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小説『引越物語』⑩山がないから流れない

人と話していると、同じ匂いがするというか、同じ川から来たのかもなと感じる瞬間がある。

それは40歳を越えてから訪れるようになった「生」への感覚。


心身の不調こそ天の恵だ。

今できることをせよと身体がキェーッッと軋みながら教えてくれる。

わたしは家族という檻から逸出しようと、二年間ただひたすらに憧れの本の海で泳ぎ続けた。


わたしの小さな冒険にはルールがある。

故郷の川から海へ出たら、
必ず、その日のうちに泳いで帰ること。


本との出会い。
それは不思議な縁だ。

同じ川から来たもの同士なら会話なんて成立せずとも、全ては阿吽で流れ、やがて合流し大きな川となる。


わたし、このために生まれたんだ。

巡り合ったのだから、書くしかない。
どれだけ書きあげたものが不味くても構うものか。

初めてのわたしの小説は何処にも着陸せず、蒼蒼と浮遊している。

振り返れば、山場のない物語だな。
どうりで、話が流れないわけだ。

わたしがこの手で抱えている謡は、いつか大海へ注ぎ込む日がくるのだろうか。




#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

次のお話ですよ♪



こちらは前回のお話です(꒦໊ྀʚ꒦໊ི )





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