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妻が妊娠し一緒に断酒したら、ノンアルコール日本酒を作ることになった話。

昨年、妻が妊娠しました。

2人ともお酒を飲みながら美味しい食事をする事が趣味だったので、妊娠の嬉しさは当然ありながらも、
一拍おいてから
「そうだ。これからいっときお酒飲めないね。」

という事になり、僕だけ飲むのもアレだなーと思ったのでそこから2人でお酒を辞めました。
その直後、1年前から予約をしていた和食屋さんに2人で食事に行った際に

「ノンアルってビールしかないよね。当然。こんな時に和食とかお刺身に合うようなアルコールが入ってない日本酒があったら最高なのにねw
いや、そもそ、ノンアルの日本酒って煮切ったみりんじゃないの?ww」

一番お酒と合わせたかった甘エビをカラスミで挟んだやつ。

なんて笑いながらながらドライゼロを飲みました。

僕は次の日の朝、酒蔵へ連絡を取り
「ノンアルコールの本格的な日本酒を作りたいんですけど」
と伝えました。

アルコールの何がすごいって旨味がすごい。

10年ほど前から付き合いのあった酒蔵さんだったので僕の性格や突拍子のなさも理解してくださっており、
「また、すごい話(変な)を持ってきましたね笑」
という感じで代表の安河内さんは話を聞いてくれました。
福岡県古賀市にある創業1763年(宝暦13年)の超老舗酒蔵翁酒造
ここが今回のノンアルコール日本酒を製造をしてくれる変わった酒蔵さん。

まあとりあえず、製法も何もないので一旦清酒を煮切ってみますか。

という感じでまず既存の日本酒を煮切る(熱してアルコールを飛ばす事)
やり方でやってみたサンプル第一号を飲んで驚愕。

マジで美味しくない。

薄めたみりん?みたいな。
とにかく180mlのグラス1杯全部飲みきれなかったことを今でも覚えてます。

「うえー、まずーーー」と僕が悶絶してる横で
安河内さんは
「やっぱりアルコールが持ってる旨味とか香りって凄いんですね。
いかに酒の仕上がりをアルコールに依存してたか。考えさせられます。」

と言ってて、やっぱ職人ってすごいな。と思いました。
安河内さんは当然知っていたのですが、
日本酒の旨味や香り8割以上がアルコールが占めており、それを単純に飛ばすだけでは味として全く成り立たない。

あの第一号の試作を飲んだ時、結構果てしない挑戦になりそうな予感がしました。。


炭酸入れてみた事で見つけた方向性。

のどごしと飲みごたえはでた。けど。

何度か試作を繰り返したが、どうしても飲みごたえが出せなかった。
最初の薄みりんに比べたら全然マシになったけど、何か食事と合わせるには飲みごたえが足りない。
そこで試してみたのが炭酸。
お酒を飲まない生活をし始めてから、食事の際はほぼドライゼロか炭酸水。
炭酸が喉にくるあの感じが飲みごたえを生んでくれるのではないかと考えたから。
付き合いのある飲料メーカーさんに相談してみたところ、
うちこんなのやってますよーとサンプルくれたのが炭酸に酒の吟醸香を添加した酒テイストな炭酸水。
すごー、炭酸の飲みごたえもあるし、ほのかにお酒っぽい香りもする!
と最新技術に感動しながらも安河内さんと話した結果、

やはり麹の発酵で生まれた旨味やコクって独特だし、出来るだけ自分達が持っている発酵プロセスの組み合わせで新しいものを作りたい。
という結論に至りました。
炭酸の添加は今後展開としてあるかもしれないけど最初は職人の手作業による伝統的なアプローチで今の課題を打破したい。そんな結論に至りました。
同時に今回のプロダクトを
これまで培った醸造技術・伝統的な発酵プロセスを用いた手作業によるクラフトノンアルコール日本酒にしよう。
と定める事ができました。

香料を使うか使わないかの議論

炭酸メーカーさんからのサンプルをもらって僕が思ったことはもう一つ、

え。香料ってすごくない?

