01日本橋

イノベーションは顧客から、でしょ。

意味のイノベーションの実現困難性

最近流行りの「意味のイノベーション」という言葉の意味を知るために「突破するデザイン」という本を読んだ。意味のイノベーションとは要するに「コモディティ化した商品に新しい意味が与えられることで、新市場が創出されること」という意味である。典型例として、かつては照明器具だったロウソクが癒しアイテムとして認識され市場拡大している事例が挙げられている。おおむね同意である。

しかし気になる点もある。意味のイノベーションを起こすプロセスの起点は自分の想いや気づきというくだりである。

無理でしょ。

そういう天才的なひらめきを得られることこそが天才の天才たる所以であって、我々凡人にマネのできるわけがない。凡人にも可能なデザインプロセスを提案して欲しいものである。

イノベーティブな顧客を発見せよ

本稿では、代案として「イノベーティブな顧客の発見」を意味のイノベーションを起こすプロセスの起点に置くことを提案したい。

イノベーティブな顧客とは、たとえばポータブルテープレコーダーを音楽再生目的で旅客機に持ち込むような特異な顧客を指す(ウォークマン発案者である井深大ソニー元名誉会長の実話)。井深氏はソニーの名誉会長であったため従業員に命令して実際にウォークマンを開発することができたが、イノベーティブな顧客の大多数はソニーの名誉会長ではない。だから企業がマーケティング予算を使って彼らを探し出し、彼らの代わりに新製品を開発して世に広めるべきというのが本稿の提案である。

「イノベーティブな顧客の発見」を起点に置く利点は以下の通りである。

1. 彼らは御社の顧客である
幸いなことに、彼らはすでに御社の顧客である。すでに接点があるのである。見つけ出すことはけっして不可能ではないので安心して欲しい。

2.彼らは実践している
自称天才プロデューサーの馬鹿げた妄想と異なり、イノベーティブな顧客は実際に御社製品をイノベーティブに使いこなしている。どちらが信頼に値するかはいうまでもない。

3.彼らは共感を集める
たとえば1978年に録音機能のないカセットテープレコーダーが売れるかと質問すれば誰もが売れないと答えただろう。しかし井深氏がカセットテープレコーダーを機内に持ち込むに至った経緯(体験談と言い換えてもいい)を知れば「なるほどこの人が録音機能のないカセットテープレコーダーを欲しがるのは理解できる」と誰もが答えただろう。これが「共感」である。体験談に共感を示した人の数が多ければその製品は売れる。そしてイノベーティブな顧客はすでに体験談を語れる状態にあるのである。

発見を無駄にしないために

ウォークマンが当初ソニー社内で大反対にあったように、イノベーティブな顧客のイノベーティブな使いこなしは、主観的にそれを受け入れられない凡人に大反対される可能性が高い。この混乱を回避する方法として「コンセプトテストによる新製品アイデアの評価」を合わせて提案する。

「コンセプトテスト」とは、これから作る新製品新サービスによって顧客の得るであろう体験を架空の体験談として記述し、顧客になり得る消費者層に読ませてその感想や意見を聞く調査手法のことである。共感度という数値で回答させることが多いため「シナリオ共感度法」とも呼ばれる。

一般消費者を対象とした調査の結果という客観的根拠を示すことで、主観的な反対意見を抑えることができる。しかし調査には予算が必要である。よって、決裁権限者には主観的に納得できない新製品アイデアであってもコンセプトテストの予算を承認する度量が求められる。理想的には業務プロセスの必須工程としてコンセプトテストを明文化しておくとよい。

イノベーションは顧客から。これを令和時代の新しい常識としたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?