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彼のイロ

抱いてほしいと願ったその人は
絶対に私を抱いてくれなかった。。

 その人と知り合ってまだたったの2ヶ月…。
いや、2ヶ月も経ってないのかと昨日二人で驚愕した。
いや…驚愕したのは私だけだったのかもしれないが。

いわゆる『出会い系サイト』で出会った彼。
性的なことを目的とする男。金銭の授受ありきで肉体を売り物にする女。そんな男女が多いサイト内で、彼は他の人とは違う『何か』があった。

【違和感だらけで、浮いている】
という表現が一番分かりやすいかもしれない。ピンクだらけの文面に 気持ちわりいと思いつつサイトを眺めていたとき、見つけた。異彩を放つその文面に、私はひどく心が踊った。赤とも黒とも緑とも言える文面。怖いようで切なくて、素直なようでひねくれている。彼の生み出す文章は、きれいな色ではないかもしれない。でも、気持ちが悪くなるようなパステルなお花畑カラーではなかった。


私はバカと話すのは嫌いだ。自分もそこまでレベルを下げて会話しないといけないから。サイト内に溢れているのはバカな男ばかり。私も…馬鹿なふりをしてみると男からの誘いは絶えなかった。。

彼と話すのは好きだった。落ち着いた。安心した。
馬鹿なふりをしなくていい。私の持ってる知識を全部出し切ったところで、彼の知識を超えれるはずもなく、彼からは教わるばかり。私馬鹿なんだろか?なんて思うこともあったけど、彼から貰う『君は聡い』の言葉に、何度もほっと息をついた。


初めて会ったのは昨日。
出会い系サイトだと『いつあいてますか?』というメールは腐るほど来る。
これは、なんとも返信しがたい。
空いてる日は沢山あるが、あれもこれもそいつに譲るつもりなんてない。一度会って気に入られて、次はこの日!なんてなろうもんなら煩わしくて仕方ない。でも、彼は『僕はこの日なら会えるがどうですか?』とメールをくれた。こういった誘い方は、本当にうまいと思う。彼は自分のことを好きじゃないようだけど、彼のこういうところを好きな女性は多くいると思った。私もその一人だ。

会える日が待ち遠しく、その間のやり取りもすごく楽しかった。一度たりとも彼のことを嫌だと思ったことはなかったし、知り合った当初よりどんどん彼に惹かれていくのが自分でもわかるくらいだった。

待ち合わせに来たうるさい車。優しい目をしてるのに厳つい服装の男性。話しかけてくれるのに全く目が合わない。それが彼。
先に説明を受けてたから、ある程度わかってはいたものの、【彼らしい】と思わず吹き出したほどだった。
好きなものは好きで、とことん貫くタイプ。私は彼を、そんなふうに思ってる。隠しきれない優しさと真面目さ。白が似合うような気がしたけど、彼はきっと黒や赤を好むだろうとも思った。

この人に抱かれたいと強く思った。
人として尊敬してる人に、人としてを褒めてくれた人に、すべてを話しても受け入れてくれた人に
【女】の私を褒めてほしくて、受け入れてほしくて。

冗談っぽく、でも嘘っぽくならないように
『だいてくれないの?』と何度も聞く。
絶対とは言い切れないけど、そういう関係にはなれない。と彼は目を合わさずに答える。
ワンナイトならばきっと相手にしてくれたのだろう。
その後一切の連絡がなくなるんだろうが。
でも、それを私も彼も望んでない。
出来る事なら、ずっと、末永く、男女のソレでなくてもいいから繋がりがあってほしい。これは本心。でも、『抱かれたい』これも本心。

他の男と一緒になりたくない。
しないと言ったのに、じゃぁホテル行くか!ってなったら、俺だせぇじゃん。

そんなことを言われてしまったら、もう抱いてほしいなんて言えなくなってしまう。ずるい人。ほんと、ずるい人。

帰り際、友人ってどこまでならいいんだろ?って聞くと、ハグだろって。相変わらず目は合わない。ちゅーは?ねぇちゅーは?の私の問をサクッとスルーして、車の中で『ほら』って両手を拡げて運転席から身を乗り出してくれた彼に、私の下半身が湿りそうになったことは、教えてあげない。
なんか悔しくて、おでこにちゅーをして、笑いながら車を降りる。目が合わない彼が、照れてるのだけは横顔でもわかった。

いつもならお世辞だろとか、次はねぇなとか思いながら口にする『またね』を、昨日は本心で言った。心の底からまたこの人に会いたいと思った。

性的には抱いてもらえなかった。でも、セックスしたときより、なにか満たされるものが私の心にはある。
まさか出会い系のサイトに、こんなふうに思える人がいたのかと驚いてしまう。こんな出会いもあるのか。

彼に性的な魅力を感じてる以上、抱いてほしいと日々思ってしまうだろう。それを冗談のように、出来るだけ重くならないようにねだる日もあるだろう。でもその都度彼はきっと照れ笑いのような苦笑をしながら、目も合わせずに断るんだろう。
そんな情景が目に浮かんで、私はニヤついてしまう。

くそ、なんか悔しいな。次は唇奪ってやるんだからな。
目が合うまで、ずっと見つめてやるから覚悟しとけ。



抱いてほしいと願ったその人は
絶対に私を抱いてくれなかったが

私の心を抱きしめてくれた
ありがとう

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