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お菊井戸(シナリオ)

あらすじ
    竹林の井戸の中で、
    皿を数えるお菊のもとに、
    小さなかぐや姫が間違って
    転がりこんできた。
    どうにか、かぐや姫を
    月の世界に返してやろうと
    奮闘するお菊。

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人  物


お菊(25)怪談・皿屋敷の主人公
かぐや姫(10)竹取物語の主人公

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○うっそうとした竹林の中(夜)
  古びた井戸の中から、
  悲しげな声が聞こえる。

お菊の声「一枚、二枚、三枚・・・ 
 はぁ、毎晩、疲れちまうよ」

○井戸の中(夜)
   お菊(25)が井戸の中から
   上を見上げると、
   ちょうどぽっかり暗闇に
   丸い窓が開いたかのように                    
   夜空が見える。
   井戸の真上には、満月。
お菊「おや、まぁ、
  きれいなお月さんだこと」

   お菊、井戸の暗闇に皿を置いて、
   月をながめる。

お菊「昔、おっかさんに読んでもらった、
  かぐや姫を思い出すよ」
   
   お菊、くすん、と鼻をすする。

お菊「ちくしょうめ、せっかく、 
 そこそこ出世街道を
 進んでいたのにさ、
 こんな皿一枚のために
 井戸にほおり込まれて、
 おまけに毎晩、一枚、二枚、
 なんて数えてさ、
 すっかり名物になっちまったから、
 今更やめるのもどうかな、
 なんて律儀にやってたら、 
 時代は変わっちまってよ、
 今どき、私のことをネタに
 するのは落語家くらいのもんよ」
   
   お菊、ぶつぶつ言いながら、
   空を見上げる。

お菊「お月さんは変わんないのにさぁ、
 人も時代も変わっちまったよぉぉぉ」
            
   お菊、ひときわ大きな声で
   愚痴ると、
   自分の声が井戸にこだまして、
   思わず耳をふさぐ。
                  

    と、その時、強烈な閃光が走り、
   井戸の中まで、カッと照らし
   出される。
           
    そして煌々と輝く光の玉が、
    夜空にあらわれる。
    一瞬、視界を失い、
    失明したようなしぐさをするお菊。
             
お菊「あや!? あややや・・・!?」
    

          お菊、あたふたと狭い井戸の
   壁の感触を手で確かめる。
    そして、確かに井戸の中だと悟ると、
    ほっとして、
             
お菊「な、なんじゃったのだ、
  今の光は!?」
                
       やっと視界の戻った目をこすりながら、
  夜空と井戸の中を交互にながめる。
    と、なにやら、外より中のほうが
  明るいことに気付く。
             
お菊「なんじゃ、この違和感は・・・」
               
    と、井戸の中の、丁寧に
  九枚積んだ皿の上に、
  何か輝くものがのっている。
             
お菊「・・・な、なんじゃ、これは?」
                
       まだ慣れぬ目をしばたかせながら、
    お菊の目に入ってきたのは、
  やわらかい光に包まれた、
  小さなかぐや姫(10)。
             
お菊「・・・まさか・・・?」
               
       かぐや姫、小さくうなずく。
             
かぐや姫「・・・月から参った
  かぐやでござりまする。
  どうやら近くの竹と間違えて、
  井戸の中に落ちて
  しまったようでござりまする」
               
     お菊、驚きあきれて、
   狭い井戸の底にペタンと座り込む。
             
お菊「筒ってところは似てるけど、
  竹と井戸を間違えるなんたぁ、
  とんちんかんな子だね。
  それにかぐや姫との同居は困るよ、
     話が変わっちまうじゃないか」

○井戸の中(明け方)
  わらをかむって寝ようとしている
  お菊。
             
かぐや姫「お菊殿、
   眠ってしまわれるのですか?」
             
お菊「ああ、私ゃ、夜専門だからね。
   一晩考えてもいい案は浮かばなかった
   ことだし、あんたもひと寝入りして、
   次の晩に考えたらどうだい?」
               
          かぐや姫、しょんぼりして
    うなずく。
    その様子がしおらしく、
    お菊、ふんっと鼻を鳴らして
    わらをつかむ。
             

お菊「大丈夫、明日は明日の風が吹く、だ」
             
かぐや姫「・・・はい」
               
           わらをかむったお菊と、
   九枚積んだ皿の上にのった
   かぐや姫は、井戸の窓から差し込む
   朝日を避けて眠り始める。

○井戸の中(夜)
               
