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素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 38

 待ち合わせは、7時だったので、有美は定時を少し過ぎたころに退社した、集合場所は、事前に南村から、直接ラインがきていて、三人がそれぞれ、その店で落ち合おうことになっていた。店の名前をとりあえず検索すると、駅から5分ほどのところだった。
 麻布十番なんて、あんまり来たことないなぁと思いつつ、地下鉄の出口案内とスマホの地図とを確認する。
 エスカレーターで地上へ向かう途中、その先に南村がいるのが分かった、先に降り降りた南村へ追いつく様に、後ろから声をかけた。
 少し驚いたように、南村が有美へ顔を向けた。
「あれっ?あなたもさっきの電車のっていたんだ・・・・」
 そういうと、少し傾いた日差しがまともに南村の顔に差し込んでくる、眩しそうに手で日差しをよけるような仕草をする。
 有美が会社と出るとき、ちらっと南村のデスクを見たけど、その時彼女はいなかった、たぶん打ち合わせか、出先から直接来るのだろうと別に気にはしなかった。
 二人で並んで、集合場所の店へと向かう、有美はしきりにスマホで道順をチェックするが、南村は慣れた足取りで歩いていく。
「このお店、ご存じなんですか?」
 有美が、横から南村へ話しかける。 
「うん・・・何回か行ったことあるのよ」
「大津部長とですか?」
「うん、まだ、付き合っているころにね・・・」
 南村は少し不機嫌そうに、そう返事すると、ちらっと有美の方を見た。
 有美は、なにかそれ以上聞いてはいけないような気がして、もう何もいわなかった。
 と同時に、何故大津はそんな店を選んだのだろうかとも思った、付き合っていたころこの二人がよくそこへ行っていればなおさらだ。
 大津は、南村との関係を、有美がまだ知らないとおもっているのだろうか?
「・・・銀座で、お寿司かなぁって、少しは期待したんだけどねぇ・・・」
 歩きながら、南村が小さくそう呟く、
「・・・けどここも、凄く高級そうですよ・・・」
「なんかね、前に行った事あるところだと、あまり新鮮味がなくて・・・」
 話しているうちに、目的の店の前まで来た、小さく看板が出ていて、店は地下にあるので、狭い階段を下りていく。何の気なしに店の前を通れば、それとはわからないような場所だった。
 店は結構広くて、全体に間接照明で彩られていて少し薄暗く、事前にウエブで調べたように、いつも紗季と行くような店とは明らかに違って高級そうだった。
入ったところにカウンターがあってそこは、すでに、中年の客たちで満席だった、南村が大津の名前をいうと、愛想のいい若い女の子が、カウンターの後ろの個室へと案内してくれた。
 

 席に案内されると、以外にも大津はまだ来てなくて、南村が揃ってから注文しますと、女の子にいうと、彼女は笑顔ではいと返事をした。
 席に着くと、南村は、小さな溜息をついて、
「例の件、長引いているのかなぁ・・・」と、独り言の様に呟いた、
「また新しい、プロダクトですか?」
「そう、今日昼から、相手先にプレゼンに行っているから、直接ここへ来るって連絡があったんだけどね・・・」
すこし、心配そうに、天井を見上げた。
 有美は、この間にさっきの件を南村に確かめてみようと思った、大津は南村との関係を有美が知っていることを、大津に話したのかどうか。
「うん、孝之には話したわよ・・・最初、なんでそんなこと言ったんだって、少し怒っていたけどね・・・」
少し、口元に薄笑いを浮かべるように、そう返事をした。南村は有美の前ではもう、隠すことなく下の名前で大津をそう呼ぶ。 
「気になる・・・の?」
 少し意地悪そうに、上目づかいで南村は有美の顔を覗き込むようにして、そう聞いてくる。
 その視線を少し避けるように、有美がテーブルの下に目を遣ると、足を組んだ南村の白いスラックスから、きれいな素足が見えた、組んだ方の足は、パンプスを脱いでいて、床に黒いパンプスが転がっていた、脱いだ方の足首にした銀色のアンクレットと赤いペディキュアが何となく艶めかしく映る。
この人は寛ぐと、どこでもこうして靴を脱いでしまうんだ、と有美は思った、いつか二人であの絵を見ていた時もたしか、彼女がパンプスを脱いで寛いでいたのを思い出した。
「い、いえ、そ、そんなことはないです。」
 慌てるように、有美はそう答えると、南村は、少し笑って、可愛いわねと有美に向かってそういった。
 
 しばらくすると、ようやく女の子に案内されて、大津がやってきた。
 急いできたのか、額に大粒の汗をながしながら、遅くなってと、二人に詫びを入れた。きれいな青色の薄い麻のジャケットを脱ぐと、席に座るなり、その女の子に生ビールねといって3人分オーダーした。
「こんな美女二人を、こんなに待たして、相変わらずね、あなたは。・・・紳士としては失格だわ・・・」
南村の横に座った、大津に向かって少し辛辣に言葉を放った。けれど有美には、さっきまで心配そうにしていた南村を見ているだけに、なぜかしら大津の前では強がるような態度をとる彼女の変化が可笑しかった。
 大津もちらっと、南村の方を見て、笑っている。
「仕事なんだから、勘弁してよ・・・」
 苦笑しながら、大津がそう言うと同時に、ビールが運ばれてきた、大津は乾杯をすると、ビールのジョッキを傾けて、おいしそうに喉を鳴らしながら飲む、この暑さと、急いで来たせいで、喉か乾いていたのか、一気にジョッキを半分くらいあけた。

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今宵も最後までお読みいただきありがとうございました。

なるべく、女の子たちの日常風景を描くようにしていますが、私と少し世代

が違うので、おかしなところがあるかもしれません(笑)

またコメントなので教えていただければ幸いです。


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