見出し画像

【2020 J1 第17節】サガン鳥栖vs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 なんとなく苦手意識がついてしまっている駅前スタジアム。駅前にないからでしょうか…(違う)去年も苦しい試合でしたよね。今年はその意識を払拭したいものです。

 さて、お相手のサガン鳥栖ですが、今季は若手を積極起用して攻撃的なサッカーを展開しています。スター選手はいませんが、それを補う組織力がある。攻守に渡り洗練されたサッカー。それに対し、マリノスはどうやって挑んだのか。振り返っていきましょう。

2.スタメン

スタメン

■サガン鳥栖

4-4-2の布陣
・前節から先発を大幅に入れ替えて臨む

■横浜F・マリノス

3-4-2-1の布陣
・好調エリキは連続で先発
・苦しいセンターバック事情。この3人には頑張ってもらうしかない

3.可変が生む影響

■攻守における鳥栖の布陣

鳥栖の可変

・守備時は4-4-2の布陣
・攻撃時は可変して3-2-4-1のような布陣になる
・樋口が内に絞ることと、森下が大きく上がることが特徴

 鳥栖は攻撃と守備で布陣を変える戦術を執っていました。最前線に5人を送り込むという攻撃的な布陣。シャドーやボランチがウイングバックと絡むことで、サイドに数的優位を作る。シャドーやボランチを経由し、大外にいるウイングバックに展開してピッチを広く使う。などなど。様々な攻撃をすることができます。

 守備時に可変するのは、コンパクトな陣形を敷いて守りたいからでしょう。広く攻めて狭く守る。サッカーの基本に忠実な戦略だと思います。

 何度かお話してますが、可変するということは、攻守の切り替え時に本来いる場所が空きやすいリスクがあります。今回の場合、内側に絞る樋口と、高い位置を取る森下が大きな影響を受けます。このあたりを頭に入れて見てみましょう。

■フリーになりやすいティーラトン

ティーラトンフリー

【POINT】
樋口は内側への守備意識が高いため、ティーラトンが空きやすくなる

 可変により、内側の位置を取ることが多くなる樋口。守備に切り替わったとき、優先的に守るのは中央。相手のボランチやセンターバックに寄せることが多かったです。また、高く上がった森下はサイドバックの位置まで下がります。そのため、大外で張っているティーラトンがフリーになりやすかったです。

 この日挙げた3得点。全てティーラトンからの長いボールがきっかけでしたよね?それは、鳥栖の守り方による影響で、彼に時間とスペースがあったから。あれだけ余裕があると、ティーラトンならどこにでもボールを蹴れるでしょう。

 前半はこのやり方がずっと通用してましたので、マリノスは左サイドから作ることが多くなっていた印象。後半から、ティーラトンに渡ったら森下が全力で出ていく、という対策を立ててきます。攻撃でも高い位置を取り、守備でも全力で走ることに。13km近い走行距離に、42回のスプリント。めちゃくちゃ走ったことが数値にも表れていました。

■高い火力の代償

カウンター

【POINT】
カウンターに移行すると、鳥栖で残っているのはセンターバックと松岡のみ

 鳥栖は敵陣に侵入した場合、内田と原川も上がって前の人数を増やします。多くの人を送り、相手を押し込んでしまおうという狙いでしょう。攻撃の厚みは増しますが、守備で手薄になるというリスクもあります。カウンターされたとき、残るのはセンターバックと松岡のみ、という状況が多発。

 梶川を含むディフェンスラインの選手から、前線の3トップ目がけてボールを送ってカウンター。攻守の切り替えが早いマリノスは、3トップでカウンターを仕掛けます。大体の場合、相手と同数でしたよね。

 マリノスのシャドーは内側で守備をしたがることもあり、ピッチ中央に近い位置にいることが多いです。カウンターに移行した際、マルコスと森下が同じ高さにいるとしましょう。鳥栖ゴールへ向かう直線距離は、マルコスの方が短いですよね?鳥栖の可変も、カウンターを仕掛けやすくする要因だったでしょう。

 このように、リスクをかけて攻撃してきた鳥栖。スペースがあるオープンな展開に。そして、トランジションで上回れば大きなチャンスになる状況。マリノスの持ち味を、最大限発揮できる状態だったと言えるでしょう。セレッソ戦と比べると真逆ですよね。

