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トラベラーズ(小説)

休日を使って
小旅行をしようと、
里美と圭子は、大阪にやってきた。


二人は高校時代の同級生で、
大人になった今でも、
時々、一緒に旅行したりしている。

 
大阪の街のノリと美味しいものが
目当てではあったが、
里美がお城好きで、
今回は是非、大阪城も見に行こうと
いうことになった。

 
城門から、多くの見物客が
城に向かって歩いている。

木枯らしが吹く中、
コートを着こんだ圭子が言う。


「お花見の時期でもないのに、
結構、人がいるんだね」


「寒いし、早く、お城の中、
入っちゃおうよ」


二人は、城の周辺に並ぶ
屋台を横目に、城の中へ入り、
エレベーターの前の長蛇の列に並ぶ。
 
ギュウギュウに詰め込まれて、
上まで上がるが、
天守閣は土産物屋ばかり。


「ご当地キティちゃんあるよ」


圭子が指差したキーホルダーを見て、
里美は笑う。

 
二人は、階段で、
次階へ降りる。


その階から、博物館のように
展示物がいっぱいで、
江戸時代の城内や庶民の暮らしぶりを
ブースごとに再現している。


「結構、イケてるじゃん」


里美はうれしそうだ。
二人は、展示物を見ながら、
一階ずつ下に降りて行った。

 

アルとイギーは、ホテルの椅子に
腰かけている。


「よく眠れたかい?」


アルは、ぼんやりしている
イギーに尋ねる。


「何だか勝手が違って
疲れちゃった」


イギーはだるそうに立ち上がる。


「朝食は、どうする?」


「・・・とりあえず、携帯用クッキーで
いいんじゃない?」

 
アル、旅行用のカバンから、
クッキーを取り出す。


「なんだか味気ない朝食ね」


イギーの言葉に、アルはうなずく。


「まぁね。でも、外で食事するのは、
ちゃんとガイドブックに目を
通してからの方がいいだろう」

 
アル、クッキーを食べながら、
脱ぎっぱなしにしていた服を
手に取って驚く。


「うわ~、すっかりシワに
なっちまったなぁ。
・・・ったく、旅行会社もとんだ服を
貸してくれるもんだなぁ」


「ここじゃ、そういう服が多いんじゃない?」


「そういえば、フツウギの項目には、
こんな類いの服ばかりだったからな」


アルとイギーは早々に
出かける準備を始める。


「せっかくこんな遠くに来たんだ、
早く観光に出かけよう」

大阪城の上階辺りで、
里美と圭子は、江戸時代の庶民の
生活を見て回っている。

 
里美は、‘触らないでください’
と書いてある展示物の井戸の
蓋をあけて、がっくりする。

 
圭子は、笑ってしまう。


「もう、里美、
どうしてそういうことするの。
底なし井戸だとでも思った?」

 
圭子の冷めたコメントに、
里美、余計がっかりする。


「圭子は、あんまりお城とか
興味ないかもしれないけど
・・・ちょっとはワクワクしないわけ?」

 
圭子は涼し気に答える。


「してるよ。でも、私は江戸時代の
風景だけじゃなくて、
いろんな時代を見てみたいな。
しかもホンモノを」


「え?」

 
里美、驚いて圭子を見る。

アルとイギーが大阪城の中を
歩いている。


「君もその上着、なかなか似合うね、
ちょっと今のとはデザインが違うけど」


アルは、微妙な顔をする。


「でも素材が、体にフィットしなくて、
気持ち悪いわ。
それに、そういう会話はタブーだって、
ガイドブックに書いてあったでしょう」


イギーに怒られても、
アルは軽く聞き流す。


「万一のこと考えてよ」


更に怒るイギーに、
アルは鼻で笑う。


「万一、ねぇ。はるか昔には時々、
ヘマやったみたいだけど、
今のご時世、パトロール隊がうまく・・・」


「アル!」


さすがにアル、口をつぐむが、
くすくす笑う。


「心配性のイギー、
大丈夫だったら」

城内の中階辺りで、
圭子は里美に語り始める。


「・・・子供の頃ね、
聖徳太子の絵本を見て、
あの時代に行ってみたいって思ったの」


「でも、聖徳太子くらいの人物だと、もう、
やってたんじゃないの、そういうコト」

 
圭子は、里美の意外な言葉に
驚いて目を見張る。

里美は話を続ける。


「その時代時代の超人って、
ダ・ビンチにしろ、エジソンにしろ、
そういう力あったと思うよ」


「どういうこと?」


「つまりね、
過去の偉人や超人の知識って
未来人が与えたものなんじゃないかな、
と思うわけ」

 
圭子、感心して、里美を見る。

里美、得意そうに続ける。


「ま、いわゆる、
タイムワープってやつよね。
でも、思うに、タイムワープしても、
一生その時代から抜け出せないのは困る。
ほんの一週間くらいでいいな。
それくらいのタイムトラベルが
できたらいいと思わない?」

 
圭子は、なるほど、と、
目を輝かせる。


「考えてみれば、
場所の移動に、
時間の移動が加わるだけで、
今の旅行と変わらないわね。
もちろん、同じ場所で時間旅行だけを
楽しむコースもあったり」


「で、戦争とかやってる
危ない時代には、
旅行中の保険がきかない、とかね」

 
里美の話にどんどん
引き込まれていく圭子。


「いつ、どこが危険か、.
歴史の教科書を見ればわかるわね」

 
里美はうなずきながら、
次の空想を提案する。


「で、服なんかは、
旅行会社が用意してくれる。
西暦何年のどこへ行きたいか言えば、
それに合う服を探してくれる。
そうなると、各時代の服を研究する
時代考証の分野が重要になってくる」

 
すごい!と圭子は喜ぶ。


「旅行会社は、時間と空間の間で、
大忙しね!」


「二倍どころか、
二乗の忙しさだよね。
そうなると、分業化とかすることに
なるんだろうな。
で、貸衣装屋さんが
繁盛したりする。
その時代と場所と身分に合った服を
選ぶ仕事なんて、すごい専門職だね」

 
圭子、展示物を見るのも忘れて、
話に没頭する。


「わ~、本当にもうすぐ、
そんなツアーできちゃうかも!
旅行会社も
ヨーロッパ1000年代専門店とか、
アジア紀元前専門店とかに
分かれちゃってさ」

 
圭子の言葉に、里美は
いたずらっぽく笑う。


「・・・いや、案外、もう来てるかも。
タイムトラベラーが、
私たちと同じ服装で、
この大阪城を観光しているかもよ」

 
圭子、ゾクッと身を震わせ、
そして笑う。


「ヤダー、鳥肌立っちゃうよ!」

大阪城の中階から、
イギーがアルの腕を引っ張って、
非常口の階段をかけ降りている。

 
アルは首をかしげる。


「・・・なんでバレたんだろう・・・?」

                 

                   了

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