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【建築】アトリウムに緑があふれるフォード財団ビル(ケヴィン・ローチ)

普段はマイナーな場所ばかり訪れる私であるが、ニューヨークでは、建築はもちろん、有名観光地もたくさん訪れた。
なんてったってあのビッグ・アップルである。定番で何が悪い! 自由の女神もメトロポリタン美術館もセントラルパークも場末感のあるダイナーも、何から何まで存分に楽しんでいた。

そんなある日の午後、私は42nd Streetを東に向かって歩いていた。
マンハッタンの真ん中を東西に走るこの通り沿いには、ブロードウェイ、タイムズスクエア、ニューヨーク公共図書館、グランドセントラル駅、クライスラービル、国連本部などの有名スポットが並んでいる。


目的のビルは、クライスラービルを過ぎて人通りが少なくなったあたりにあった。フォード財団ビルである。

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フォード財団は、自動車メーカーのフォード社により設立された世界屈指の慈善団体であり、このビルは財団本部のオフィスである。

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まあ観光目的で行く人はまずいないだろう。もしかしたら、建築マニアでも訪れる人は少ないかもしれない。私もそれ程行きたいと思っていた訳ではなかったが、宿泊していたホテルの近くにあったので訪れることにした。

しかし実はこのビル、建築の歴史において重要なビルなのだ。それは高層ビルが立ち並ぶマンハッタンにおいて、初めて植物園のような緑あふれるアトリウムをつくり、さらにはその場所を一般市民にもオープンにした、つまりパブリックスペースとしたことだ。


ビルの高さは53m。マンハッタンにしてはあまり高くない。
ガラスの向こうには、内部のオフィスやアトリウムの木々が見える。

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ビルの名称は、Ford Foundation Center for Social Justice。カッコいい!

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このビルが出来たのは1968年だが、2016年から2年をかけて改修された。
設備の老朽化もあり、あまり手入れされていなかった植物を、ランドスケープの専門家も交えて、屋内環境に適した植生に見直したそうだ。


オフィスビルであるが、アトリウムは誰でも入れる。

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小さな池もある。

平日午後の時間帯なので人は少ないが、このビルで働いているであろうビジネスマンの姿も見かける。

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手入れもよくされているが、ベンチがないのは少し残念。都会のパブリックスペースなので、治安や不審者が居付くのを考慮してのことかもしれない。

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このビルは2つの通りに挟まれているが、そこには1フロア分くらいの高低差があり、アトリウムも段々になっている。マンハッタンは意外に(緩い)坂がある街なのだ。

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オフィスはアトリウムを囲むように配置されていて、室内からもアトリウムの緑が目に入るようになっているのだ。多分...。(オフィスには入れないので、どう見えるのかは分からない)

また建材に使われている花崗岩や錆びたコールテン鋼の赤茶色と植物の緑というコントラストが絶妙の組合せで、落ち着きと居心地の良さをもたらしている。

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一般的に、オフィスビルという建物は効率性が求められる。つまり少しでも高いビルを建て、より広いオフィス面積を確保することだ。
しかしこのビルはマンハッタンにしては低く、しかもビル面積のかなりの割合をアトリウムが占めている。全く非効率である。
このことは当時画期的であったし、今でもこうしたビルが建設される事例は少ないと思う。これは発注者が、慈善事業としての高い理念を持つフォード財団であったということも理由だろう。

またアトリウムについても、今や少し大きなビルでは珍しくもない。しかしそこを植物園のように緑溢れる空間にしている事例は意外に少ない。やはりメンテナンスにも手間がかかるからだ。

いずれにしても素晴らしい試みがされたビルである。


さて、帰りは再び42nd Streetを西に向かう。ここで”おのぼりさん”に戻るのだ。
グランドセントラル駅のオイスターバーで牡蠣を食べ、

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タイムズスクエアで写真を撮り、

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ブロードウェイで「オペラ座の怪人」を観に行かねばならない。

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これぞニューヨーク!!




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