小説『引越物語』⑩山がないから流れない
人と話していると、同じ匂いがするというか、同じ川から来たのかもなと感じる瞬間がある。
それは40歳を越えてから訪れるようになった「生」への感覚。
心身の不調こそ天の恵だ。
今できることをせよと身体がキェーッッと軋みながら教えてくれる。
わたしは家族という檻から逸出しようと、二年間ただひたすらに憧れの本の海で泳ぎ続けた。
わたしの小さな冒険にはルールがある。
故郷の川から海へ出たら、
必ず、その日のうちに泳いで帰ること。
本との出会い。
それは不思議な縁だ。
同じ川から来たもの同士なら会話なんて成立せずとも、全ては阿吽で流れ、やがて合流し大きな川となる。
わたし、このために生まれたんだ。
巡り合ったのだから、書くしかない。
どれだけ書きあげたものが不味くても構うものか。
初めてのわたしの小説は何処にも着陸せず、蒼蒼と浮遊している。
振り返れば、山場のない物語だな。
どうりで、話が流れないわけだ。
わたしがこの手で抱えている謡は、いつか大海へ注ぎ込む日がくるのだろうか。
次のお話ですよ♪
こちらは前回のお話です(꒦໊ྀʚ꒦໊ི )
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