         わらの中でうなるお菊。
            
お菊「恨めしや~~~」
               
かぐや姫「お菊殿、お菊殿、
  それはお岩さんのフレーズでは?」
               
       かぐや姫のツッコミで、
  目を覚ますお菊。
           
お菊「おっ・・・かぐや、あんた、
   ホントにいたんだね、夢じゃなかったのか」
               
      お菊、うーんと体を伸ばす。
             
お菊「さぁて、今夜はあんたを月に
   返す算段を練らないとね。
   怪談とお伽噺は、同居不向きなんだよ」
               
       かぐや姫、皿の上で、
  ぽぉっと蛍のように輝いている。
             
お菊「あんた、さみしくないのかい、
   こんな暗いところに来ちまって」
               
        かぐや姫、首をふる。
             
かぐや姫「お月様がちゃんとあの窓から
  見えるし、平気です。
  それに井戸の中には、
  お菊殿もいるし」
               
        お菊、照れくさそうに、ふん、
  と鼻を鳴らす。
             
お菊「・・・さぁて、あんたをどうやって
   あのお月さんに帰そうかね」
               
       お菊、神妙に、小さな
  かぐや姫を見つめる。
             
お菊「時代考証もおかしいけど、
   そもそもかぐや姫って、
   皿にのるほど小さかったっけ?」
               
        お菊、一番上の皿を、
  かぐや姫ごと持ち上げる。
             
お菊「軽いな~」
               
           持ち上げられたかぐや姫、
   空中でゆらゆら光っている。
             
お菊「あんた、飛べるのかい?」
               
           なにか言いかけたかぐや姫を
   よそに、お菊は、そっと皿をはずすと、
   かぐや姫、ゆらゆらと光の玉に
   なって空中を漂っている。
             
お菊「ほぉ、なるほど」
                
           お菊、自分の手の平で
   かぐや姫を受け止めると、
   満足そうに笑う。
             
かぐや姫「何か妙案でも・・・?」
        

          お菊、不敵なほほえみを
   浮かべる。

お菊「勢いがつけば、この井戸からは
  出られそうだね」
   
             かぐや姫、不安気に首をかしげる。
    お菊、井戸の窓を見上げるが、
        今夜は月が出ていない。
        しかもさっきから、ポツリポツリと
        雨粒が落ちてくる。
  
お菊「明日の晩にしよう。
   かぐや、今夜は置き土産に、
   月の話でもしおくれ」
    
               夜を明かして、語り合う
    お菊とかぐや姫の様子。

○井戸の中(朝)
    同じわらの中でお菊と
    かぐや姫が眠っている。

○井戸の中(夜)
    井戸の窓から夜空を見上げる
    お菊とかぐや姫。
    今夜の空は凛として、
    月が輝いている。
    かぐや姫、さみしそうに
    お菊を見る。
    お菊、それを振り払うように、
    大仰に笑う。
  
お菊「大丈夫だよ、最初は練習するから」
  
かぐや姫「でも、お菊さんの大事な・・・」
    
              そう言うかぐや姫を制して、
    お菊、積んである皿の一枚を手に取る。
  
お菊「大丈夫、九枚もあるんだから、
   きっとうまくいくよ」
    
              そう言うと、お菊は皿を構え、
    井戸の天井窓向かって
    円盤のように投げる。
    一枚目は無残にも、
    お菊のすぐ頭上で、
    壁に当たって割れてしまう。
         破片が落ちてくるのも構わず、
         お菊は二枚目の皿を取り、
        上空へ円盤投げする。

       一枚目よりは、少し上に行くが、
      また途中で壁に当たって割れてしまう。
      そんな皿投げも七枚目で、
      井戸の窓を突破する。

お菊「おお! やったよ、かぐや! 
  さぁ、次の皿にお乗り!」
   
          お菊、小さな光の玉を、
   八枚目の皿に乗せる。

お菊「しっかりつかまってるんだよ!」
   
           そして、その皿を投げ上げるが、
   もう少しというところで、
   壁に当たって割れてしまう。
   破片といっしょに、
   ゆらゆらと降りてくるかぐや姫。

   お菊はやさしくそれを
   手の平で受け止める。

お菊「・・・最後の一枚になっちまったね。
  大丈夫、きっとうまくいくよ」
   
          かぐや姫、泣き顔で
   お菊を見る。

お菊「そんなメソメソするんじゃないよ、
  あんたのお月さんが待ってるよ」
   
           かぐや姫、泣きながらうなずく。

かぐや姫「お菊さん、ありがとう、
   きっと迎えに来るからね」

お菊「ってやんでぇ、
  あばよ、かぐや!」
   
           お菊、ひときわ男らしく
   タンカを切ると、
   いっそうすごい勢いで、
   最後の皿に乗せたかぐや姫を
   天井の窓へとほおり上げる。
   と、九枚目の皿は見事に
   井戸から外に飛び出す。
   
           再び、視界を失う、
   すさまじい光の海。
   光が薄れた頃には、
   井戸の中にはお菊の姿もない。

○井戸の中から(夜)
   月に向かう、
   小さな光が二つ、
   仲良く並んで夜空に浮かんでいる。

お菊の声「かぐや、ちょいと、
   そんなにひっぱらないでおくれよ」
   
           かぐや姫とお菊の楽しそうな笑い声が、
   夜空に響く。


               
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