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20240619『若き日』セルフライナーノーツ②

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思う。『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのシーンを俳優たち自身でテクストを選定し、立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなので覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日の詩人たちの肖像』セットリスト。

▼「2 ことばの波紋」は(Ex)とあるように、他のシーンとはすこし成り立ちが異なる。他のシーンは基本的に書いてあるページ数の箇所からテクストを引用しているのだけれど、このシーンだけは『若き日の詩人たちの肖像』の上下巻にわたるすべてのページから言葉を選んで発語していた。言葉やフレーズは基本的にはひとりひとりの俳優が選んだものをそれぞれに発語していた。

▼『若き日』という作品を語る上でどうしても欠かせないのが音楽だった。主人公である堀田善衞さんの生い立ち、そして彼が過ごした日々の中で音楽というのは結構大きな部分を占めている。小説の冒頭でもオーケストラによるボレロの演奏を聴く、とても印象的なシーンがあったこともあって、他にもいくつかのシーンで音楽ありきで組み立てていくことが多かった。揃いの衣裳で現れた俳優が、このシーンの手前でそれぞれの衣裳を身に纏う。小説の中から音楽がこぼれ出るような、そんなシーンになればいいと思っていた。

▼河野竜平が演奏するバイオリンのミニマルなフレーズの繰り返しの中で、この長編小説を一気に俯瞰する。小説の中の一つの言葉が、別のページの別の言葉をつれてくる。そんなイメージでつくり始めたこのシーンは、最初に渡した叩き台から俳優それぞれに様々な工夫を凝らしながら徐々に形になっていった。松永健資がかなりこだわって「このフレーズのこのことばの時にこの言葉を言ってみて」と、一人ひとりにオーダーを出しながら細かな調整を繰り返していたのが印象的だった。

▼はじめて現地で薄暗い公園でこのシーンを試しにやってみた時に、シンプルにとても楽しかった。バイオリンを弾きながら河野がゆっくりと野原を歩き始めたのを見た時に、このシーンはきっとうまくいくと思った。いわゆる歌謡曲や、あるいはラップのように音楽にノる、というのではない、音楽とことばがそれぞれに「共にある」ような状態を目指して調整を重ねていった。

▼音楽の中で進むシーンなので取り返しがつかず、一つミスをしてもそのことについて反省していると次のきっかけを逃してしまう。俳優としてはそんな緊張感のあるシーンになっていた。戸山公園ではその場に佇みながら上演したこのシーンは、犀の角で上演した時には全員が思いきって歩き回りながらのシーンへと変貌を遂げた。そうして音楽と共に歩んでいる時に、たぶんひとりひとりの俳優が音楽の歓びを感じていたのではないかなと思う。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
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