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素敵な靴は素敵な場所へ連れていってくれる。 13

昼食を終えて、有美たちが二時過ぎに帰ってくると、有美が依田へ呼ばれた、なんだろと思い有美が依田の席へ行くと、手元の書類を見ながら
「どうして、ちゃんと時間通りに帰ってこないんだ? 昼の休憩は一時間だろう?」
 依田はやや語気を、強めて、そう言うと、顔を上げて、有美を睨むように見る。
「大津部長が、そのように、おっしゃいましたので・・・少しゆっくりしてしまいました。」
有美はできるだけ、冷静にそう反論した。
「君たちの所属長は私なんだからね・・・そこをちゃんと理解しておくように・・以上だ」
依田は、あまり有美の目を見ずに、自分の言いたいことだけを言うと、もういいとばかりにパソコンの方へ顔を向けた。
 有美は、小さく、以後気を付けますというと、少し頭を下げて、自席へと戻った。

 夕方、有美が帰り支度をしていると、紗季がそっと後ろから声をかけた、同時に彼女たちのすぐ後ろを、依田が大仰に二人に向けて、「おつかれさま」と言って通り過ぎていく。
 紗季が、依田の背中に向かって、侮蔑の視線を投げかけるようにすると、有美はなんだか少し可笑しくなった。
「とっとと帰ろう」紗季はそういうと、先に歩き出す
二人して、会社のビルを出たとたん、紗季がやや大きな声で
「なんだろうね・・・あの人」と、さっきの続きのような、勢いで有美へそう話す。
「さっきの事?」
有美がそう返すと。
「あれっ? 妙に冷静だね・・・頭に来なかった?」
「まあね、けどまあ、そんなこと気にしてたら、やってけないしね・・・・」
昼間、依田に有美が、昼休みの件で叱責されたことを、横で見ていた紗季はまだ怒りが収まれないらしい。
「なんで、あんただけに、あんな言い方したんだろ? 私だって同じなのに・・・」
「たまたま、私が目についただけなんじゃない・・・・」
 少し、慳貪に答えると、ハンカチで少し額の汗を拭った。 
 夏の夕方の六時は、まだまだ日が昼間のように照り付けて、会社から地下鉄の入り口までは、朝と同様、有美にとっては、辛い道のりだ。
 ようやく地下鉄の入り口に着き、階段を下りながら、
「またなんか、これから、いろいろあるかもしれないわね・・・」そう有美が言うと、
「なんか、先が思いやられそう・・・飯田さん帰ってこないかなぁ・・・」嘆く様に紗季が言った。
 改札の手前までくると、紗季が
「今日これからどうする?」と聞いていた。
「少し、ご飯でも食べていく?・・・・おいしい店、またみつけたんだ。」
楽しいそうに、有美を誘う。相変わらず、有美が知らない間に、あちこち飲み歩いているのだろうか。
 有美は、少し考えると、
「ごめん、今日は、やめとくわ・・・・」
 と、申し訳なさそうに、断った。
「いいよ、気にしないで、またいいとこ、みつけとくよ・・・・じゃあね、おつかれ」
そういうと、紗季は階段を下りてホームへと向かっていく。
 どことなく、今日は疲れて帰りたい気分だったのと、早朝からバイトへ行った、拓海の事が気になった。
 有美は、ホームある、クーラーの前で、冷風を浴びると、一本電車を遅らせた

  
ドアを開けると、真っ暗だった、奥からむっとする熱気がドアを目指してやってくるように感じた。
「まだ、帰っていないんだ・・・・」
有美はそう独り言の様に言うと、明かりをつけて、すぐにクーラーのスイッチを入れた。狭いキッチンを抜けて、ベッド横で素早く着替て、周りを見ると、朝、有美が出たままで、一度も拓海が帰ってないことが分かった。
 有美は、せっかく、時間を見越して、駅前のスーパーで、安売りを買ってきたのにと、少し後悔した。
 早速、ラインでいつ帰るのか、聞いては見るが、既読さえつかなかった。
 人にいつ帰るか聞いてくることがあるくせに、となんだか少し腹立ってきた。
 そう思うと、急にやる気が失せて、部屋着のまま、ベッドで大の字になって横になった、
ようやく、利き始めたエアコンが心地いい。
 横になりながら、もう一度スマホを見たが、まだ既読さえつかない、こんなことなら、紗季と一緒に食事に行けば、良かったと思う。


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

年齢的に離れている人物の、描写は少しむつかしいですね・・

けれど、こんな考えするのかな、こんな気持ちなるのかな、いろいろと

考えるのは少し楽しい作業です・・・



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