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【うたた寝列車】~エピローグ~

おはようございます。
ヒロのしんです。

前回、ここnoteで初めて投稿した僕の短編小説はいかがでしたでしょうか。
(短編小説【うたた寝列車】はこちら↓

小学生の頃から、童話や小説を読むのが好きでした。
僕の心に残っている、一番古い思い出というか原風景は夕陽が差し込みオレンジ色に照らされた部屋の片隅で、親に買ってもらった【オズの魔法使い】などの児童文学を読んでいた、そんな光景です。

その後、自分でもノートに物語を書くようになってきました。
あれから、数十年。
今でもやっぱり小説は好きで、読むというツールが文芸本から文庫本に、そして、KindleやAudibleへと変わってきても、僕の人生で物語というのは常にそこにあるものでした。

そして、今。改めて自分でも物語を紡いでいきたい。
そんな強い思いがふつふつと湧いてきて一気に書き上げた物語が、
この【うたた寝列車】です。

当初は、短編読み切りを考えておりましたが、
僕の中でこの二人のこれからの物語をもう少し見ていきたい、
また、この二人がどんな不思議な体験をするのか、
読者として一緒に楽しみたいって思ったので、
今回、【うたた寝列車】のエピローグを書くことにしました。

それでは、うたた寝列車を降りるところからスタートです。
最後まで読んでいただければ、めっちゃ嬉しいです。


【うたた寝列車】~エピローグ~


『えっと。あなたも・・・』
彼女の笑顔をまともに見れない僕は、そう呟くだけで
精一杯だった。

「着いたよ!行こ!乗り換えなきゃ。」
乗換駅に着いたとたん、彼女は僕の手を引きつつ
ホームへ飛び出し、向かいのホームで乗り換え待ちをしている
快速電車に乗り込んだ。

ちょうど二人席が空いていたため、
そこを目がけて彼女は座った。

窓際に彼女、通路側に僕。
その時まで、彼女は僕の手を握ったままだった。

『あっ。ごめん。』
謝ったのは僕の方。

「私の方こそ。びっくりさせちゃって・・・」
この時になって彼女自身、
急に恥ずかしさが込み上げてきたようで俯いてしまった。

「変な女だと思ったでしょ。」
「いきなり声かけるし」
「初対面なのに、手まで握っちゃうし」
「ごめん」

僕はもう激しいくらいに、
首をブルンブルンと振って、彼女の言葉を否定した。

そこで彼女に少しだが笑顔が戻ってきた。
それでも、やっぱり不安気な顔で僕を見返してきた。

『ほんと、気にしてないよ。』
『こっちこそ、声をかけてくれて嬉しかった。』
『だって、あの状況で一人だったら、完全にパニクってたでしょ。』

「ほんと?」
『うん。ほんとに本当』

数分前に見とれていた彼女の笑顔が完全に戻った。
僕は、彼女のこの笑顔が今後も続くと良いなって、
人ごとのように考えていた。

「改めて、わたし山崎響(やまざきひびき)」
「R大学社会学部の3年生」

笑顔のままで、彼女は自己紹介してくれた。
先ほどまでの、恥ずかしげな彼女はどこに行ったのか、
出会った時の様な快活な彼女が僕を見つめている。

『僕は、神足新(こうたりしん)』
『えっと、R大学の・・・』

「知ってるよ」
『えっ?』
またもやポカンと口を開けてしまう。

「いやいや、名前は今、初めて聞いたけど」
「さっき言ったやん。キャンパスで見かけたって」
当たり前かのように彼女は答える。

『あっ。そうか。』

「君、2年生?」

『なんで知ってるの?』

「だって、昨日だったかな。」
「険しい顔しながら、2年生の掲示板をずっと見てたやん。」

(あっ、見られてた。)
今度はこっちが恥ずかしさに顔を赤らめ、俯く番だった。
(さすがに、給付型奨学金を受けるために必要な成績を見てショック受けてたとは言えんよな。)

「どうしたん?」
彼女が僕の顔をのぞき込む。

何でもない風を装い、
僕は彼女の目をまっすぐに見つめ返してこう言ってやった。

『同じ大学やったんやね。めっちゃ偶然。』

その後、大学の最寄り駅に着くまで
僕たちはお互いのことを自己紹介しあった。

彼女は、僕が乗った駅の次の駅が自宅の最寄り駅であること。
彼女は、現役入学なので実は僕と同い年であること。
彼女は、僕の行ってた高校の隣の高校出身で、
もしかしたら通学時に会っていたかもしれないこと。
彼女も、中学時代はバスケ部だったこと。
彼女の趣味も、
映画鑑賞で好きな俳優はレオナルド・ディカプリオであること。

駅から大学までの直行バスに乗ってからも
僕たちは後ろの席に陣取り、
好きな映画や今までに見た映画について話をした。

もっぱら僕の方は聞き役だったけど。

そして、バスは大学に到着。
バスから降りる際に、僕たちは
ポケベルの番号を交換し合った。

この日から、僕の、神足新のちょっと不思議で
ワクワクの止まらない日々が始まった。



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