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深大寺植物公園でシャロン・ストーンと三雲孝江を探す

薔薇が見たいと妻が言うので、深大寺植物公園に行ってきた
世界に認められたバラ園というだけあり、広い敷地には多数のバラが植っていて、その一つ一つに名札が立てられていた
名札にはいかにも薔薇らしい名前が書かれていて、それは確かにその薔薇の色とその薔薇の形にマッチしていたが、3歩歩くとすぐに忘れた
名前と共に薔薇の姿も思い出せなくなる
だがクイーン・エリザベスと名付けられた薔薇には気品があり、他の薔薇とどう違うのか言い表せた

そんなわけで人の名前がついた薔薇を探して歩くことになった
だが、薔薇の名前に釣り合う人物というと限られる
薔薇は花の女王
本物の女王なら薔薇を名乗るに値するが、
ちょっと綺麗なだけでは役不足
しかしここには400種の薔薇があるという
女王以外にも人の名を冠した薔薇があるはずだ

では、誰なら薔薇の名前に値するのか?
真っ先に浮かんだのが「氷の微笑」のシャロン・ストーンだった
白くてゴージャズ、クールで危険
まさに薔薇そのもの
そんなわけでシャロン・ストーン探しが始まった

シャロン・ストーンはすぐに見つかった
実際はシャロン・ストーンという名前ではないが、それは確かにシャロン・ストーンと呼べる白い薔薇だった

その白い花びらは、中心部では黄金角と呼ばれる最も美しい角度で重なっていて内側を覗くことはできないが、周辺部は挑発するかのように開いていた
まさにそれは「氷の微笑」で足を組み替えるシャロン・ストーン
その美しさに目が眩み、手を伸ばしてしまえば棘の餌食
美しさと引き換えに危険や痛みを要求する氷のような微笑みだ

実際のシャロン・ストーンは今65歳
しかし私の中のシャロン・ストーンは「氷の微笑」の足を組み替えるシーンで一時停止されたまま止まっている

簡単にシャロン・ストーンが見つかったため、今度は三雲孝江を探すことになった
三雲さんは牡丹じゃないの、と妻は言った確かにそうだが、ここには約400種、5200本の薔薇があるという
簡単に見つかるものを見つけるより、自分にしか見つけられないものを見つけた方が達成感は大きい
三雲さんもまた、私の中では時を止められた存在なのだ

かつて、三雲さんは生放送で見るに限る、と言った友がいた
三雲さんの肌を吊り上げている糸が切れる瞬間にリアルタイムで立ち会いたい、というのがその理由だ
確かに三雲さんにはシワがない
それを70歳近いのに不自然だと思うのは自然だ
吊っているに決まっている、と友は言う
そして、その糸が切れる瞬間が見たくて視聴者は見ているのだ、と

そんなことがあるのだろうかと思って私も見たが、そう言われるとハラハラした
重力に耐えきれなくなって糸が切れた時、三雲さんが一瞬にしてヨーダに変身してしまうと思うと、お昼のワードショーが命を張ったチキンレースに見えてきて、私の頭の中で、奇跡のバンド、ブランキー・ジェット・シティの曲の中で最もベースの暴力性が際立った曲「DYNAMITE PUSSY CATS」が流れた

本当はただの寂しがりやの荒くれ者たちが、小さなガキから50過ぎの売春婦まで集まる店で大騒ぎするという歌で、プラチナブロンドがウッドベースに「いったい俺たちいつまでこんなこと続けるのか?」と聞くくだりがある
ウッドベースは「あの細く美しいワイヤーが切れるまでと」と答えるのだが、三雲さんも同じ気持ちに違いないと思ったのだ

「今日も三雲さんの糸は切れなかった」
Yahoo!ニュースを見て、私がまず思うのはそのことである
切れていたら、全てその話題になるだろう
三雲さんについての記事があがっていないということは、今日も糸は切れなかったということだ

それはいつしか「今日は何もない日だったけど、大過なく過ごせてよかった」という青年期の終わりを示す安心感と重なっていった
そしてそれは「三雲さんの糸も切れなかったことだし、多くを望むことより今ある幸せを大切にしよう」という思いへと変わっていった
私は気がつくと、穏やかな毎日を過ごすことができるようになっていった

「三雲さんはなかったね」
我々夫婦は5200本すべての薔薇を見て回ったが、その中に三雲孝江と呼べる薔薇はなかった
中には萎れかけた薔薇もあったが、萎れかけているから三雲さんというわけではない
三雲さんというのはロックであり、チキンレースなのだ
触ったら怪我をするというチキンレースは薔薇を見ているものが行うが、糸が切れたら終わりというチキンレースは三雲さん自身が行なっているのだ

帰り道、出口の近くで品評会が行われていた
そこにはいろんな品種を掛け合わせた薔薇が展示してあったのだが、掛け合わせの過程の薔薇には、その過程でしか見られないものがある

2度と見られない薔薇!
私はその中に、広末涼子と名付けられた薔薇がないか探した


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