なぜVCはサーキュラーエコノミーに投資するのか
皆さん、はじめまして!
Archetype Venturesの北原です。
note初投稿なので、まずは会社紹介です。
Archetype VenturesはB2B Tech特化の独立系ベンチャーキャピタルで、Seed Plusステージを中心に投資しています。これまで2つのファンドを組成し、投資件数は40社以上になります。介在価値の最大化をミッションに掲げて、社会課題の解決に立ち向かう起業家とともに戦い続けています。
私自身は、キャリアの出発点で総務省に入省し、地域活性化に関わる仕事をしていました。その後、Boston Consulting Groupに転職し、中期経営戦略の策定や新規事業開発に関わる企業支援を行なってきました。
コンサル時代は、中小製造業向け新サービスのPoCを進めている時は工場に入り浸り、社内ミーティングは空き駐車場から出席するなど、ハードな日々を送っていました。他にも、南アフリカのヨハネスブルグオフィスに在籍していた時は泥水をすすったのもいい思い出です。
2019年に縁あってArchetype Venturesに移ってからは投資支援先のバリューアップ中心に活動してきました。そして、本年からキャピタリストとして投資活動も本格化しています。テクノロジーを活用したサステナビリティ課題の解決をテーマに掲げています。
きっかけは昨年投資したサプライチェーンのリスク管理SaaSを提供するResilireでした。サプライチェーンという結構重ためな領域に、業界経験のない20代の津田さんが挑んでいく姿を見て、こういう起業家を応援してハードな社会課題の解決に貢献したいと強く思ったことを覚えています。
前置きが長くなりましたが、サステナビリティの大きなテーマであるサーキュラーエコノミー/Circular Economy (CE)に目を向けている中で、「もっと起業家と出会いたい!」、「もっと多くの起業家にCEに取り組んで欲しい!」と思い、記事をまとめてみました。
今回はCEのポテンシャル、海外VCのスタンス、投資事例を通じて、なぜCEに投資が集まり始めているのかを確認していきます。別途、CEの事業立ち上げで考えるべきポイント、そもそもCEが必要とされている背景もまとめたいと思っています。
メインの想定読者はCE関連の起業家、既存事業にCEを組み込むことを検討している起業家ですが、大企業でCE関連の新規事業を検討している方にもお役に立つ部分があると思います。
時間がない方はこちらのサマリだけでも読んでみてください。
サーキュラーエコノミーの市場ポテンシャル
そもそもサーキュラーエコノミー (CE)とは、従来の廃棄物に目を向けるReduce, Reuse, Recycleといった取り組みだけではなく、そもそもの資源投入量・消費量の抑制まで企図し、地球がシステムとして閉じた系の中で持続的に成立することを目指しています (Closed Loop)。
そして、そこには広大なポテンシャルがあると認識されています。
WBCSD (持続可能な開発のための世界経済人会議)も引用している、AccentureのWaste to Wealthによれば、CEには2030年にグローバルで4.5兆ドルのGDP拡大をもたらすポテンシャルがあります。
日本政府は、2030 年までに、循環経済関連ビジネスの市場規模を、現在の約50兆円から80兆円以上にすることを目指すという目標(2021年6月成長戦略 FU 工程表)を掲げています。
実際に、2021年もCEにまとまった額の投資が流れるようになっています。
民間企業の投資8,000億ドル、政府予算の5,100億ドルの合計1.3兆ドルがサーキュラーエコノミーに流れています (Financing an inclusive circular economy)
総額370億ドルのClimate Tech VC投資のうち、モビリティ、CO2貯蔵、資源、農業・食料に次ぐ、21億ドルがサーキュラーエコノミーに流れています (1,100+ Climate Tech VC Deals in 2021 across 50 categories)。Climate Tech特化ではないVCも加えると、さらに巨大な投資が流れ込んでいると言えます。
確かに巨大なチャンスですが、完全なる新規市場というわけではありません。物理資産というアドバンテージを持つ既存産業のプレイヤーが多数存在する中、スタートアップとしては、デジタル、ソフトウェアに焦点を当てたサーキュラーエコノミー (Digital Circular Economy)、新素材や新しいマテリアル処理方法といった切り口で取り組んでいくのが筋が良いと考えています。
サーキュラーエコノミーに着目する海外投資家たち
次に、Circular Economy (CE)に着目し、直近ファンドを設立したり、積極的に投資している投資家の顔ぶれを見ていきましょう。
BlackRock
