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長柄高校馬事文化研究部活動記録

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#新馬戦

この雨にやられて――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑫

「いやー、先週の重賞は見ごたえがあったね。どっちも三歳牝馬の優勝で」
「札幌記念のソダシは持ち前のしぶとさでラヴズオンリーユー以下古馬のGⅠホースを撃破。『クロフネ産駒は芝2000m以上の重賞を勝てない』なんてジンクスも一蹴して、秋華賞へ向けて視界が明るくなったわね」
「北九州記念のヨカヨカもすごかった! なんてたって熊本産馬初のJRA重賞制覇だもんね。生産者さんもうれしかっただろうなあと思うと、

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賭癖50――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑫

 こんにちは、長柄高校馬事文化研究部顧問の田村宮子です。
 今日は特別に、私が体験したちょっとだけ奇妙な出来事について、みなさんにお話ししようと思います。
 あれはそう、私がちょうど、ひさしぶりに手を出したWIN5で五レース目の関谷記念を裸同然の51キロのソングライン1頭に絞ったがために手痛い負けを喫した、その翌日のことでした。
 午後に人事部主催の特別勉強会があるから必ず出席するように――上司か

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55歳、真夏の大冒険――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑪

「いやぁ、それにしてもすごかったよね」
「ホント、あの歳での偉業達成なんて、感服だわ」
「まさに真夏の大冒険! って感じだね」
 クラスの用事があって少し遅れて部室に着くと、先に来ていた女子部員三人がそんな会話に花を咲かせていた。
 あ、これはあれだな。ピンときたぞ。つい先日、閉会を迎えたばかりの、あれだ。みんな、意外と見てたみたいだしね。
 僕は挨拶もそうそうに着席し、会話に加わった。
「昨日、

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五輪・オブ・ミルファーム――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑩

「いやぁ、すごいわね、馬術」
 職員室にこの日の活動記録を提出にいったときのことだ。顧問の田村宮子先生が雑談のなかでそんなことを口にした。
「ああ、オリンピックですか」
 いま、真っ最中である。部員のみんなもこのあいだ意外に中継を見てることが判明したけど、田村先生も同じらしい。
「なに言ってるの。私たちは『馬事文化研究部』なのよ? 馬術競技はきっちり押さえておかなきゃでしょ」
 う……たしかに。い

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ラスカルスズカの話をしてました――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑨

 この日の部活が始まる直前、こんな話題になった。
恵麻「そういえば私たちが新馬戦回顧で出してる評価値だけど、あれ、いったい何点でどのくらいの評価なんだ、って上から訊かれたの」
姫「それってつまり、採点基準みたいなこと?」
恵麻「そこまで厳密じゃなくてもいいけど、目安みたいなものを示したほうがわかりやすんじゃないかって」
璃子「ああ、それはたしかに。まあ、わかりやすく示すと、こんな感じかな」
 そう

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それが、大事――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑧

「結局のところ、馬券で大切なことはすべて、大事M〇Nブラザ〇ズバンドが教えてくれてるのよね……」
 完成した先週分の活動記録を見せに教科準備室を訪ねると、我らが馬事文化研究部顧問の田村先生が窓の外を見つめてたそがれていた。
 あ、これはまた、あれだな……。
「いや違うのよ、天塩君。今回の負けはほんのちょっと。本当に少額だから」
「全然違わないじゃないですか……」
 前も似たようなことがありましたよ

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カレンとキズナでShall we ダンス――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑦

 部活が終わり、僕がトイレから戻ってくると、渡辺さんがひとりで部室に残っていた。てっきりほかのふたりと一緒に先に帰ったものだと思っていたけど……ひとりでノートPCの画面を眺めてうっとりしている。どうしたの?
「ああ、ハヤタ君。ちょっと、YOUTUBEでTCKのプロモーションムービーを見てたんだよ。ハヤタ君も見る?」
 渡辺さんがノートPCの向きを変えて、僕にもその映像を見せてくれた。
『トゥインク

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小粒なゴルシはピリリと辛い?――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑥

 今日も今日とて、僕たち馬事文化研究部の部活は終了した。
 七月に入り、中央競馬の開催は福島、小倉、函館の三場に移行。「宝塚記念も終わって、炎の十番勝負の結果も出たし、ここからが本格的な夏競馬だよ」と室谷さんは言っていた。ちなみに十番勝負では残念ながら辻35ポイント賞はもらえなかったらしい。おもしろいけど難しいよね、十番勝負。
 ちなみにこの番組について室谷さんと阿久津さんと渡辺さんの三人は、

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伝説の新馬戦はストロング缶で祝杯を――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑤

「馬券を買わない競馬なんて、ノンアルコールビールみたいなもの。でもだからといって、ストロング缶で悪酔いする必要も、全然ないのよね……」
 放課後、部室にやってきた僕たち馬事文化研究部部員一同が目にしたのは、窓の外を眺めてため息を放つ、田村宮子先生の姿だった。
「えと……どうかしたんですか? 先生……」
 四人を代表して、阿久津さんが先生に声をかけた。けれど、わかっていた。阿久津さんはもちろん、僕も

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ハイアムズビーチは競馬場デートの夢を見るか? ~長柄高校馬事文化研究部活動記録③

「競馬好きで売ってる女性タレントがよく言う、『競馬にハマったきっかけは親しい友達に誘われて』ってあれ、確実に元カレの影響ってことよね」
 部室に入ってきていつもの席――僕の隣に腰かけるなり、そんなふうに話しかけてきたのは、我らが馬事文化研究部の部員のひとり、阿久津姫さんだった。
 えと……阿久津さん? なぜいきなり、色気づきはじめた男子中学生みたいな話を?
「いやね、昨日たまたまテレビで見たのよ、

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世界の〇〇現る? ――長柄高校馬事文化研究部活動記録④

 前回までの長柄高校馬事文化研究部活動記録は……などとリプレイダイジェストをお送りしている場合ではない。時空の歪み、あるいは更新の遅れが生じたせいで、僕たちはいまだ馬事文化研究部の部室にいる。
 六月十九日と二十日の新馬戦回顧が終わるまではこの部室から一歩も外へ出られない、そんな世にも奇妙な状況に巻き込まれている……わけではないけれど。
「それじゃあまずは六月十九日の札幌5R芝1200m、牝馬限定

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コマンドラインの一年後を占う?――長柄高校馬事文化研究部活動記録②

「では始めましょう、来年のダービー馬を探せ! Go for the classics 2021-2022 第一回新馬戦回顧~、パチパチパチパチ」
 馬事文化研究会の室内に、室谷さんの軽やかな拍手が鳴り響く。
 えと……これはどうしたらいいの? 長机を囲むほかのふたりは黙ったままなんだけど……。
 と、僕が反応に困っていると、室谷さんはとうとう沈黙に耐えかねたのか、拗ねたように唇をとがらせた。
「な

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