4.ズレるマリノスの右サイド

■突っ込みたがる3トップ

右サイドのズレ

【POINT】
内田のファジーな位置取りがマークを迷わせる

 内に絞らず、サイドバック的に振舞う内田は厄介でした。というのも、エリキや喜田のプレス基準が定まらないからです。水沼は小屋松に留められているので、エリキがジョンスに出ていくと内田が空く。内田に寄せると原川が空くので、喜田が出るかどうか選択を迫られる。これに出ていくと、今度は背後にスペースが。シャドーである石井が下りてボールを受けることが何度かありました。

 マリノスから見た右サイドのマークは、前半ずっと決まりませんでした。鳥栖はこのズレを利用して主に左サイドから前進。前向きにプレスをかけたがるマリノス3トップとの相性も悪く、中々止めることができませんでした。

■後半からは大人なプレッシング

プレス改善

・3トップが無闇に出ることが少なくなる
・マーク相手をハッキリさせた

 後半になり、プレッシングを整理したマリノス。まず、3トップが無闇に突っ込むことが減少。これによりセンターバックへ時間を与えてしまいますが、ボランチと連動して中央を締めることができるようになります。

 この利点は外回しにできることもありますが、どちらかというと後方と連動しやすいところにあるでしょう。相手のバックパスに応じて3トップがプレスを開始。もし空く箇所があれば、ボランチが出ていく。3トップとの距離が近いので、アプローチまでの時間を削れますよね。正確性と敏捷性を上げたプレッシングができるようになりました。

 また、ズレていたマークをハッキリとさせました。大畑に対しては水沼。小屋松には松原。樋口にチアゴ。後方の同数を許容し、ある程度リスクを負って潰しに出向きます。これにより、前半ほど時間とスペースを与えなくなったので、相手の攻勢がおさまりました。

 これらの対応により、比較的落ち着いた試合展開になりました。攻守の切り替えが少なくなった分、カウンターで攻撃する頻度は減りました。しかしリードしていたので、それもあまり問題にならなかったのでしょう。

 鳥栖が梁を入れて松岡を下げたのは、センターバックに余裕があると見たからだと思います。実際、こちらのプレスはセンターバックへの圧力低めでしたしね。本職でないことを突くほど、マリノスも松岡を攻められませんでした。弱点がそこまで目立たず、強みであるパスの正確さが出ていたと思います。

5.フォアリベロは用法用量を守って

フォアリベロの代償

【問題点】
後方に相手がいるのにフォアリベロ化してしまった
【対処法】
相手が後方にいないなら安全なので大丈夫

 この日の失点は、中央を抜かれたことにあります。なぜ抜かれたのか。それは、チアゴが本来の持ち場を離れていたからです。名古屋戦でも見られたチアゴのフォアリベロ化。相手が後ろにいるにも関わらず、それを実施したことで穴が開くことに。今振り返ると、名古屋戦も同じことしていたんですね…

 3バックとキーパーで作られるひし形の中に相手がいない。このような状況が作れるのなら実施していいでしょう。フォアリベロ化は、味方からパスを受けるというより、パスコースを増やして相手守備陣を押し下げることに有用なものです。今のやり方は、かなりリスクのある方法だと言えるでしょう。この失点を糧に、次に繋げられるといいですよね。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 前半の刺し合いで勝てたことが全てだと思います。鳥栖の攻撃的なやり方が、マリノスのやりやすさにも繋がったのでしょう。オープンな展開でスペースもたくさんある状態。嫌が応にも、マリノスに好ましいテンポになります。

 右サイドのズレからボールを前進させられ、逆サイドにいる森下に展開。そこからクロスでフィニッシュ。このような形が何度か見られました。これは事前に準備していたことでしょうし、鳥栖がやりたかったことでしょう。前半はそれを存分に表現されたと思います。

 しかし、後半からはこちらがトーンを落とし、前半ほどオープンな戦いをしませんでした。正直これには大変驚いています。マルコスはともかく、エリキとサントスは突っ込みたがる性質があります。また、リアクション寄りのやり方なので、ボスが好まないものだと思っていました。「後半は後ろが誰を捕まえるかハッキリさせるだけで、どうせキーパーまで出ていくんだろうなぁ…」こんなことを思っていた自分をぶん殴ってやりたいです。選手たちは、1つ大人の階段を上ったのではないでしょうか。

 選手たちが居場所を見つけ、新しいやり方も見えています。失点シーンのように、うまくいかないこともあるでしょう。しかし、それを含め成長なのです。その過程を見れるのは、この上ない幸せだと思います。また1つずつ、積み上げていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?