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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。12

 夏至を過ぎると、日照時間は短くなるのに、暑さは、本格的なってくる、地下鉄の駅からオフィスまでの徒歩での数分間はこれからの季節、一番つらい時期となる。
 地下鉄を降りると、人流にまかせて、階段を上ると、もう夏の気配が体にまとわりつく様に流れ込んでくる、また季節が巡ってきたんだと、有美は実感する。
 暑さがあまり、好きではない有美にとって、日陰を作るものがなく、夏の日に熱せられたアスファルトの上を、朝とは直接夏の日を浴びながら歩くのは、ある種の苦行の様だ。
 ビルの自動ドアが開き、冷気が体中を包むと、生き返ったような気持ちになる。
「ふう・・・」と、いつものように一息つく。
「おはよう・・・」そう言って、後ろから紗季がやって来て、軽く有美の肩をたたく、有美も、小さく、おはようと返事をする、紗季は急いでいるのか、少し有美に目をやると
「先にいくよ・・・」と言って、有美を追い抜いていく、暑さに弱い有美と違い、彼女は、自ら夏が大好きと、公言するだけあってこの程度の暑さは、平気らしい。
 

 少し息を整えて、ふと見上げるとちょうど、「あの絵」が正面に見えた。
 今までは、全くと言って意識はしなかったけど、あの美しい女性が、我を忘れるように眺めていたのを見て以来、少し意識するようになった。
「いい絵だわ・・・・」
 改めて見ると、有美はそう思う、絵なんて全くわからないし、今までも興味なんて全くなかったけれども、三人女性たちが描かれたこの絵は、そのへんにあるようなありきたりな絵ではないようなに自分では思えてきた。
 少しは、あの女性の気持ちも理解できるような気がした。
「三人の女神かぁ・・・・・私と同じだな・・・・」
三人姉妹の、真ん中で育った有美は、ちょうどその絵が、偶然にもまるで自分たち姉妹と同じ構図で描かれていることに、改めて気づかされた。


 午前中、有美の部署では急に仕事が立て込んできて、有美たちも対応に追われるような状態になった、気が付くと大津が来ていて、混乱している有美たちに直接指示を出したり、仕事を手伝ったりしていた、こんな時でも依田は、悠然と構えているように、有美に見えた。
時々大津へ、不快感を込めた視線を投げかけながら、
「そんなに、急ぐ仕事でもなかろう・・・」
などと、苦々しく大津へいうと、それでも一応有美たちにも、指示を出していた。
 何とか、昼過ぎには、この急に持ち上がった複雑な案件は、片付くめどが立ち、大津もやれやれといった表情を、有美たちに向けた。
「ああ、もうこん時間なんだね・・・・君たちも大変だったろう、ゆっくり、お昼取っておいでよ。」
大津は自分の腕時計を見ると、有美たちへそう言った。
「2時ごろに帰ってくれば、いいからね・・・」
有美たちに気遣いを見せると、自席に帰るためなのか、急いで部屋を出て行った。 
 さっきまで目の回るような忙しさだったが、大津がうまく人員やオペレーションを手配したおかけで、なんとか片付いた。
「さすがだわ・・・・・大津さんは」
エレベーターへと向かう途中、紗季が有美へそう呟く。
 以前、他の部署で、大津と一緒に仕事をしたことがある、紗季は、改めて大津の処理能力の高さに感心していた。
 有美も、仕事中、いつも温和で、人当たりのいい彼が、今日のような、誰しもが慌てる場面でも、冷静に且つ、的確に仕事をする大津には、瞠目した。
「ほんと、大津さんは、仕事ができるわね・・・」
「若くして、部長になるだけの事はあるわよね・・」
エレベーターへの中で、誰もいないことをいいことに、二人は先ほどまでの大津の仕事ぶりに、目を見張ることしきりだった。


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。


1枚の絵を巡る、3人の女性の物語・・・・

これからいよいよ佳境に入ります・・・

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