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スタイリストが勧める、ファッション系ドキュメンタリー映画5選

いよいよ3月に突入ですが、色々とバタバタしていて国よりも先に緊急事態宣言出したい人が多いんじゃないでしょうか。僕も仕事が延びたり飛んだりしていますが、ま、どうにかなるでしょ。

とりあえず大部分の方は在宅や自分の生活圏での行動が多くなっていると思うし、ニュースはどこで何人増えたとかあれが悪いこれが良くないばっかりで気が滅入るしということで、気分転換や学びにファッション系の映画はいかがでしょう?

今回はちょっとレアなドキュメンタリー形式に絞ってご紹介してみたいと思います。ご参考になれば幸いです。

1、アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー

まずライトなところから、アイリスアプフェルの映画を。

アイリスさんは当時94歳にして現役の(!)実業家であり、ファッショ二スタです。2005年にメトロポリタン美術館で彼女を特集した企画展が組まれたことから広く名が知れ渡り、映画化までされるようになりました。
 
とにかく独特のファッション・人生哲学を持つ彼女。
 
「人の目を引くためじゃなく、自分のために服を着ているの。」

「人と同じ格好をしないのは、自分の意見を持つということ」

「センスがなくても、幸せならいい。皆好きな服を着るべきだもの。」

などなど名言を連発。”まいにちアプフェル”カレンダー作って欲しい。

映画ではそんな彼女の哲学を日常から拾いながら、個性的な外見だけでない内面にも迫っていきます。ご主人とのツーショットの空気感もとても素敵。エッジの効いたシニカルな発言についニヤケっぱなしで観てしまいました。

正直、誰もが彼女のように自由に装うことは難しいかも知れない。でも今の時代はファッションに窮屈さやつまらなさを感じて、忙しい毎日の中で装うことの意義や楽しさを失ってしまった人が本当に多い。色々考えすぎなんですね。

アイリスのファッションに対する考えは単純明快で、すべて禅問答のようにスパッと答えを出していきます。そんな彼女の考えに触れて、ファッションに対してもシンプルに、自由に考えてほしいという願いを込めてオススメします。

そして何と現在は御歳98歳。
世界最高齢のファッショニスタとして、まだまだパワーを振りまいて欲しいですね。

2、マックイーン モードの反逆児

マックイーンの芸術性を極限まで表現した「美しい作品」

アレキサンダー・マックイーンというブランドの名前は、ご存知の方が多いのではないでしょうか?イギリスのキャサリン妃が結婚式で着用したドレスでも話題になりましたが、この時は既にマックイーンはこの世になく、担当したのは後継のサラ・バートンでした。

マックイーンは、先のアイリスアプフェルとは対象的に40歳という若さでこの世を去りました。ドラマティックかつ破壊的なデザインは大きなインパクトを与え、スカルのモチーフは今でもブランドの代名詞となっています。僕も好きなブランドのひとつです。

その作風から天才的でアヴァンギャルドな面がピックアップされがちですが、この作品では彼の家族愛、ひとりの服好きの無邪気な一面や不器用な一面など、人間的な魅力も垣間見ることが出来る構成に。特に母親には特別な愛情を注いでいたようです。

マックイーンも天才であったがゆえにジバンシィのデザイナーに抜擢されるなど時代が彼を放っておきませんでしたが、その多忙さやデザイン面での制約によるストレスが自らを苦しめていくことになり、様々な不幸な要素が重なった挙句、ついには自ら命を絶ってしまいます。

この負のサイクルは今のファッション界でも問題となっていることです。この作品を観ると、現代の売れっ子デザイナーがいかに大変なポジションかを理解することが出来るのではないかと思います。

関係者へのインタビューや当時の映像がメインのドキュメンタリーではあるものの、章ごとに挿入されるアーカイブの作品を使った映像は妖しいほどに美しく、マックイーンを扱った作品らしい芸術性の高さにも、故人へのリスペクトが感じられる一本です。

3、We Margiela マルジェラと私たち

”謎のデザイナー”の実態に迫った作品。ラストまで見逃せない。

マルタン・マルジェラをご存知でしょうか?
ある時期から一切顔を出さなくなり、現存する本人写真もほぼ無い。一時期は死亡説すら流れたほど”徹底して表に出なかった”ことが神秘性を高めたデザイナーです。

現在はメゾン マルジェラというブランド名になり、デザイナーもジョンガリアーノに代わっていますが、このタグは見たことがあるという方も多いのでは。

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元々はこのタグも数字すら無かったのですが、作中ではそんな設立当時の話や、さらに今もスタッフが制服としている白衣についても歴史を知ることが出来ます。

当時華やかさばかりが評価されていたモードの世界に、残布を利用した古着のようなモチーフや斬新で複雑なデザインを引っさげて登場したマルジェラ。業界からは賛否が集まりますがユーザーからの人気はうなぎ上りに。

世間ではマルジェラの存在自体もファンタジーとなり熱狂的なファンを生み出しますが、クリエイションをマルジェラが担当する一方、ブランド運営を担当していたジェニー・メイレンスという女性の存在が。作品ではそのジェニーを中心とした関係者の証言を繋いで、”謎のデザイナー”の人物像に迫っていきます。

その過程で今だから言える裏話やこれまで外部の人間は知ることが出来なかった謎多きブランド内部の様子も明らかになり、ファッショニスタには興味深い作品になっていると言えるでしょう。ちなみにタイトルのWe Margielaは、インタビューに答えない”彼”の代わりに、周囲の人間が”私たち”という総称を使ったことに由来しているのだとか。

