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最近流行のカスタマージャーニーマップはイノベーションの役に立つのか

結論から書く。カスタマージャーニーマップは現状をわかりやすく表現するためのツールに過ぎない。そこから画期的なアイデアを思いつくかどうかは個人の力量次第である。しかしカスタマージャーニーマップを作るには前提として深い顧客理解が必要である。深い顧客理解は画期的なアイデアに必要である。

最近流行のカスタマージャーニーマップとは

ものづくりの現場においてカスタマージャーニーマップが流行っているようだ。実際に筆者も最近カスタマージャーニーマップのセミナー講師を依頼された。問い合わせが多いのだそうだ。

カスタマージャーニーマップとは、顧客の典型的な体験をフローチャート風に表現したものである。「顧客の典型的な体験」とは要するに「大勢の顧客から集めた製品サービスにまつわる体験談を集約したもの」のことである。もしもターゲットユーザーの設定が正しければ彼らは皆似ているはずである。似ているゆえに大勢の顧客から集めた体験談は1つか2つのストーリーに集約可能である、という考え方による。

顧客の典型的な体験を表現する手法はたくさんある。シナリオは短編小説で顧客の典型的な体験を表現する手法であり、ストーリーボードはシナリオに挿絵を追加したものである。シナリオの主人公の設定資料を別につくることもありこれをペルソナと呼ぶ。顧客の典型的な体験を漫画で表現したりコンセプトアートと呼ばれる1枚の絵で表現することもある。しかし実際にはカスタマージャーニーマップが一番人気である。

カスタマージャーニーマップの利点

カスタマージャーニーマップが他の手法よりも流行した理由は「タッチポイント」に関する状況把握のしやすさにある。タッチポイントとは、企業が顧客ゴール(製品サービスの利用によって顧客が達成したい大目的)を支援するために提供する大小様々なサービスの総称である。宣伝広告も店舗看板も陳列棚も店員も包装紙も、そして製品自体も全てがタッチポイントである。

カスタマージャーニーマップは体験を俯瞰的に表現するのに適している。結果として、今現在どこでどのようなタッチポイントを提供しているのか、役に立っていないタッチポイントはどれか、あるべきなのに提供されていないタッチポイントはどこか、等をわかりやすく表現できる。

なお、このような主たる製品サービスだけに着目するのを止めて全てのタッチポイントを包括的に設計する方法論をサービスデザインという。サービスデザインは古い方法論からの大きな視座の転換が生じるため、イノベーションに有効だと言われている。

大事なのはカスタマージャーニーマップでなく顧客理解

現在のカスタマージャーニーマップ人気はなんとなく過大評価されすぎのような印象があるので、あらためてここに書いておきたい。

カスタマージャーニーマップは現状をわかりやすく表現するためのツールに過ぎない。確かにタッチポイントの過不足やタッチポイント同士の矛盾の発見には有効だが、イノベーションにつながる画期的アイデアを思いつくとは限らない。画期的なアイデアを思いつくかどうかはあくまでも個人の力量次第である。

しかし、カスタマージャーニーマップを作るには前提として深い顧客理解が必要である。たとえば書籍の内容を要約するにはまず書籍の内容を全て読んで理解しなければならないのと同じである。つまり、カスタマージャーニーマップを完成させた開発チームはその過程で深い顧客理解を得ている可能性が高い。深い顧客理解とはすなわち顧客自身も気づいていない困りごとや願望の発見である。

深い顧客理解こそがイノベーションの鍵である。いかなるハイテク技術も顧客に好評価されなければ不良在庫であるし、全く技術的優位性のない思いつきでも顧客に好評価されればイノベーションといえるレベルの社会変革を成し遂げることができる。イノベーション実現に必要なのは、カスタマージャーニーマップという成果物でなく、その作成過程で開発チームの得た深い顧客理解なのである。ここを見誤ると、浅い顧客理解の元に雑なカスタマージャーニーマップを作ってしまい、時間をかけて作ったのになんの役にも立たなかった、という悲惨な事態に陥ることもあり得る。

大事なのはカスタマージャーニーマップでなく顧客理解、この言葉を忘れないでいただきたい。

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