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争族の小説を書く!と決めたら読む「遺言書の基礎知識」・・・しかも相続の全体像がつかめます。

 これから「争族」をテーマに小説を書こう!というnoteクリエイターの皆さん向けに「遺言書の基礎知識」をこれからザックリお伝えします。何か、遺言状の書き方や書式を思い浮かべたかもしれませんが、そうではございません。「遺産の分け方」の基本ルールを説明してまいります。この記事がnoteクリエイターの皆さんにとって、正しい遺言書の基礎知識のベースとなり、これからの新たな小説の執筆活動のヒントになれば嬉しいです。
 しかも「相続の基本」もバッチリ網羅しています。小説を書かない読者の皆さんにも、相続の全体像がつかめるメリットがありますので、ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです。


1.遺産の分け方の2つの基本ルール

 亡くなった方の遺産は2つのルールに沿って分けられます。ポイントは「遺言書の有無」です。そこで下図①をご覧ください。

1-1.遺産の分け方の2つの基本ルールは「遺言書の有無」にある

 遺言書が「有る」場合は、下図①の上段の通り、その内容通りに遺産を分けます。遺言書が「無い」場合は、下図①の下段の通り、相続人全員の話し合い(「遺産分割協議」といい、後述します)で遺産の分け方を決めます

図①:遺産の分け方の2つの基本ルールのポイントは「遺言書の有無」です。

 ここでとても多い誤解は「遺産は法定相続分通りに分けなければいけない」というものです。この割合のことを(後述しますが)「法定相続分」と呼ばれ、分け方の目安として法律上定められているものです。しかしあくまで「目安」にすぎず、強制力を持たないのです。つまり、相続人全員の同意があれば、どのような分け方をするのも自由です。
 ちなみに遺言書の種類。上図①の通り、一般的に活用されている遺言には大きく自筆証書遺言公正証書遺言の2種類があります。厳密には秘密証書遺言や緊急時遺言などもありますが、特殊遺言として説明を割愛します。

1-2.自筆証書遺言とは

 自筆証書遺言とは、遺言の内容を自筆して作成するものです。最大のメリットは簡単に作れること。デメリットは紛失や破棄などの補完上の期間があることや、誤った書き方によって無効になる可能性があることです。小説やドラマでもよく出てくるのが、この自筆証書遺言になります。

1-3.公正証書遺言とは

 公正証書遺言とは、公証役場という所で、公証人という法律のスペシャリストが本人の意向を確認して作成します。公証人の多くは元裁判官や検事です。遺言書を公証役場で預かってもらえるので紛失や破棄の危険が無く、描き方の誤りで無効な遺言にならない等、安全性が高いことがメリットになります。
 また、2020年7月より、自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、この制度を利用することで、自筆証書遺言も公正証書遺言と同様に、全国の法務局で検索することが可能になりました。

 以上、遺言書の説明をしてきました。遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成します。これは、相続人全員で決めた「遺産分割の内容」を記した書類で、「言った言わない」の問題を無くすために、相続人全員で確認したうえで署名押印し、各自が補完するものです。この辺は、司法書士が専門領域になります。

2.遺産分割協議書は「言った言わない」トラブルに有効

 仲の良い家族ほど要注意です!!遺産の分け方が無事に決まった後は、必ず遺産分割協議書を作りましょう。

2-1.民法上、遺産分割協議は口頭だけでも成立するが・・・

 民法上、遺産分割協議は口頭だけでも成立するとされています。そのため、相続人全員が納得をしていれば、遺産分割協議書を作らなくても、遺産分割は成立します。しかし仲の良い家族であっても、書面で遺産分割協議書を作っておかないと、後々トラブルになりかねません。
 余談ですが、(私の泳ぎ仲間の)弁護士が話していた内容で、持ってこられた争族案件。遺産分割協議書は無くて、代わりに相続税申告書を出されるケースもあるとのこと。もちろん、相続税申告書では遺産分割の内容を証明する書面にはなりません。この辺は、弁護士が専門領域になります。

