日記(新型コロナウイルスとおやこの森・小澤のり子先生)

電話番号を変更して真っ先に私が連絡したのは、おやこの森の施設長・小澤のり子先生だった。それは伝達事項のみではなく、先生にいま聞いてみたいことがあったからだ。

直截に言うと、
「新型コロナウイルスの影響で外出禁止になった場合、いわゆる弱い立場の人たちはどうなるのでしょうか。先生はどうされますか?」
ということ。

私の話になるが、2月下旬から少し前まで、新型コロナウイルスの情報を収集することすらままならない状況だった。時間的に余裕がないということではなく、精神的にそういう余裕がなかった。みなさんもご存知だと思うので書くが、お子のことで精神がギリギリな状態にあった。

その状態でもSNSに流れてくるコロナ関連の情報に接することは多数あるし、人と会えばコロナの話になることが多い。その中でいつも私が思っていたのは、「情報を収集して思考判断できる人はそれでいい。ではそれができない性質・状態・状況の人はどうなるのか。」という疑問だ。

最初は小さな違和感だった。しかし人に接する度に、特に備蓄や買い込みの情報に接する度にその違和感は増した。

この数日で根拠のない情報に触れたり、知性ある人々が次々と先を見越して判断していく中で、その違和感は増大した。だから私はのり子先生に聞いたのだ。

「もしおやこの森の機能が停止したなら、おやこの森を必要としている利用者はどうなりますか。そのとき先生はどうしますか。」と。

先生はこう言って笑った。

「そうじゃねー。私にもね、そういう人たちが”こうした方がいい”、”私はこうしました”って言ってくるわ。私ダメやっちゃろうね。」

「ダメじゃないです。動くのが先生のお仕事で、そうする時間もないんですよね。」

「先々考えんといかんちゃろうけどね。”いま”できることを、”いま”目の前にあることをやってる状態じゃね。」

先生はまた笑った。

私は泣いた。自然と涙が溢れて、
「先生、ありがとうございます。」と言った。
なんて稀有で、貴重で、得難い人なんだろう、と思った。
先生はきっと、おやこの森の機能が停止するまで利用者のために動き続けるだろう。

私はこの文章を誰かを責めたり批判するために書いているわけではないし、自己犠牲をして働く(先生がそうだと言っているわけではない。)ことを賛美するつもりもない。しかし社会は自分(と家族)だけでは完結しないし、その中には弱者も当然含まれている。

あなたのすぐ側にだって、いるでしょう?たくさん。あなたが当事者かもしれないし、そうじゃないあなたにもいつだってそうなる可能性はある。もちろん、世界が強者と弱者の世界にきれいに分かれるわけではないけど。

じゃあどうするか?
もしも外出禁止になったとして、私には何ができるのか?
自分の生活を守り、精神と時の部屋に入って自分が充足しているだけでいいのか?

誰か教えて欲しいよって思ったって答えはない。ただそのときに思い出すのは、私が読んできた本の著者たち、そして先々を見越して思考判断していった尊敬する先輩たち。結局、私は自分で考えるしかないのだ。私を、そして私の大事なものを守るために。

私の強みはきっと、切実な原体験が複数あること。原体験がそんなになくて行動している人もすごいし、原体験がある人は共に頑張ろうねって思ってます。

誰か教えて欲しいよって叫んでいいのは、たぶん比喩的な意味で思春期までだ。私はもう思春期ではない。

伝わっているとは思うけれど、私は自分の書く能力を誇示したくて書いているわけではないし、選ばれた者だと思って公表しているわけではない。ただ、役割だと思ってこうして書いている。それぞれができる範囲で、できることをするのが役割で、そこに優劣はない。

凡庸な結びで申し訳ないが、新型コロナウイスが私たちに問うているのは、「あなた」はこの先、ウィズコロナを、アフターコロナを、何を大事にして生きますか。何のために誰のためにその命を使いますか、ということだと私は思う。

さて、このあと私はようやく情報収集と思考に入ります。
恐らく既に無数に考えている人たちの考えた軌跡を辿り、自分で判断するために努めます。

ちなみに補足だが、備蓄については必要だと思う。周りが助けてくれる前提で備蓄しない、というのは違う。しかし、もしもそれができなかったり抜けがあったとしても、いざとなれば周りが助けてくれる、という安心感が大事だと思うし、私はそれを広げていきたい。

一番最強なのは、私たちなーんにもなくなっちゃったよね、と笑い合い、じゃここから始めようか、何をどうやっていこうか、と話せる仲間がいることで、それこそがセーフティネット。それをどんな人だって持てるようにいくつもいくつもネットをつくるのがまちづくり、だと私は思う。

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