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#5.テーマと目標体験を決定しよう【地域ボードゲームをつくろう!】

第5回目の「地域ボードゲームをつくろう!」ガイダンスです。このプロジェクトは、愛知県の名古屋大学博物館でボランティアをする大学生たちが地元に根差した「地域ボードゲーム」の開発に挑戦していきます。

ガイダンスのようす

各回の内容はこちらのマガジンにまとめています。

主催:愛知建築士会 名古屋名南支部
協力:MusaForum(名古屋大学博物館 学生スタッフ団体
協力:いたばしの地域ボードゲーム会

今回は、学生の皆さんにテーマ決定に向けた最後の議論を進めていきます。学生側のやることが増えてくると、相対的にスライドや記事の文章は軽くなるんですよね。noteを読んでくれている方には中身が薄くなってくると思いますが、学生さんの頭脳負荷はアップしているはずです。

今回辺りから、これまで目標体験の設計を重視し、あまりふれてこなかったゲームデザインの観点にも徐々に足を突っ込んでいきます。

以下にスライドの一部を抜粋しつつ、実施したガイダンス内容をまとめていきます。

1. 現状の報告をお願いします!

まずはテーマ設定の話題。前回のガイダンスからおよそ2週間で、学生チームの中にどんな話し合いがあったか共有してもらいます。

チームの中で、どのような意見の合致と相違があったのか教えてもらい、つまづきなどがあれば、聞き取っていっしょに考えます。


2. テーマとゲーム体験のつながりは?

チームごとのテーマ議論を進めるための話題提供として、今回はゲームデザイン側の観点を追加していきます。

前回は「課題解決」とそこから見える体験者の顔を想像する方向で観点を持ちました。

テーマを決める議論は前回から続けてきました。上図の3つの円で言えば左2つです。今回はテーマ設定がゲームデザインにどう枠組みを与えるのかという部分を少し考えてみましょう。

まずテーマがもたらす「制限」について、地域ボードゲームの「シリアス型」と「エンタメ型」で違いを見てみます。

シリアス型では課題解決の設定にじっくり取り組むことが必要。ゲームの設計目的となるその部分がしっかり固まれば、意義も伝わりやすいといったメリットがあります。
エンタメ型は地域交流を楽しむことが目的なのでゲーム制作の自由度が高い。制限が少ないことの表裏としてゲーム体験のビジョンをしっかり固めないと道に迷いがちです。

シリアスとエンタメ。この2つの分類は本質的には「何のため」って部分の差に過ぎません。地域ネタによって両者とも地域貢献の文脈は共有できていますし。でも、ゲームデザインの力点が少し変わってしまうのです。

  • ゲーム体験以前に、何のために制作するかをよく議論し、「ゲームらしい学び」を組み込むなかで楽しさを最大限追求する【シリアス型】

  • 楽しい地域交流そのものを目的とし「(地域ネタで)いかに楽しむか?」という一般ゲームに近い追求の道に入っていく【エンタメ型】

シリアス型を選ぶと「プレイヤー像」「体験してほしいこと」を検討しないといかにも進めない感じがあります。しかしエンタメ型も実は同じ。
何も考えずとも自分の経験に紐づいた「楽しそう」をモヤモヤ想像できるってだけで、対象や体験像をしっかり考えないとその後で迷走しがち。だからやっぱり、力点は少し違うけど、やることはほぼ同じなんですよね。

チームとしてはどちらに関心を寄せていくのか、改めて検討してもらえればと思います。


3. 対象プレイヤーの年齢は?

次にゲームの対象者がデザインにどう影響するか考えてみます。

対象者の設定では年齢以外にも、どういう職業の人か、どういう思想の人かといった差も生まれます。でも、それらに対するゲームデザインの影響は普遍的に語るのが難しそうなので、ここでは年齢について考えます。

プレイヤーの年齢で考えると、大人はほとんど制限とならないため、子どもを対象者にふくめる場合の注意点を考えていきます。

ちなみに育児対話カードゲーム「カジークジー」での経験談に過ぎないのですが。大人向けの対話ゲームだと宣伝していても「子どもにも体験させたい」と相談してくれる方がそこそこいらっしゃいます。
課題解決型はその意義が伝わるほど「子どもにも」という声が出るのだとすれば、年齢幅を広めにしてもいいのかも。しなくてもいいけど。