って事。
数ヶ月、どうしても出せずに何度も試作を繰り返していたお酒独特の爽やかな香りは後付けできるんだ。って事を知ったので杜氏さんに
「香料使うのってどうなんですか?」
と聞いてみたら、
・香料は添加物扱い
・添加物扱いだけど、酒の発酵過程で揮発したものを冷却して抽出するので、「酒由来」である


この2点を教えてもらいました。

「せっかく発酵だけで味作ってるのに添加物かあ。」という思いと
ずっと出せずにいる大吟醸を連想させる華やかな香りがあまりに魅力的なのとで大いに悩みました。
実際に今出来上がっている試作品に数滴香料を垂らすだけで超芳醇な香りが付くのです。これはすごい。
これで一気に理想の完成形に近づくと思ったのですが、
このタイミングでこの議論をさらに加熱させるような一つの素晴らしいサンプルが出来上がったのです。

熟成させた酒粕を使ってみたら全て変わった。

長期間試作を繰り返していたので僕自身忘れてしまってたのですが、数ヶ月前に「酒粕ってお酒の香り少しするじゃないですか、あれ使えませんか?」
と試作依頼していたのだ。
それを受け、安河内さんは絞った酒粕の水分量を調整し、一番旨味や香りが出るであろう状態で冷蔵保存して熟成させていたのです。(醸造変態だ)
※熟成期間は企業秘密。○ヶ月です。
その酒粕を麹の仕込みの際に混合させて発酵させた結果、

これは美味い・・・。

フラスコなのであまり美味しそうじゃないけど歴史的瞬間

洋梨のような華やかでフルーティな味わい、香料よりしっかりした吟醸の香り、飲んだ後までしっかり余韻を残すコク。
原料は米麹と酒粕のみ。それなのにここまで綺麗なグラデーションが生まれるのは正直驚き。
頑なに伝統的な醸造技術の組み合わせで挑戦してきただけに、かなり時間がかかったけど、このプロダクトは歴史を変えるかもしれない。
と確信した瞬間です。

里帰りから帰ってきた妻とノンアル日本酒で乾杯

試作を始めて1年近く経っていたので既に妻は出産を終え、無事にハイパー元気な息子はこの世に爆誕していました。ちょうどこの試作が出来上がった時、妻は里帰りをしていたので、帰ってきて念願のノンアル日本酒で乾杯をしました。
「え、これ本当にアルコール入ってないよね?だとしたら凄い!!」
と驚いてくれました。いえーい。

それ以来、試作が上がるたびに我が家では密かにノンアルSAKEで乾杯を。
チビながらも「なんかうまそうなの飲んでんな」って顔で見てくる息子の顔は最高のおつまみ。

ノンアルビールや炭酸水にはない「天然アミノ酸」がもたらす
シン・和食体験

開発を続けていくなか、同時に深掘りしていったのは

そもそもなんで日本酒って和食と合うの??って事。

結論、
和食と日本酒の絶妙なペアリングは、日本酒に含まれるアミノ酸の豊富な味わいがうま味溢れる和食料理を一層引き立てるから。
市販のノンアルビールや炭酸水ではこの微妙な調和を完全には再現できないという事に気づいたのです。
今回のノンアル日本酒は、伝統的な発酵プロセスを経て製造されており、うま味成分であるアミノ酸を豊富に含むため、アルコールを含まないながらも食事の旨味を最大限に高めることができます。

伝統的な手作業による発酵をベースにする

冒頭に書いた、こんな料理の時日本酒があれば、、という感覚は味覚の理論上合っており、あの時にノンアルの日本酒という選択肢があれば飲めない人でも和食の美味しさを最大限享受できるのです。
もっと言えば、宗教上の理由、健康上の理由からお酒を全く飲めない方にも和食という日本が世界に誇る食文化を平等に伝える事ができる。
これは醸造文化だけでなく和食文化にも新しいリーチを生み出す可能性があるのではと思うようになったのです。