 では次に、遺産分割協議の時期について説明します。

2-2.早まった遺産分割がマズい理由

 故人の遺産の分け方を決めるのは、早くても四十九日法要や納骨、香典返しが終わった後にすることがオススメだと言われています。

図②:遺産分割は早くても四十九日法要等が終わった後にすることがオススメです。

 その理由を上図②に沿って解説します。遺産分割は早くても四十九日法要等が終わった後にすることがオススメの理由。それは故人の遺産を正確に把握するには、それ相応の時間がかかるためです。相続人たち(上図②では母と子)が「もうこれで全部だろう!」と思って遺産分割協議書を完成させたとしても、「あの銀行にも口座があった・・・!!」「ヘソクリ隠していた・・・!!」と、遺産が発見されるのはよくある話です。
 また、高額療養費や介護保険過誤納還付金等の「相続が発生してから3ヶ月~半年後に国や行政から払い戻されるお金」があったりしますし、病院や施設への精算金、クレジットカードの未払い分、葬儀費等マイナスの遺産の把握も重要になってきます。
 よって、四十九日など相続人が集まる機会を利用して、相続人全員で協力して遺産の確認を進めていくことが重要になってきます。

 他方で残念ながら、遺産の分け方について、相続人同士で合意ができない場合も出てきます。次に「遺産分割調停」について見ていきましょう。

3.ついに争族勃発!遺産分割調停と審判とは

 皆さん、「調停」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、実際に何をしているか知っている方は少ないのではないでしょうか。ここまで来ますと「争族」のお話なので、弁護士の専門領域に近くなりますので、あくまで「一般論」として説明していきます。
 調停とは、裁判官が一方的に判決を言い渡すわけではなく、あくまで相続人同士の話し合いに家庭裁判所の調停委員が間に入り、落としどころを探っていく手続きになります。そこで下図③に沿って、遺産分割調停の進め方を解説していきます。

図③:遺産分割調停とは、家庭裁判所が間に入り、落としどころを探っていく手続きになります。

 これから上図③の「相続人の範囲」「遺産の範囲・評価」「各相続人の取得額・分割方法」に沿って説明していきます。

3-1.相続人の範囲

 誰が相続人かを確認します。上図③の場合、母とA~Cの3人の子の合計4人が相続人になります。また戸籍が事実と異なるなど相続人の範囲に問題がある場合には、人事訴訟等の手続きが必要です。
 なお、相続人の中に認知症などで判断能力に問題がある方(上図③の場合は「子C」が該当)がいる場合には、成年後見等の手続きも必要です。

3-2.遺産の範囲・評価

 原則として、被相続人(上図③の場合は「父」)が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するものが遺産分割の対象となる遺産であり、その範囲を確定します。そして合意がとれると、遺産の評価。遺産分割の対象となる不動産等の評価額を確認します。

3-3.各相続人の取得額・分割方法

 既に確認・評価した遺産について、法定相続分(後述します)に基づいて各相続人の取得額が決まります。但し、法律の条件を満たす寄与分(上図③の場合は「子B」)や特別受益が認められる場合に、それらを考慮して各相続人の取得額を修正します。
 そして合意がとれると、各相続人に分割します。遺産の分割方法には、現物分割(その物を分けること)、代償分割(物を分けるが、差額を金銭で調整すること)、換価分割(売却して金銭を分配すること)等があります。

 そしてこれら全て合意がとれますと「調停成立!」となります。

 以上、遺言書が無い場合、相続人全員の同意がないと遺産の分け方を決めることができず、折り合いがつかない争族に発展した場合は「遺産分割調停」等で遺産の分け方を決めることを説明してきました。
 一方、遺言書さえあれば、基本的には遺言書通りに遺産を分けていくことになり、手続きが長期化する可能性は低くなります。では次に遺言書の留意点について解説していきます。