というわけで、ゲームルール設計において年齢区分で配慮したい点をまとめました。ガイドの経験則による整理です。いかがでしょうか。

未就学児には安全第一。また図の鏡像が区別できないだけでなく、数字が読めるようになった6歳児でも15と51を混同するといったことは珍しくない。
計算関連はゲーム終了時のスコア計算だけであれば大人が支援しやすい。対象年齢が低いゲームでも難しい言葉を使ってしまう作品は意外と多いので注意したい。
この中でも「読む力」「確率の推定」「トリガー条件」などはプレイヤーへの頭脳的な負荷が高い。その処理能力と好き嫌いは大人でも個人差が大きいだろう。

ゲームデザインしていくときは、「どんな人がどんな体験をできるか」というゴールを見つめて、さまざまな工夫を重ねることになります。そこでプレイヤー側の技能を想定するときの参考になればと思います。

個人的には、ボードゲームの箱に書いた「対象年齢」に対し、使っている漢字や言葉遣いが難しい作品。同人作品でなく、市販品でもある気がしています。文章くらいは見直せば解決できるので気をつけましょう。


4. テーマとゲーム構造の関わりは?

ゲームをプレイする人たちの関係性をまとめてみます。とくに課題解決型のテーマを設定した場合、そのテーマが持つ物語としてプレイヤー同士がどう関係するのか大切な場合もあると思います。

プレイヤー同士がどういう関係性であるのか。そのゲーム構造はルール作りの基礎となる重要事項です。ボードゲームを遊んだ経験が少ないと、深い理由もなく「競争ゲーム」「敗者決定」あたりに固定しやすいので、いったん発想を広げるために、いくつかのタイプを見ていきましょう。

みんなで競争して楽しむゲーム。勝敗があることでもう1回プレイしようという動機にもなりえる。プレイ時間が長いと劣勢プレイヤーが飽きやすい。
協力関係を中心とするゲーム。平和的な印象のためか、学びのあるボードゲームでは好まれる印象。でも、簡単すぎず・難しすぎずのバランス構築がけっこう難しい。

ゲーム構造といえそうな代表的なスタイルと特性をまとめました。(このまとめは『ゲームメカニクス大全』を参考としています。ただし自分の考えで再整理しているので、気になった方は図書の方もぜひご覧ください)


さて、だいぶ抽象性が高い話になってきました。テーマとゲーム構造がどう関わるのか、もっと具体的にイメージしてみます。

今回の主催者である愛知建築士会さんについて、その認知向上に寄与するゲームを考えてみましょう。
愛知建築士会は、建築士だけではなく土木や都市開発に関わるさまざまな業種の方が会員となって横のつながりを生かしています。そのことをゲームで表現したい、という設定です。

同じテーマにさまざまなアプローチでゲームデザインすることができます。でもテーマに対するプレイヤーの関与や印象は変わるはずです。この例だとどの方向性が良さそうでしょうね?

ためしに4つの構造でゲームルールのイメージを書いてみました。これらは「あり得るかも」って一例であり、構造ごとに一意のルールが決まるわけじゃありません。

この例だと競争ゲームと敗者決定の2案はゲームルールが交換可能ですね。優勝者を決める、敗者1人を決めるって部分に設定上の必然がほしいのですが思いつきませんでした。

裏切り者ゲームの案は、他団体を軽くイジっているので「いたばしの地域ボードゲーム会」は大好きなパターンですが、建築士会のTPOとしてはよろしくないかもしれませんね(ガイダンス実施時に愛知建築士会の皆さんには大ウケしてましたが)。

協力ゲームの案は、プレイヤーごとに異なる技能を持つことになるので、ゲームとしてはなかなか興味深くなりそうですが、イベントなどでさっと遊べるようなシンプルさを作るには工夫が必要そうですね。


このように、ボードゲームで表現したいことが具体的に定まっていると、大きな構造を考えるだけでも見えるものがあり、ゲームデザインを一歩ずつ前に進めることができるようになります。

今年6月に第2版が出るそうです。ガイドは電子書籍で持っているのですが、電子だと第2版は追加部分だけの廉価販売もあるみたいですよ。サービス精神がすごい!