BEYOND SAKE 酒を超える存在

2023年夏、今年は史上最も暑い夏と言われるくらい、とにかく暑かった。
あまりに暑すぎると麹の発酵もうまくいかないので、夏の試作は大変でした。そんな中でも早朝や深夜の比較的涼しい時間を使って幾つも試作を作り続けてくれた酒蔵メンバーには本当に感謝です。

日に日に仕上がっていく試作品を飲むにつれ、最初は日本酒の代替品を作ろうという気持ちだったものが
「これって日本酒・醸造文化の正当な進化系なのでは?」
と思うようになってきたのです。

少し話が脱線してしまうかもしれませんが、
安土桃山時代に千利休が登場し、茶道は大きく進化し、その後に日本文化のベーシックな思想である侘び寂びという考えがこの国に定着しました。
ただ、千利休が登場する前にも茶道という文化はあったのです。
それまでの茶道は武士や将軍が絢爛豪華な茶室、華やかな装飾な器を用いるのが一般的で、その真逆のアプローチを取り、総合的に思想をプロデュースしたのが千利休だったのです。豪華な茶室は草庵に姿を変え、財を誇示する茶会から、相手を思いやるおもてなし文化へ姿を変えたのです。
このように、文化や思想が後世へ繋がっていく転換点には必ず真逆のアプローチで新しさを演出する存在があるのです。
大雑把な捉え方をしているので異論は当然承知です。
茶道で言えばそれが千利休。

そして醸造文化、日本酒の文化を後世へ繋げ、世界へ繋げるには
アルコール酒ではない新しいSAKEが必要だと言うこと。
その存在を担うような大胆で新しい挑戦をこのプロダクトを通じてやっていこう。我々が作るのは日本酒の代替品でなく日本酒を超える存在
「BEYOND SAKE」であるという想いでプロダクト全体のブランドタイトルとして定めました。

商標申請も済ませました。

新しい時代の一つの灯

そして、商品名。
昨今おしゃれでミニマルな海外チックなパッケージの日本酒が多くリリースされていますが、僕はもう少し日本のデザインを踏襲したかった。
商品名は「一灯」

昔ながらのヒゲ文字がかっこいい。

一灯を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。只だ一灯を頼め。

これは西郷隆盛、そして吉田松陰などの思想に多大な影響を与えた
佐藤一斎の『言志四録』の中の一文です。

人生で挑戦をしていれば暗い夜道を歩くように感じる孤独な時もある。しかし、ひとつの提灯(志)を提げていけば、いかに暗くとも心配することはない。その一灯を信じて歩むほかはない。

という意味。
酒蔵でありながらアルコール発酵をさせないプロダクトに全力で挑戦することはまさに未知の挑戦であるが、志を持ち勇気を持って進もうという気持ちで商品名に定めました。

今後の展開

おかげさまでプロダクトはほぼ完成しており、本製造は12月中旬頃に行える予定です。
パッケージも完成し、撮影なんかも順調に進んでおります。

スタートを連想させる海の朝焼けグラデーションをバックにした撮影

ありがたいことに12月初旬から応援購入プラットフォームであるMakuakeさんで先行販売も決定しました。

思いついたのは些細なキッカケ。ですが、今となっては酒蔵メンバー一同
時代を変える挑戦と捉えて全力で準備中です。
全然Xとかやってなかったのですが、最近プロダクトに関する進捗とかポストしてたりします。
記事を読んで、これおもろいかもと思ったらぜひフォローいただけると嬉しいです。Makuakeの公開時期とか早めにお知らせしますし、最初の方に購入いただけた方は数量限定でお正月に間に合うように発送するプランとかも考えてます。
https://twitter.com/HIROnorisaaaan

長々と読んでいただきありがとうございました!
日本の食文化を変えていく瞬間をぜひご一緒しましょう。

最高発酵責任者の安河内さん
販売責任者・クリエイティブディレクター赤瀬


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