポイントですが、ウクライナのNATO非加盟を求めるロシアの要求をアメリカが拒否しており、現時点では着地点を見い出せていません。

考察
 ロシアによるウクライナ侵攻を回避させるためには、まずロシアを孤立させないことが重要であると考えます。
 こうした交渉は「和戦両様の構え」が必要です。そして、「和戦両様の構え」が相手に伝わらないといけません。西側諸国に役割分担が求められます。融和的姿勢の国と、強行的姿勢の国が必要です。この場合、ドイツが融和的な役割を担えるかどうかであり、強行的な役割はやはりアメリカが担うべきでしょう。
 クウェート侵攻の時は、アメリカがイラクとクウェートとの紛争に対して不介入を表明したことがイラク軍によるクウェート侵攻のハードルを下げたともいわれています。「和戦両様」とは、「和」と「戦」とのバランスが大事です。
 今回、アメリカはロシアに対し「アメリカ単独での軍事介入はない(※4)」と言っており、ドイツの態度を踏まえると、同盟国ではないウクライナのためにNATOが軍事介入する可能性は低いといわれています。
 現在の交渉状況と欧米諸国の動きを踏まえると、「和」も「戦」も中途半端であり、その結果として、ロシアがウクライナに侵攻して全土を制圧したうえで、親ロシア的な政権を樹立させることでウクライナを独立国家として残すことが着地点になりかねない情勢です。これが、ありえるシナリオです。つまり、この先にあるのはロシアによるウクライナ侵攻です。
 しかし、ここで冷静に現実を見た方がよいです。いくらロシアが自給自足できる(そのため経済的制裁を受けても耐えられる)とはいえ、SWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されるとダメージは非常に大きいです。
 こうした交渉は、相手の真の狙いを把握することが重要です。ロシアのラブロフ外相は「我々は戦争を望んでいない」と表明しており、欧米からの回答について「合理的な内容を含んでいる」として、一部については評価する姿勢も示しているとされています(※5)。
 筆者は、クウェート侵攻の時と比較すると、ロシアのウクライナ侵攻を回避できる可能性はあると考察しました。

交渉


 ロシアが戦争回避のメッセージを出しているためです。国際社会への影響力が大きい大国ロシアの動きであり、ロシア自身もそれを理解しています。
 NATOの自由度を残しつつも、ロシアの懸念をどう払拭できるかがポイントになるでしょう。

※1:この考察は2022年1月29日現在の情報に基づきます
※2:WSJ「ロシア、医療部隊をウクライナ国境付近に派遣」2022年1月28日記事より
※3:例えばNHK「ウクライナ情勢 台湾 蔡総統 “推移の注視を” 中国をけん制も」2022年1月28日記事より
※4:2021年12月7日の米ロによるオンラインで首脳会談後、バイデン大統領は、「ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、アメリカが単独で武力行使して対抗することはない」と言ったといわれてる
※5:2022年1月28日、ウクライナ情勢をめぐって、ロシアが示した要求が欧米から拒否されたことを受け、ラブロフ外相は「交渉が終わったわけではない」と外交交渉を続ける意向を示した会見より

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