なぜスタートアップはインパクトについて考えるべきなのか: Forbes JAPANインパクト100推薦スタートアップ解説
みなさん、こんにちは!
Archetype Venturesの北原です。
6/14に初note記事"なぜVCはサーキュラーエコノミーに投資するのか"を公開しましたが、多くの方々に読んでいただき、ありがとうございました。
今般、上記記事内の”グローバル100社超のサーキュラーエコノミー関連スタートアップのリスト”に、どなたでもアクセスできるようにしましたので、よろしければ是非ご覧ください。
さて、その記事をきっかけにお声がけいただいて、先日出版されたForbes JAPAN 2022年7月25日発売号の「世界・日本のインパクト企業・スタートアップカタログ100」に、スタートアップを中心に10社ほど推薦させていただきました。
今回は、推薦時のスクリーニングの前提、確認した事業内容やインパクトについてお伝えしたいと思います。インパクトという要素を事業に盛り込むことで、事業の可能性を大きくしたり、事業の社会的意義を適切にコミュニケーションしていく際に参考になれば幸いです。
インパクト創出企業とは
本特集の冒頭で直近の背景が説明されていますが、もう少しスコープを広げて、そもそもインパクトを創出する企業とはどういうものなのかについて、まずは確認します。
インパクトとは
一般的に引用されるIMP/Impact Management Projectによれば、インパクトとは、人々のウェルビーイング (健康、幸福など)や自然環境の状態といったアウトカムになります。
この定義に基づき、インパクトを測定、マネジメントしていくため、Impact Frontiers (IMPによって開発されたリソースや知見をインパクト投資家に提供する組織)が、インパクトの構成要素を5つに整理してくれています。
・WHAT: 貢献したアウトカムとステークホルダーにとっての重要性
・WHO: 対象ステークホルダーとアウトカムに関する現状と課題
・HOW MUCH: ステークホルダーの数、提供する変化の度合いと継続時間
・CONTRIBUTION: 取り組みを通じたアウトカムの変化への貢献度合い
・RISK: 創出されるインパクトが予期していたものと異なる可能性
そして、実際にインパクトを導き出すための方法がロジックモデル (事業や組織が最終的に目指す変化・効果 (アウトカム)の実現に向けた 事業の設計図)になります。
・インプット:活動を行うために投入する資源
・活動:モノ・サービスを提供するために行う諸活動
・アウトプット:変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービス
・アウトカム:事業や組織が生み出すことを目的としている変化・効果
ここまででインパクトとはどういうことであり、どのように導き出すのかは説明できましたが、ここからはインパクトがなぜ重要であり、年々関心が高まっているのか、インパクト投資という文脈で整理します。
インパクト投資とは
インパクト投資の拡大と成果向上を目的として2009年に設立されたGIIN/Global Impact Investing Networkによれば、インパクト投資とは"財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動"と定義され、以下の4つの要素で構成されます。
・with the intention: インパクトを創出しようという意図
・measurable … impact: 測定できるインパクト
・positive social and environmental impact: ポジティブな社会的、環境的インパクト
・alongside a financial return: 金銭的リターンも追求
そして、具体的なテーマとしては、あくまで例示としてですが、持続可能な農業 (sustainable agriculture)、再生可能エネルギー (renewable energy), 自然資源保護 (conservation), 小口金融 (microfinance), and ベーシックサービスへの実効的なアクセス (affordable and accessible basic services including housing, healthcare, and education)が挙げられています。
そして、インパクト投資の上位概念であるサステナブル投資について、世界的なサステナブル投資の普及団体であるGSIA/Global Sustainable Investment Allianceが7つの投資手法として整理しています。
また、Catalyzing Wealth for Changeを踏まえて、取り組みアプローチ、取り組み度合い、求める経済的リターンで分類している、GSG国内諮問委員会の整理も参考になります。
ここまででインパクト投資とESG投資がサステナブル投資に包含されるという関係性はクリアになったと思いますが、その差分について言語化しておきたいと思います。
両者は大きな目的としては持続可能な発展で一致しつつ、フォーカスしている側面が異なっていると認識しています。
