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【建築】一日の疲れを癒してくれたポンピドゥー・センター(レンゾ・ピアノ&リチャード・ロジャース)

歩くことは好きである。日本でも普段から歩いているが、海外では特にそうだ。ある時の旅行など、測ってみたら10日間の”平均”が35,000歩/日だった。毎日約25kmも歩いていたことになる。アホか!
1日で何箇所もの建築や観光地を巡る都市部では、特にその傾向がある。

それはパリでも変わらない。

その日、早朝にホテルを出発すると、サヴォワ邸、エッフェル塔、ケ・ブランリ美術館、アラブ世界研究所、セーヌ川、カルティエ現代美術財団、国際大学都市などを巡った。

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基本的な移動手段は電車・メトロであるが、歩きも多い。
自分で組んだスケジュールとは言え、さすがに疲れ果て、滞在先のホテル近くにあるポンピドゥー・センターに戻って来たのは夕方であった。

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ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター。
現代アートに造詣の深かった第19代フランス大統領ジョルジュ・ポンピドゥーの構想による総合芸術センターでる。具体的には、図書館、近代美術館、映画館、ホールなどの施設が入っている。

有名な話だが、この施設が1977年に完成した時には相当な批判を受けた。

何しろパリと言えばシャンゼリゼ通りや、

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”巴里の空の下セーヌは流れる”街並みである。

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これら歴史と威厳のあるパリの街並みの中に、全く異質で前衛的で斬新な建物が出現したのだ。

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”調和したものの中に異質なものを置く”という表現は建築やアートでみられる手法であるが、その評価は非常に難しい。「ミスマッチがマッチしている」というやつだが、マッチしているか否かは個人の主観による。

正直な話、私にはポンピドゥー・センターがデザイン的にマッチしているのかどうか分からない。時が経って見慣れただけなのかもしれないし、本当に周辺の街並みと調和しつつあるのかもしれない。難しいところである。

それでもこの建物は好意的に評価すべきである。
なぜならこのプロジェクトの設計者(レンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャース、ジャンフランコ・フランキーニ)は当時ほぼ無名であったが、彼らは妥協することなく、このデザインをもって既存のパリの街に対して挑戦状を叩きつけたのだ。

結果はご存知のように、建築業界には革命を起こし、観光的には今やパリ屈指の名所となり、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースには建築家として躍進するキッカケになった。


さてその建物。
まず目立つのは、外部に飛び出たエスカレーターとガラスチューブの通路だ。それらはポンピドゥー・センターを意匠的に特徴付ける「顔」となっている。

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構造となる鉄骨の柱やブレース(柱と柱の間に入る×印の補強)、

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さらにはトラス(三角形を組合せた補強)も、そのままデザインの一部として表現されている。

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この工法によって、外側がガッチリした箱のような建物になっている。


裏側などもっと凄い。何十本ものダクトや配管がむき出しになっており、パッと見ほとんど工場である。

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配管やダクトは機能別に色分けされている。例えば青は空調、緑は水周り、黄・橙は電気、赤は人の動線(階段、エスカレータ、エレベータ)、白は大きな空調というように。

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こうして本来は内部にある(隠れている)設備をあえて外に出すことや、ガッチリした箱のような構造を採用することにはメリットがある。
それは内部がスッキリとして、広いスペースを確保できることだ。
例えばロビーは柱無しでもこんなに広い。天井も高い。

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展示室も広いので、企画に合わせて自由に壁を組むことができる。

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また配管をむき出しとすることで、修理対応やメンテナンスがし易くなるというメリットもある。

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そんなポンピドゥー・センターであるが、ここからが大事なところ!

パリの街を1日歩き回り、この芸術センターの中でも歩き回った私であるが、最後にたどり着いたのは5階にあるこのテラスであった。

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パリの街が一望できる素晴らしい眺望!
左にエッフェル塔、右にサントゥスタッシュ教会、真ん中の遠方にはラ・デファンスのビル群が見える。

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この彫刻広場も素晴らしい。展示されている彫刻に加えて、くつろぐ人々もシルエットとなって彫刻のように見える。
その先に見えるのはモンマルトルの丘とサクレ・クール寺院。

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白眉はこの広場だ。

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緑がある訳でもない、ただなだらかな傾斜のあるこの都会の真ん中の広場で、ある人々は石畳の地べたに座ってくつろぎ、ある人々はミュージシャンの奏でる音楽に耳を傾け、ある人々はおしゃべりしながら散歩を楽しんでいた。

そして私は屋台で買ったアイスを食べながら一人ボーっとしていたが、早朝からの疲れが何故だか一気に吹き飛んで、爽やかな気分になった。
あれから10年経つが、今でも忘れられない光景である。

この建物は当時のデザイン面での斬新さが紹介されることが多く、それは間違いないのであるが、それと同じくらいこの広場が果たす役割は大きいと思う。


余談だが、2010年に建設された分館であるポンピドゥー・センター・メス。
設計は日本の建築家である坂茂氏であるが、

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館内には配管・ダクトがむき出しになった展示室もあった。
設計コンセプトは全く異なるが、本館へのオマージュなのかな?

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