【2020 J1 第21節】横浜F・マリノスvs大分トリニータ マッチレビュー
1.はじめに
撃てども撃てども入らず。そんな試合が2つ続きました。相手を崩し切るあと1つの工夫が遠い。ルヴァン杯ではそれを掴みかけていました。負けはしたけど、いい後方に進んでいるはず。それを証明するためにも、今季ラストのホーム三ッ沢。勝利で飾りましょう!
2.スタメン
■横浜F・マリノス
・4-3-2-1の布陣
・マルコス負傷のため、シャドーにオナイウが入る
・松原が久しぶりの復帰
■大分トリニータ
・3-4-2-1の布陣
・シャドーにはスピードタイプより、司令塔タイプを配置
・ウイングバックは走力のある2人を先発
3.落ち着いた静かな試合
■大分の守備
・前の5人で五角形を形成。バックパスをスイッチに前へ出ていく
・後方は5バックで相手選手に対応
ざっくり言うとルヴァン杯における柏の守り方と同じです。前の5人で五角形を形成。外回しを狙いつつ、バックパスが入ったらプレスを開始。後ろの5人はそれぞれ前に入ってくる選手に対応。
今のマリノスは大外にサイドバックが張り出すので、前回対戦のとき採用した4バックの守り方はやめたのでしょう。こうやって構えると相手選手を捕まえやすいですからね。下りたマリノスの選手に対して、決まった選手が前進して寄せたのがそれを表していたでしょう。
マリノスは梶川を交え、これに屈することはあまりありませんでした。しかし、抜けられると見るや大分の帰陣は非常に素早かったです。これにより、前線にボールを送る頃には既に多くの選手が待ち構える状態。この戻り速度を中々上回ることができなかったので、大きなチャンスは数えるほどでした。
■マリノスの守備
・ミドルサードの入口付近に構えて、バックパスを合図にプレス開始
・誰かが突出することなく、全員が足並みを揃えて寄せられた
この日のマリノスはちょっと守備の仕方が違いました。少し下がった位置にブロックを構え、相手がバックパスしたら前に出ていく。しかも、それぞれがコースを切りながら、寄せるスピードも足並みを合わせる。個人の判断ではなく、チームとして連携した守り方を見せてくれました。
これどこかで見たことありませんか?そうです。アウェイ鳥栖戦の後半と似ているんですよ。今までは誰かが全速力で突っ込むので、周りが必死にそれに合わせてマーク対象を捕まえるような守備をしていました。この帳尻合わせの守備はチームというより、個人の意思により実行されています。なので、どこで奪うか意思統一されてないので、無駄走りも増えることに。しかし、この試合ではそのようなことがありませんでした。
最前線に過度な人数をかけることもしません。大分は町田や野村が頻繁に下りるため、高澤、田中、星の3人が前線にいる状況。マリノスは4バックが構えられるので、カバーを作る余裕があります。互いに構えるプレス。かつ最前線で優位な状況を作りづらいため、膠着した前半になったのでしょう。
4.安全性と攻撃力が割に合わない
■大分のビルドアップ
・ボランチが下がって4バックを形成
・シャドーも頻繁に下がってボールを引き出す
・ウイングバックは高い位置で張っている
・後方は数的優位で安全にボールを回せるが、前線は人が不足する
大分のビルドアップはお馴染みの形。ボランチの片方が下りて4バック化。もう片方のボランチとキーパーを交えて自陣深くでパス交換。相手を引き付けつつ、前線にスペースを作って一気に刺す。『片野坂式釣り野伏』といえば、多くの人がピンときますよね。
しかし、この試合はこの6人だけではうまくビルドアップできないときもありました。そのときヘルプにくるのはシャドーの選手。下がることで、前線とのハブ役を担います。ここまで参加させると、後方でビルドアップする人数は8人になります。これだけ人がいれば安全にボールを回せますよね。
しかし、そこを突破したとて、その先はどうなっているでしょうか。前線に残っているのは、高澤、田中、星の3人だけ。マリノスはほとんどの場合4バックが前に出てこないので、数的不利な状態。これを単独でどうにかできるほど、選手の能力は高くありません。(田中は受ける状態がよければ剥がせるかもしれません)
大分の狙いは、相手を引っ張ることで、後方に作った優位性を一気に最前線まで送り込むことです。しかし、マリノスの選手たちをあまり引っ張れず、自分たちが下がるのでそれができない状況。こうなると、一旦突破したあと、ミドルサードで同じことをする必要が出てきます。そういった段階的に進めることが嫌だからこのやり方をしている。しかし、それを強いられてしまう。これでは本末転倒ですよね。大分はかなり苦しい状況だったと思います。
■進まないビルドアップが生むポジションの歪み
【POINT】
攻守における陣形が大きく違うので、切り替えの度に長い距離を走ることに
