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追悼:カール・ラガーフェルドよ永遠に

ファッション界の巨人、カール・ラガーフェルドがこの世を去った。

ファッションが好きな人なら誰もが知る人物だし、それほど詳しくない人でも「シャネル」「フェンディ」のデザイナーであること、特徴的なポートレイトを見せれば”ああ、この人か”と分かる人も多いのではないだろうか。
 

正直、先月シャネルのオートクチュールに姿を見せなかった時点で嫌な予感はあった。でもカールのことだから、プレタのショーでは何事もなかったように現れて涼しげな顔で「私はいつものように仕事をしていただけだ」と体調不良説など一蹴してくれるに違いない。そう信じていた。

 
いや、信じたかった。

 
僕などが伝えても伝えきれないことは重々承知だが、それでもファッション業界の端くれとして、カールについて1人でも多くの方に知ってもらうために語らねばならない。少しでも記憶に留めて頂けたらと思う。

 
カールの凄さと言えば、まず享年85歳まで第一線でトップブランドのデザイナーとして走り抜けたことだろう。しかもシャネルに至っては1983年から30年以上に渡ってクリエイションを行なっている。自らが興したブランドであっても時代の趨勢やアイデアの枯渇からデザイナーの交代が当然である業界にあって、これほど長期間に渡って勤め上げたことはまさに異例と言える。他の業界で考えても、そうそうあることではないと思う。

 
その活動の源泉は何かと言えば、これまた年齢からは考えられない柔軟な発想力。

 
ファストファッションが台頭してきた時、多くのトップメゾンのデザイナーが否定的な見解を示す中、カールだけが「若い人々にリーチできることは非常に興味がある」と自らの名を冠したリーズナブルな「カールラガーフェルド」を立ち上げ、間口を広げることを志向。この時のインタビューを読んだが、やはりこの人は視点が違う、と感銘を受けたことを覚えている。

 
そして、何と言っても2004年のH&Mとのコラボレーション。

今でこそH&Mのコラボシリーズは定番になっているが、その発端はカールとのコラボ。トップメゾンのデザイナーがファストファッションとコラボするなど、それまでは考えられないことだった。カールが先陣を切ったことで他のデザイナーもこぞってコラボするようになったのだから、影響力は推して知るべしだろう。そして自らがモデルとなって登場したことも新鮮だった。

 
そんなカールのデザインの真髄と言えば、やはり「先見性」「ユニークな視点」だろう。

シャネルの2019春夏コレクションでは、バッグをクロスしてアクセサリー風に見せるスタイリングを提案。これはチェーンなどを装飾したデザインの一歩先を行くアイデア。毎年ショーの面白さ、豪華さでも話題を独占した。

「カールラガーフェルド」 では、自身と愛猫のシュペットを大胆にアイコン化したプリントを披露。ユニークなアイデアはこれまでカールを知らなかった層からも興味を惹き、新たな客層を獲得することに成功した。かくいう僕もカールのアイコンアイテムを多数所有しているのだが。

 
80を超えてなお、ファッション界を牽引するイマジネーションを発揮できるデザイナーが他にいるだろうか。一体どのような頭の中だったのか本当に知りたい。

 
最後に、カールを表紙に起用した雑誌の編集長から聞いた話より、彼のひととなりの断片を。

 
現場には、まず先に愛猫のシュペットが入ったそうである。しかも専属のペットシッターを引き連れて。

 
そしてカールは当時お気に入りだったモデルと共にスタジオ入り。写真家でもある自身が指示を飛ばし、いかにも近寄り難そうなオーラに周囲が萎縮する中、空気を読まない若いアシスタントが軽率にも撮影した写真についてナチュラルに疑問を呈してしまった。凍りつくスタジオ。

 
ところが、カールはスタッフと対等に会話しただけでなく、その後も彼とアドバイスや冗談を交わしたのだという。おそらくその指摘が正しかったからだろうと語っていたが、御大となった今でもフラットな感覚で接していることが分かるエピソードではないかと思う。

 
僕にはひとつの夢があった。
いつか買い付けに赴いたパリの街角で、カールとばったり出会って「あなたのファンです」と伝えることだ。でもそれはもう叶わない。

 
私事だが、明日のセミナー登壇ではカールのTシャツを着て臨もうと思う。何か力を貸してくれると信じて。

 
とにかく、今はファッション界の巨人であり生き字引であったカールの冥福を祈りたい。彼の素晴らしいコレクションと功績は、これからも世界中で生き続ける。

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神崎裕介(ひろゆき)/日本一ファッションを言語化するスタイリスト
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