最後に、このチャプターの参考図書を紹介します。ゲームデザインが好きな人であれば、眺めているだけでも想像力が刺激され、幸福感を覚えることができる良書です。


5. 次の課題に向けて話し合おう!

ということで、ここまでの話題提供をふまえ、もう一度、参加者の間の議論を進めてみます。

実際の話し合いでは、片方のチーム代表がオンラインに最初から参加できていなかったので、改めてそちらの進捗を伝えてもらいつつ、次回への課題をヒアリングしていきました。

今のところ、どちらもチームでもエンタメ型で地域の人と楽しめるゲームを目指しているとのこと。名古屋を舞台に考えるチーム、愛知・岐阜・三重という視点で考えるチーム、それぞれの視点の違いも楽しそうです。

ヒアリングを通じて、エンタメを方針にしたぶん、まだ中身のイメージが弱そうでしたので、そのゲームを遊ぶ空間や場面についてイメージをいっそう具体的に高めてもらうようお願いしました。
たとえば、制作物を市内の喫茶店に置いてもらおうと思うならば、「机にどれだけ物を置けるか」「何人まで同時に遊べるか」「トークが中心だと騒々しいか」などゲームを遊ぶ風景を想像し、制限の意味でも広がりの意味でも、ゲームデザインにいかすことができます。

ゲームに込めようとしている「地域特性」、その特性から遊んでもらえそうな「場面」、そしてゲームルールへの影響。想像力を高め、ゲームの体験風景の解像度が高くなるほど、そこにマッチするゲームのデザインも見えてくるわけですね。


6.今日の話題で大切なことは?

今回の大切なことは「しぼりこむ」こと。これは、前回の大切なことにした「想像力」との関連で理解してもらいたくて。

想像力という単語は「広がる、広げる」って印象が強いかもしれませんし、そこももちろん大切なんです。けれども、実際には想像力をしっかり働かせていくと浮かび上がる風景の解像度が高まっていって、それによって「本当に重要なのは何か」がしぼりこまれていくことにもなります。

ゲームデザインに限らず、デザイン(設計)は重要な中心点をしぼりこむ作業です。中心が分かれば、余計な物をそげ落とすことも、あえて肉付けすることも自由にできるようになります。

言い換えると、想像力を働かせて体験する人や風景をハッキリ浮かべるほど「ここさえ押さえれば、他のことはわりと何でも大丈夫!」と「ここをカバーしておかないと危うい」が見える。想像力によって「やりたいこと」から要件がしぼりこまれ、「やっちゃまずいこと」から選択肢がしぼりこまれるわけです。

これはゲームデザインだけじゃなく、チーム運営にも言えて。義務も評価もないボランティアの意志だけで集まるグループにおいては、それぞれのメンバーが互いの意志を尊重しながらも、自分のやりたい気持ちを削がないバランス感が大切です。「自分はここだけまずやりたい!」をしぼりこみ、空白地帯に他人のやりたいを埋められると、いい相乗効果が生まれます。

夏の試験も近づき、学生さんたちがプロジェクトに使える時間も限られてきます。できることを最大限に想像して広げながらも、コアとなる目標をしっかりしぼりこむことで、楽しく取り組んでもらいたいですね。


(参考)使用したスライドなど

ガイダンス当日に使用したスライド全体です。

▼全編スライド

▼音声リハーサル
ガイダンスを実施する前に、スライド未完成の状態で、仲間内での音声リハーサルを実施&収録しています。ガイダンス当日とは話した内容がちょいちょい変わっていたりしますが、ご興味があれば、こちらも合わせてどうぞ。

01:38 現状の報告をお願いします
02:35 テーマとゲーム体験のつながりは?
06:28 対象プレイヤーの年齢は?
13:15 テーマとゲーム構造の関わりは?
20:18 次の課題に向けて話し合おう!
23:11 今日の話題で大切なことは?


板橋区内に、レーザーカッターや3Dプリンターを使って何かを作ったり届けたりしています。また、そうした道具を使える人を増やしたいという思いで、講座などもちょいちょい開催しています。サポートいただけた場合は、こうした機材費や会場費などに利用させていただきます。