独立記念日とカレーライス
2014年7月4日。その日、僕はニューヨークにいた。
空は継ぎ目一つなく灰色の雲に覆われていた。観光日和とはとても言えないが、明日には日本に帰らなければならない。それに今日はアメリカ合衆国の独立記念日だ。普段とは違う雰囲気を味わえるかもしれない。
僕はそんなニューヨークを堪能したくて、ミッドタウンのホテルを出た。
まず向かったのはタイムズスクエア。
今回の滞在中、タイムズスクエアには何度も来ている。昨晩もここを通り抜けて、近くのImperial TheatreでLes Misérablesを観た。「ラミン・カリムルーは流石の上手さだったなあ」と、そんなことを思い出しながら歩いているうちに着いてしまった。
しかし...
これが独立記念日のニューヨークなのか? タイムズスクエアなのか?
人が少ないじゃないか! あの賑いはどこにいったのだろう?
観光客や大道芸人のいないタイムズスクエアなんて、ハンバーグの入っていないハンバーガーのようなものだ。
お祭り気分を味わいたかった僕は少し、いやかなり拍子抜けしてしまった。
そうだ! 別の観光スポットに行ってみよう。
もしかしたら自由の女神が見える広場に行けば、少しは活気を感じることができるかもしれない。
僕は地下鉄A系統でロウアー・マンハッタンに向かうことにした。移動中、iPhoneで聴くのは「Take the 'A' Train」。もちろんエリントンの!
しかしここも同じだった。
ウォール街には多少の観光客がいたが、
バッテリー・パークは、観光客さえまばらだった。
ウィル・スミスがMIBに入るか否か悩んだベンチにも人はいない。
ニューヨーカーや観光客はどこへ消えたのだろう?
自由の女神もそっぽを向いているよう見えた。
雨が降り出してきた。
夜は友人と花火を見に行く約束をしているのに、どうなるのだろう?
もうあのエネルギー湧き出るニューヨークに出会うことは出来ないのか?
ハイイロリスよ、お前だけだ。僕のこの寂しさを分かってくれるのは...
僕はニューヨーク観光を一旦切り上げ、ホテルに戻ることにした。雨が止んでくれることを期待しつつ。
天が僕の嘆きを聞いてくれたのだろうか? 夕方になると雨は上がった。
僕は待ち合せていた友人とホテルを出て、イースト・リバーにかかるブルックリン橋に向かった。花火はそこから打ち上げられるのだ。
ブルックリンの埠頭広場に着く頃には太陽さえ顔をのぞかせていた。
「雨に降られて ぬかるんだ道でも いつかはまた 晴れる日が来るから」
秋元康がイースト・リバーを眺めながら書いた歌詞の通りになった。
昼間は家族や友人と過ごしていたであろうニューヨーカーや観光客もどこからともなく現れ、広場は彼らで溢れ出した。
遠くにエンパイア・ステート・ビルが見える。空がトワイライトに染まる中、国旗の色にライトアップされたその姿は驚くほどに美しい!
やがて空が夜本来の暗さを取り戻すと花火が打ち上がる。
周りからは歓声が上がった。
ブルックリン橋の塔の上からも打ちあがる。
歓声はさらに高まり、盛り上がりをみせる。昼間は沈んでいた僕の心もスッカリ癒され、彼らと一緒に感嘆の声を上げていた。
マンハッタンの摩天楼に輝く花火が映り込んでキラキラ光る!
何という美しさだろう!
僕はこの日のことを忘れることはないだろう。
日本に帰国して数日後、たまたま近所の花火大会を見た。
そこで分かったことは、あの日の花火はキャンプのカレーライスみたいなものだったということだ。
キャンプのカレーライスは旨い。しかし残ったカレーを自宅に持ち帰って食べてみると大して美味しくない。ワイワイガヤガヤとみんなでつくって食べるその雰囲気が美味しく感じさせていたのだ。
独立記念日の花火もそうだ。
冷静に思い返すと、アメリカの花火はかなりショボかった。使われる火薬の色も少ない。日本礼賛はあまり好きではないが、日本の花火の方が数倍美しい!
何のことはない。独立記念日という特別な日に、異国でみんなと騒ぎながら観ることが楽しかったのだ。
そしてもう一つ、今回この記事を書いて分かったことがある。
やはり僕は小説家にはなれないということだ。
次回からはいつもの記事に戻ろう。
追伸:
イマイチと書いたが、プロのカメラマンが撮った花火はやはり美しい。
(2014年 Macy's Fireworks 38th 公式サイトより)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?