・インパクト投資: より大きな、深い社会課題へのアプローチはフィナンシャルリターンをもたらすというロジックで、事業をソリューションとして直接的に社会課題を解決する企業/取り組みに投資
・ESG投資: 企業・事業リスクを低減することがフィナンシャルリターンをもたらすというロジックで、事業の環境、社会、ガバナンスのリスクをマネジメントしている企業/取り組みに投資
推薦したインパクト創出スタートアップ
インパクトに始まり、類似する概念を整理しながら、インパクト投資までサクッと整理してきましたが、ここからはForbes JAPANの特集に推薦したスタートアップの紹介に入っていきます。
本来は内部でロジックツリーを作成し、各要素を表すKPIを設定した上でデータ収集を行うべきところ、私が外部から見える範囲の情報を繋ぎ合わせて作成しているため、十分に説明できていない点、ご容赦ください
Apeel Sciences (US)
コーティング剤で野菜や果物の鮮度を長く保つApeel Sciencesですが、2020/7に外部機関によるレビューも入れながらライフサイクルアセスメントを行い、自社コーティング剤を利用することでどれだけ鮮度が長持ちし、結果としてCO2排出量や水消費量が抑制されるかを定量的に開示しています。
Back Market (France)
リファービッシュ品のマーケットプレイスを運営するBack Marketでは、Environmental Capital Groupがライフサイクルアセスメントを支援し、CO2排出量、電子機器廃棄物の抑制量を算出している。なお、Contagious Onlineの記事とは数字が大きく異なっている点はご留意ください。
Circulor (UK)
Circulor社はブロックチェーンを活用したツールを提供することで、信頼性のあるライフサイクルアセスメントを実現するという形でインパクト創出に貢献する立ち位置になります。
エアークローゼット (日本)
エアークローゼット社は抱えている事業がそれぞれ独立しつつ、連携して、更なる価値を創出しているという点で面白く、また事業の立ち上げの順序という観点でもとても良い例になります。
まずはプロのスタイリストが服を選んでくれて、色々な服を着ることができるという顧客体験で顧客基盤を拡大
戻ってきた衣服をそのままサーキュラーコストをかけずに、既に広げてある顧客基盤に流し込んでいくことで、売上も上げつつ、廃棄コストも抑制
衣服としては再利用が難しくなっても、別の用途(リサイクルボード)を見つけることで、自社での衣服廃棄ゼロを実現、発表
結果、サーキュラーファッションとしてのブランドも強化され、エシカル消費に感度の高い、若者層を新たな顧客基盤として形成
Magic Shields (日本)
実績として、導入施設数だけでなく、予防しようとしていた転倒による大腿骨骨折の報告件数がないことを訴求しています。もう一段深掘りして、「ころやわ」でサービス提供できている高齢者数、それまでの報告件数からの減少度合い、それによって想定される健康寿命の伸長などまで深掘りできると、インパクトとしての説得力が増すのではないかと思われます。
Singular Perturbations (日本)
最終的なインパクトの計測、検証はこれからになりますが、その犯罪予測システムを使うことで、犯罪が発生しやすいエリア、時間に効果的にパトロールを実行できるという検証結果は既に得られているようです。
ここまで国内外6社のインパクト創出スタートアップを見てきました。海外でレイターステージに突入している2社は両社ともライフサイクルアセスメントを通して全体感をもって定量化していることが印象的でした。
スムーズな事業運営をしていく上で、企業としての社会的責任に応えるというのはもちろん、それを信頼性ある形式でコンテンツに落とし込み、社内外にコミュニケーションして、ステークホルダーの協力を得ることの重要性も伝わってきます。
最後に
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はインパクトの定義、インパクト投資として注目されている背景、インパクトを創出しているスタートアップとその取り組み、コミュニケーションについて見てきました。
多くのスタートアップは、厳密には"インパクト投資"という枠組みには入らなくても、本来的になんらかのインパクトを追求するために生まれ、活動しています。
ただ、しっかり意識を向けていないと、以下のような事態が往々にして発生するのではないかと思います。
・取り組みをロジカルに整理して、インパクトを創出するまでやりきれていない
・インパクトは創出しているはずなのに、正しく社内外にコミュニケーションしていない
・スケールさせられずに、実際のインパクトは限定的になっている
本記事が、インパクトという切り口で、皆さんの事業やコミュニケーションに対する考えを深めていく一助になれば幸いです。
また、起業家に限らず、繋がってみたい、話してみたいと思ってくれた方がいらっしゃいましたら、TwitterまたはMessengerにてお気軽にご連絡ください。
参考文献
本文では詳しく触れることができなかった詳細や背景については、以下の書籍をおすすめしておきます。
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