見出し画像

「心は楽しむべし、苦しむべからず」〜貝原益軒『養生訓』の教え

貝原益軒の『養生訓』。日本史の授業で習った覚え、ありますよね? 
僕も書名だけ知っていたものの内容に触れたことはなく、つい最近 初めて読む機会がありました。

養生訓とは

『養生訓』は、江戸時代 前・中期の儒学者 貝原益軒が、亡くなる2年前の83歳の頃にしたためた書物です。古今東西の「養生」の術を研究し、自身で実践した結果から、後世に伝えるべきものを紹介したものです。

益軒自身、当時として驚くべき長寿(享年85歳)だったので、書かれている内容にも説得力があります。

では、本書には具体的にどんなことが書いてあるのでしょうか。
ほんの一部ですが、以下でご紹介します。

心身ともに健康に過ごすための実践的な教え

当時と今とでは生活スタイルも違いますし、医学的知識や常識も異なっています。それでも、以下の記述には「なるほど!」と唸らされました。

◎内なる欲望と外なる邪気

養生法の第一は、自分の身体をそこなう物を除去することである。身体をそこなう物とは内から生ずる欲望と外からやってくる邪気とである。
前者は、飲食の欲、好色の欲、眠りの欲、言語をほしいままにする欲や、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情の欲をいう。後者は、風・寒・暑・湿の天の四気をいうのである。

◎心を平静にして徳を養う

心を平静にし、気をなごやかにし、言葉を少なくして静をたもつことは、徳を養うとともに身体を養うことにもなる。

◎唾液は大切に

唾液は身体のうるおいである。血液となるものである。
草木もうるおいがないと枯れる。そのように唾液は大切なものである。唾液は内臓から口中に出てくる。大切にして、吐いてはいけない。なお遠くへ吐いてはさらにわるい。体に力がいるので気がへるからである。

◎食後の口内を清潔に

食後には湯茶で口中を数回すすぐのがよい。口の中を清潔にし、歯にはさまったものを取り去ることができる。牙杖(げじょう:つま楊枝)を使うのはよくない。

◎酒は天の美禄

ほどよく飲めば陽気を助け、血気をやわらげて食物の消化をよくし、心配ごとをとり去り、興を生じてたいそう利益になる。ところが、多く飲むとひとを害する。(略)たとえば水や火は人間をよく助けるが、同時に災いをもたらすようなものである。

◎膝から下の健康法

膝から下の、ふくらはぎの表と裏とを、ひとの手をかりて何度もなでおろさせ、さらに足の甲をなで、その後は足の裏を多くなでて、足の十指をひっぱらせると、気を下しそして循環させておちつく。自分でやるのはもっともよい。

◎衛生の道ありて長生きの薬なし

養生の方法はあるけれども、生まれついていない寿命を長くたもたせる薬はないという意味である。養生とはただ生まれついた寿命をよくたもつ道である。

これら実践的な養生術の根底には、ある一貫した思いが流れているようです。

「ともかく人生は、楽しむべきである」

『養生訓』冒頭、巻第一 総論上 には次の言葉があります。

ともかく人生は、楽しむべきである。短命では全世界の富を得たところで仕方のないことだ。財産を山のように殖やしても何の役にもたたない。それゆえに、道にしたがって身体をたもって、長生きするほど大いなる幸せはないであろう。

「人生を楽しむ」ことが目的であり、そのための長生き(長寿)、そしてそれを実現するための養生の方法、ということです。

この「楽しむ」という言葉、本書の多くの箇所に登場します。

◎人生の三条 (巻第一 総論上 22)

およそ人間には三つの楽しみがある。一つは道を行ない心得ちがいをせず、善を楽しむこと。二つは健康で気持よく楽しむこと。三つは長生きして長くひさしく楽しむことである。いくら富貴であっても、この三つの楽しみがなければ真の楽しみは得られない。

◎心は楽しく身は労働 (巻第二 総論下 9)

ひとは心を楽しませて苦しめないことがもっともよい。が、身体は大いに動かし労働することがよく、休養しすぎてはいけない。

 ※本noteのタイトル(=心は楽しむべし〜)は、この原文からいただきました。

◎道を楽しむことと長命と (巻第二 総論下 18)

『論語』に「知者の楽しみ、仁者の寿き(いのちながき)」という言葉がある。われわれは、そう簡単にその言葉には近づけないが、毎日を楽しみながら長命になる順序は似ているといってよかろう。

◎心を楽しく (巻第八 養老 4)

老後はわずかに一日でも、楽しまないで空しくすごすことは惜しまなければならぬ。老後の一日は千金に値するものである。ひとの子たるものは、このことを心にかけて思わないでよいはずはない。

なお、『養生訓』の最終巻(巻八)は、養老(老ヲ養フ)で締めくくられています(正確には、他に 育幼(幼ヲ育フ)・鍼・灸法 の記述あり)。

この「養老」に関しては、巻第一 総論上の冒頭にもこんな記述がありました。

 ひとの身体は父母を本(もと)とし、天地を初めとしてなったものであって、天地・父母の恵みを受けて生まれ育った身体であるから、それは私自身のもののようであるが、しかし私のみによって存在するものではない。つまり、天地の賜物であり、父母の残して下さった身体であるから、慎んで大切にして天寿をたもつように心がけなければならない。
 これが天地・父母に仕える孝の本である。身体を失っては仕えようもないのである。(後略)

まず自身が楽しむこと。その結果、心気を養い、長命になることが、ぐるっとまわって孝行の第一義である。これが、儒学者 貝原益軒の伝えたかった要訣だと感じました。

『養生訓』も貝原益軒氏も、さらに深く学ぶことで楽しめそうです!

▼参考リンク
日本のアリストテレスと言われた江戸時代の大学者「貝原益軒」| 西日本シティ銀行
貝原益軒 - Wikipedia

古典に学ぶ読書会

今回、『養生訓』を読むきっかけは 一般社団法人 人間塾の読書会でした。

東京・関西・名古屋で、毎月1回 同じ課題図書を読み、それぞれの地区の塾頭が提示するお題をもとに対話しながら学びます。(今年春以降はオンライン形式での開催)

▼Facebookページ:一般社団法人 人間塾

YouTubeチャンネルも運用しており、関連動画を公開しています。

以下は、2020年9月26日に開催された東京本会の『養生訓』読書会で、大竹塾長が総評した動画です。読書会の雰囲気が分かるので、ご興味あれば観てみてください。

「死ぬまでに読みたい名著をみなで読む」活動にご興味あれば、ぜひご連絡を!


最後まで読んでくださり、ありがとうございます! 感想や意見をSNSやコメント欄でいただけたら、なお嬉しいです。