ゆでたまごをつくろうとしていたら、スナイパーに狙われた日のこと
8年前、大学生活初めての夏休み。ひとり暮らしの部屋で冷蔵庫の扉を開けたあのときは、30分後に起こる出来事を想像もしていませんでした。
入学してすぐ始めたアルバイト先は洋食屋で、出勤するたびにデカンタやお皿やグラスをパリンパリンと割りまくり、3ヶ月も経たないうちに退職。
派遣のバイトをしながらも、これと言ってやりたいことが見つけられなかったある日、住み込みのインターンの募集が目にとまります。
地域活性を目的としたもので、内容を見ると割れそうなものを扱うこともなさそうです。
運良く面接にも受かり、3週間家をあけることに。
実家では上手に残り物を使って料理してくれる母がいて、それを一緒に食べる弟がいたけれど、ひとりで住んでいるとつくるのも食べるのも自分しかいません。
いちばん厄介なのは、パックの半分を占めるたまごたちでした。
ゆでたまごをつくろう
料理のレパートリーが少ないわたしにとって、たまごは焼くか茹でるしかありません。つまり、「たまご焼き」か「ゆでたまご」の二択なのです。
たまご焼きはたまご焼きとしてしか食べられないけれど、ゆでたまごは潰したらたまごサンドとかにもなるんじゃない?!
何をつくるか思案した先にたどり着いたのは、たまごサンドの中身をつくることでした。美味しいもんね。
作るものが決まったので、生卵と水を入れた鍋を沸騰させ、ふんふんと鼻歌を歌いながら大学のサークルのグループLINEに返信をしていました。
ゆでたまごが、ゆでたまごらないぞ
さてさて、あと何分くらいかな。ぼこぼこと気泡が湧き上がる鍋に、踊り狂うたまごたち。
時計を見ても、何分経ったのか分かりません。
料理にまだ慣れていないせいで、ゆでたまごは時間をはかってつくる、という初歩的なステップを踏み忘れていたのです。重要なステップをスキップ!
くよくよしても仕方がないので、雰囲気で鍋をコンロからおろし、たまごをひとつだけ水風呂へ。気持ち良さそうだね。
いちばん問題なのは、黄身が固まっていないこと。黄身がゆるい状態だと、サンドイッチにサンドできなくなってしまいます。
やー!と殻を剥くと、なんと黄身どころか白身も固まっていません。困っちゃう。
面倒ですが、残りのゆでたまごをもう少し茹でて、また1個様子を見ることにしました。
電子レンジにかけちゃおう
ところが、なんともう1個も失敗。このままでは「サンドイッチ」が「サンド不一致」になってしまいます。え?
ここまできたら、せめて3つ目くらいは固まってほしい。
強行手段です。
電子レンジ?いやいや危ないです。レンジの中に入れたら爆発することくらいは知っているんですよ。
でも、実は今わたし、すごく急いでいます。さっきサークルの仲間から連絡があって、1時間後には大学に行かなければいかなくなってしまいました。
ゆでたまごで、まごついている場合ではありません。
もしかして、いちばん弱いワット数だったらいけるんじゃない?さすがにたまごもそんな短気じゃないんじゃないかしら。
と、心の中でうろうろした結果、ちょっとだけやってみることにしました。ほんとにちょっとです。
家の外に、スナイパーがいる
500Wで30秒くらいでしょうか。正確にはどのくらいだったか覚えていません。
でも、レンジの光に照らされたたまごはどこか誇らしげで、爆発する気配もなさそうです。
なんだ、やっぱりちょっとなら平気だ。
ほっとしながらほどよくあったまったたまごを取り出し、キッチンの流しで殻を剥いているときでした。
パン!!!!!!!!!
何が起きたか分かりません。
何が起きたか分からないし、何をしていたかも一瞬のことで記憶が吹き飛んでしまいました。
突然の出来事にびっくりして、手元を見ると、何とさっきまであったはずのたまごが消えているのです。
思わず窓の外を見ましたが、誰も見当たりません。
でも、どう考えても思い当たる人物はひとりしかいない。そう、スナイパーです。
たまごがわたしに教えてくれたこと
ということがあるはずもなく、辺り一面に散り散りになったたまごの欠片を見て、どうやらたまごは爆発したようでした。
たしかにたまごは電子レンジにかけると爆発するものです。
だからって、殻を剥いているときに爆発するなんて、サプライズ精神がありすぎでは?あのたまご、前世はクラスのムードメーカーかな?
しかもわたしはそのとき本当に急いでいたので、こっぱみじんになって壁やキッチンに飛び散ったたまごを後にし、何の料理にもできないまま大学に向かいました(ゆるゆるのゆでたまごは、帰った後つくったゆでたまごと混ぜて、無事たまごサンドとして食べました)。
たまごがわたしに伝えてくれた、ひとつのメッセージ。
それは、「時間差で爆発することもあるから気をつけてな!」でした。
それでも料理ってたのしい
二度とゆでたまごなんかつくるか!と思うくらい、熱さと驚きがトラウマになる思い出。ところが、不思議とそのせいで料理を嫌いになることはありませんでした。
もちろん、その後も数えきれないほど失敗しています。
それでも料理が面白いな、と思うのは「やってはいけないこと」よりも、「やってみていいこと」の方が圧倒的に多いから。
ごはんにシチューをかけてみてもいいし、おみそ汁にカレー粉を少し入れてみてもいい。
いちからごはんをつくる元気がなければインスタント食品や冷凍食品をアレンジしてもいいし、だしをとるのが大変だったら市販の調味料に手を借りてもいい。
やってはいけない少しのルールさえ分かれば、いつでも料理はわたしを受け入れてくれました。
うまくいかないときもあるけれど、料理はやっぱりたのしい。レパートリーはまだまだ少ないですが、これからも新しい料理にチャレンジしていきたいです。
たまごは電子レンジに入れないでね!!
おしまい🥚
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