ビルドアップの形を最終系までもっていくと、大分は4-3-3のような布陣になります。それぞれのオリジナルポジションを考えるとかなり歪な状態ですよね。当然、守備へ切り替えたとき長い距離を走る選手が出てきます。この場合、ウイングバックが一番割を食っていたでしょう。
前半は決定機こそ互いに少なかったですが、攻守は目まぐるしく変わっていましたよね。そのたび大分の選手たちは走らされていました。体力のある前半はこの影響が表面化することは少なかったです。しかし、後半になると徐々に表れてくるように…
このシーンだと、田中が戻りきれずティーラトンに大外を使われてしまっています。シャドーの町田、ウイングバックの星といった順番で交代したのは、それだけ消耗したからでしょう。彼らは前半から走行距離が長かったですしね。
後半になって徐々にスペースができるようになったのはこれが原因の1つでしょう。最初の松原のシュートこそスーパーでしたが、2点目に繋がったパスミス。エリキに2度も振り切られたこと。これは、体力が尽きたことによる影響だと思います。
5.ボールを持たせるという言葉の意味
ただ「持たされている感があった」とも語り、「(横浜FMは)陣形を整えるのも早かったし、スペースを埋めるのも早かったので、僕がもうちょっとポジションを変えて落ちたり、背後に抜けたり……運動量がちょっと少なかったと思う」と反省点を口にした。
たしかにマリノスは無理に奪いにいきませんでした。これってボールを相手に持たせたかったからでしょうか?マリノスの信条からするとありえない話ですよね。当然、ボールを奪いに行っていました。
しかし、そこで奪えなくても後ろは自分たちが有利な状態。なので、かわされても奪える算段がある。サッカーはゴールしないと勝てないスポーツです。そういった心配が薄い中、無理して圧力を高めたらどうでしょう?自分たちが危険になりますよね。なので、この守り方は自分たちが優位な状況を作り出すため、意図的に行われたものです。これこそ、ゲームをコントロールするということではないでしょうか。
それならプレッシャーをかけることすらやめてもいいのではないか。こういった考えもあるかと思います。そうなると、恐らくシャドーは後ろに下がらなかったでしょう。なんならボランチも下がらず、キーパーを上げて4バック化したかもしれません。敵陣深くに相手のリソースを割かせることこそ、プレスを続けた意味だったと思います。
相手の中間に立ってプレスを開始する。パスコースを切りながら寄せる。プレスがうまくなれば、もっと少ないリソースで相手に多くのプレッシャーをかけることができます。そうすると、よりマリノス優位な状況を作り出せることに。ここはこれからどんどん伸ばしてほしいところです。
6.少なかったサイドチェンジ
・相手中盤の3人はこちらが捕まえ、外回しを強要する
・喜田が下りて中央を埋めるので、ディフェンスラインの横幅が広がる
前回対戦時に比べ、サイドチェンジを刺されることが激減した印象でした。これには2つの理由があると思っています。
1つ目は、相手中盤だけは必ず蓋をしていたから。人数が不足していた前線のプレスですが、中央だけは絶対に開けませんでした。喜田、和田、天野の3人で対応。左右の中継点をなくすことで、サイドチェンジを阻害。外回しを強要します。
2つ目は、フォアリベロを置いたことによる影響です。今までは横幅半分くらいに4バックがギュッとなっていましたが、今は喜田が中央に下ります。そうすることで、横幅を広げたままでも問題なくなります。逆サイドまでの距離が短くなっているので、相手のサイドチェンジにも対応しやすいように。
このフォーメーションにおける幅取り役はサイドバックです。彼らの役割はウイングバックとさほど変わりません。中央も喜田が下りれば3バックになるので、これも従来の3-4-2-1とほぼ同じでしょう。喜田にリベロを任せるという苦肉の策が、まさかこのように花開くとは…
7.スタッツ
■sofascore
■SPAIA
■トラッキングデータ
8.おわりに
3バックをやったので、今サイドバックに求められている動きがスムーズにできる。喜田をリベロにしたので、彼を落として守るという発想が生まれる。シーズンが繋がっている感覚が、ここにきて急速に高まっていますよね。正直、こういった繋がりが見れて今めちゃくちゃ楽しいです(笑)
ようやくチームになってきましたよね。去年夏に加入したエリキやマテウスが慣れるより時間がかかってしまいましたが…これも過密日程の影響でしょうね。それを乗り越え、ACL前にここまでの姿を見せてくれています。今いる選手の特徴を最大限に出しつつ、チームとしての引き出しを増やせている。これをもっと続けていきたいし、たくさんやれることを増やしたい。それができれば、自ずと結果はついてくるはずなのだから!