世界最大の資産運用会社であるBlackRockは、2019年10月に2,000万ドルをシードマネーとして、CE投資のファンド (BGF Circular Economy)を組成。預かり資産は順調に増え、一年後には9億ドルに至り、2022年6月10日現在では19億ドルの運用額になっています。
Closed Loop Partners
2014年設立のCEに特化したファンドで、VCからグロース、PE、プロジェクトファイナンスまで幅広いアセットクラスを抱えています。2021年12月に5000万ドルの2号ファンド、早くも今月6日に2億ドル超のバイアウトファンドを組成しています。
投資先には、今年1月に5,500万ドルを調達した、廃棄物の自動仕分けシステムのAMP Robotics、今年3月に5,000万ドルを調達した、生鮮食品の鮮度を伸ばすコーティング剤を開発するmoriなどがあります。
Regeneration.VC
2020年に設立、2022年3月に4500万ドルの1号ファンド組成を発表した新設VC。サステナビリティ、エンタメ、B2Cに強く、ウィリアム・マクダナー、レオナルド・ディカプリオが投資家、戦略アドバイザーに入っています。
サステナブルなライフスタイル製品を提供するD2CブランドのPANGAIA、レンタル、リセールのターンキーソリューションを提供するArrive Platformなどに投資しています。
Bessemer Venture Partners
CE特化ではなく、幅広く投資している老舗VCですが、使い切り経済に対して様々なプレッシャーがかかる中、CEに取り組む企業が増えており、それを支えるソフトウェア企業に新たな事業機会があるとしています。
投資先には、今年3月に700万ドルを調達した、中古品、過剰在庫品などのオークションプレイスのLoveseat、2021年3月にニューヨーク証券取引所に上場した、3DプリンターのVelo3Dなどがあります。
他にもリセールマーケットプレイスのVinted, リセールバックエンドのArchiveに投資しているLightspeed Venture Partnersなど、CEを社会的意義、インパクト投資という文脈ではなく、大きな事業機会、ソフトウェア産業が浸透していくべき領域と捉えて活発に投資している投資家が多数存在することがわかります。
サーキュラーエコノミーを推進する海外スタートアップたち
サーキュラーエコノミーカオスマップ
先にDigital Circular Economy、New Material/Treatmentの切り口が狙い目と伝えましたが、実際に海外で注目されているスタートアップはどの領域でどのようなビジネスを展開しているのでしょうか。
網羅的に収集したものではありませんが、海外のサーキュラーエコノミー (CE)関連スタートアップ(一部直近上場した企業も含む。)を、CEの事業領域のフレームに沿って、マーケットマップとして整理しました。
大きく事業者サイドのサービスとインフラ、そして消費者サイドという3つの構造で整理しています。
・サービスレイヤー:バリューチェーンに合わせて、サステナブル素材、分散型ものづくり、サステナブル購買、資源再生に分別
・インフラレイヤー:バリューチェーン全体をカバーするトラッキング・トレーサビリティ
・消費者レイヤー:CEを浸透させる消費者の行動変容
今回の初期的なリストアップだけでも、ユニコーンになっているスタートアップが、Appeal Sciences, Back Market, Carbon, Grove Collaborative, Grover, Infarm, Rubicon, Vestiaire Collective, Vintedになります。
また、既に上場している元スタートアップは、Aihuishou, Desktop Metal, Fathom, Velo3D, Ginkgo Bioworks, Li-Cycle, Rent the Runway, The RealReal, thredUPになります。
このように、海外では既にCE関連スタートアップへの投資が成果として結実しつつある状況にあります。
これだけではイメージが湧きづらいかと思いますので、今回はDigital Circular Economyビジネスの組み立て方として面白い取り組みだと思ったShelf Engine社の取り組みを紹介します。
CEビジネス立ち上げで特に重要となる、①事業の組立順序、②仲間づくり、③データ駆動型の事業モデルの観点から紹介していきます。
Shelf Engine
生鮮食品をはじめとする足がはやい商品の需要予測分析サービスを提供する、2015年創業のシアトルベースのスタートアップです。既にKroger, Walmartといった大手食品小売店をはじめ、1,000店舗以上で導入されており、2021年5月にはGeneral Catalystをリード投資家として$41 Mの資金調達 (シリーズBラウンド)を発表しています。