そして構成も大変練られており、ラストの結末によって映画としての起承転結が収まり、単なる証言ドキュメンタリーに終わらないクオリティに。ぜひじっくり鑑賞して頂きたい一本です。

4、ファッションが教えてくれること

「プラダを着た悪魔」の編集長のモデルとなった女性の日常とは

アナ・ウインターといえば、泣く子も黙る米版VOGUEの編集長です。

とにかく切れ者で厳しい!この鬼!と思わず言いたくなる。

作中でも容赦なくボツを出し、部下から悲鳴が上がってもお構いなし。原題となっているセプテンバー・イシュー=9月号を最高のものにするべく、一切の妥協を許さず突き進んでいきます。

あの「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが演じた編集長のモデルは彼女。さらに一時期は駐日大使に名前が挙がるなど各界で影響力を発揮している人物ですが、それもこの作品を見れば納得。

もちろん厳しくはあるのですが、ファッションやデザイナー、雑誌関係者へのリスペクトが随所に感じられ、終盤では娘と打ち解けて話す場面も。厳しさの裏に確かな実力と愛が感じられます。

またズルいのが、クールな表情からふいに見せる笑顔。
美しいだけにまたそれが引き立ち、不良がちょっといいことするとすごい評価される的な効果を生んでいます。計算してやってたらまたズルい。

そして、今作のもうひとりの主人公として注目してほしいのが、腹心のグレイス・コディントン。彼女はアナとはまた違ったセンスを持ち、見解が異なることもあるりつい愚痴も出る。でも結局はアナが”現実的に正しい”ことを認めざるを得ない。その意見の対比から見えてくるものもまた、作品の味になっています。ちなみにこの作品での「ボヤきっぷり」で人気を博した彼女、後年には自伝を出版しています。

雑誌を売るために、徹底して妥協を許さないアナ。そこにはまたデザイナーとは違った苦悩やポリシーがある。ビジネス的な視点からも参考になる作品です。

5、フランカ・ソッツァーニ  伝説のVOGUE編集長

イタリア版VOGUEを支えた、もうひとりの伝説の女

おそらく、ファッションフリーク以外は聞いたことがないかも知れないこの名前。
 
30年近くに渡ってイタリア版VOGUEの編集長を担当した、業界ではまさに伝説の編集長なのです。日本風に言うなら、東のアナ・西のフランカという感じでしょうか。

どちらも肩を並べる実力者ですが、その手法には違いが。読者を意識し結果を出すことを至上命題にするアナに対して、フランカは「ファッションは芸術であり、社会問題を内包している」と、とにかくアート性の高い写真やその時の社会問題に切り込むことにこだわります。

結果、とてもファッション誌とは思えない”DV”を特集テーマにして炎上したり、親会社からは「これ以上やるならクビにする!」とマスコミと揉めに揉めることに。

それでも「読者に夢を見せたいの」と批判をまったく意に介さないスタンスは、イタリアの読者のみならず世界的な支持を得て個性を確立。アート性にかけてはVOGUEでも随一と評価されるに至ったのです。作中の親会社の人の手のひら返しが笑えますよ。

映画的に面白いのは、実の息子が密着を行なっているドキュメンタリーという点。親子なのでときに喧嘩をしたり内輪の冗談を言ったり、編集長という鎧を外した”素の姿”が見られます。

また息子の視点ということで、フランカという女性の美しさ、これまでの人生についてもより深く掘り下げることが可能に。作品を見ていただくと分かりますが、若い頃から本当に美しい。本人も「私の外見で寄ってきた男は多かったけど、長続きしなかったわ」とサラッと言っているくらいです。吹き替えするとしたら桃井かおりが適当か。

そして、人生を振り返る中で「愛」について多くの時間を割いているところがイタリア人らしいと言えるでしょうか。実はインタビューしている息子は未婚の母で産んでいるので、彼は様々な角度から父のことや母のプライベートをについて聞こうとします。聞きたいという子供の想いに共感したり、母の人生にも共感したり、観る人の立場や環境によって様々な印象になる作品です。

そして、トリビアとして知っておいて頂きたいことが二つ。

フランカは病のため残念ながらインタビュー後間もなく亡くなってしまうのですが、死の間際まで彼女と行動を共にしていたのが、なんとアナウインターなのです。

最初はあえて距離を置いていたそうですが、次第にそのセンスと手腕を認め合うようになり、貴重な理解者として親交を深めていったのです。

さらに、映画公開後には監督をしたフランカの息子とアナの娘が結婚しているんです。これこそまさに映画ではないですか!こっちも実写化してほしい。

ファッション界を牽引した、今なお牽引している二人の遺伝子を結び付けるなんて神も粋なことをしたものです。ぜひこの二本は連続して観て頂きたいと思います。

 
これらの映画に登場する人々に共通しているのは

人がどう思うかなんてどうでもいい。やりたいことを貫け

という強烈なメッセージ。

もちろん全ての人の立場で出来ることではないかも知れない。でも突き抜けて成功する、自分で満足できる人生を送るためには必要なことなんですよね。

信念が伝われば周囲も理解してくれるし、支持者も増えて結果にも繋がる。それを伝えられるまで頑張れるかどうかが勝負、なのかな。頑張ろう。

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