社会的課題
Shelf Engineは米国におけるフードロス問題の解決をミッションとしています。米国にはドギーバックなどの余った食品を持ち帰る文化はあるにも関わらず、以下のグラフのとおり2016年時点でアメリカの人口一人当たりフードロスは対日本で1.3x、国全体としては3x以上という膨大な量になっています。
こうした状況に対して、Food Loss and Waste 2030 Championsによれば、2015年にUSDAとEPAが掲げた2030年までにフードロス半減という目標に、50社近い大手食品製造・流通事業者がコミットしています。また、2016年に有機性廃棄物の廃棄を禁じる法律がカリフォルニアで制定されるなど、課題解決に向けて社会的関心が高まり、制度にも落とされてきていることが分かります。
データ駆動型の事業モデル
対象店舗の属性・実績データ(店舗の立地、商圏人口、過去および日次の販売実績など)、販促データ(過去および今後予定している販促計画)、外部環境データ(地元で開催されるイベント、ニュースのトレンド、天気、祝日や学校のスケジュール)といった多くのデータポイントから、SKUや店舗の種類に関わらず、日次で予測売上モデルを設計することができます。
需要予測自体は目新しくはありませんが、こうして特定ユースケースで先行的に事業を拡大し、データを蓄積して、機械学習モデルを磨き込んでいくことで、後発のプレイヤーと差別化されていきます。
事業の組立順序
当初、Shelf EngineはSaaSとしてサービス提供していましたが、一定の学習を経て確実に効果が出せるとなった段階で、発注に伴うリスクとリターンを自社で引き受けるResults-as-a-Service (RaaS)モデルに移行しています。
SaaSよりもさらに一歩踏み込んだ顧客の成功へのコミットメントを体現するモデルで、Shelf Engine自身がベンダーから仕入れ、小売店で売れた分だけ課金し、過剰発注による廃棄コストはShelf Engineが負う形になります。
廃棄削減で創出された余剰を、リスクを負うShelf Engineサイドに厚めに配分するモデルになっています。逆に、小売店サイドはリスクを最小化しつつ、収益アップも見込めるモデルになっています。
仲間づくり
最後に、Shelf Engineのモデルはベンダーと小売店の関係性を大きく変えるため、ステークホルダーが納得して参加する土壌が必要です。そして、それをアライアンスではなく、双方の契約関係という形で解決したのがScan Based Tradingです。
小売店舗に並ぶ在庫の所有権をベンダーに残し、実際に店舗で販売された分だけ引き取られたとカウントし、売れ残りのリスクはベンダーが被るというベンダーと小売店との新たな契約形態です。
一見すると、ベンダーに販売リスクだけ押し付けられているように見えますが、小売店に販売してもらっているだけでは入手できなかった販売情報、在庫情報が店舗別、SKU別に入手できるようになるため、生産量、配荷量を自社で調整し、効率化できるというメリットがあります。
こうしてベンダー、小売店、Shelf Engineがwin-win-winの関係を作れたからこそ、彼らは発注最適化にフルベットし、リスクを取り、リターンを最大化しているのです。
サーキュラーエコノミー関連海外スタートアップリスト
本日紹介できなかったCE関連スタートアップについて基礎的な情報を整理してみました。Circular Economyの具体的なイメージを持つ上で参考になると思いますので、是非チェックしてみてください。
併せて、追加すべきスタートアップのご連絡もウェルカムです(アップデート致します🙇♂️)
終わりに
ここまで目を通して頂きありがとうございます🙏
サーキュラーエコノミーの市場ポテンシャル、そこに集まるVCマネーの動き、そして注目されているサーキュラーエコノミー関連スタートアップを整理してきました。
"なぜVCはCircular Economyに投資するのか"
少しでもみなさんに楽しんで読んでもらっていたら嬉しいです。
最後に、起業家はもちろん、 こんな面白い/先進的な取り組みをしていますという方がいらしたら、TwitterまたはFacebookのDMでお気軽にご連絡ください。皆さんとの出会いを通じて仲間を増やし、社会を変えていく流れに少しでも貢献できればと思っています。
参考情報
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また、本文では詳しく触れることができなかった個別トピックについて、以下の情報もおすすめです。
The Shift To A Circular Economy (CB Insights)
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