4.遺言書があっても自由に分けれない事実

 改めて遺言書の留意点について見ていきます。実は、遺言書があったとしても、自由に遺産を分けられるわけではない!ということです。なぜなら、遺留分(いりゅうぶん)という制度が存在するからです。
 遺留分とは、残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は必ず相続できますという権利を指します。この遺留分を理解するには、先ほどから何回も出てきています「法定相続分」の考え方を理解する必要があります。改めて法定相続分とは、遺産の分け方の「目安」として国が定めているものです。以下、具体例を用いて説明します。

4-1.相続人は誰で法定相続分はどれくらいか

 まず下図④をご参照ください。相続人は誰になるのか、遺産はどう分けられるのか、まとめてみました。このうえで最後に「遺留分」の考えに戻ってきます。

図④:「遺留分」という考えは、必ず覚えておいて欲しい「専門用語」です。

 まず、どのような家族構成だったとしても、配偶者は必ず相続人になります。そして子供もいれば相続人になります。上図④の場合の法定相続分は配偶者が2分の1、子供が2分の1で、子供が3人いる場合は子供の人数で割りますので、各子が6分の1ずつになります。
 上図④の例だと遺産合計が1億円なので、各相続人の4人(母、子A、子B、子C)の法定相続分は以下のとおりになります。
 ・母  :1億円×法定相続分1/2     =5,000万円
 ・子A:1億円×法定相続分1/2÷3(人)=1,666万円
 ・子B:1億円×法定相続分1/2÷3(人)=1,666万円
 ・子C:1億円×法定相続分1/2÷3(人)=1,666万円

 もし、亡くなった方に子供がいないなら、相続人は配偶者と直系尊属(親や祖父母)になり、この場合の法定相続分は配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。
 更に子供がおらず、両親や祖父母も他界している場合は、兄弟姉妹が相続人になり、この場合の法定相続分は配偶者が4分の3、直系尊属が4分の1です。

 このように相続人は法律で厳格に決められています。また、よくある誤解ですが「相続人全員が同意すれば、相続人以外の人にも遺産を相続させることができる」です。例えば、献身的に介護してくれた内縁の妻は相続人になれません。また相続人である子が健在で、その相続人の子、つまりも相続人ではありませんので、相続人全員が同意しても、内縁の妻や孫に相続させることはできません
 よって、内縁の妻や孫といった「相続人でない人」に財産を残す手段の一つに冒頭の「遺言書」が出てくるという訳です。
(ここまできて、遺言書の意義・・・スッキリしましたか?!)

4-2.遺言書を書くときは「遺留分」に要注意!

 繰り返しにはなりますが、遺留分とは、残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は必ず相続できますという権利を指します。ポイントは3つあります。再度、上図④をご覧ください。

 第1に、遺留分は「権利である」ということです。例えば遺言書に「子Aは親不孝だったので、1円も相続させません!」と遺言書に書いてあったとします。もし子Aが「あぁ~そうですか。お好きにどうぞ♪♪」と、遺言書の内容に納得すれば問題ありません。
 しかし、子Aが「クソ親父~1円も相続させないなんてあんまりだ~!!俺には遺留分がある。相続させろ!!」と主張した場合、子Aは最低限保証されている金額を相続出来ます。遺留分は「権利」なので、行使するか否かはその人次第という訳です。

 第2に、遺留分の保障額です。上図④の場合、遺留分は法定相続分の半分になります。遺産合計が1億円なので、各相続人の4人(母、子A、子B、子C)の遺留分は以下のとおりになります。
 ・母  :1億円×法定相続分1/2     ×遺留分1/2=2,500万円
 ・子A:1億円×法定相続分1/2÷3(人)×遺留分1/2=   833万円
 ・子B:1億円×法定相続分1/2÷3(人)×遺留分1/2=   833万円
 ・子C:1億円×法定相続分1/2÷3(人)×遺留分1/2=   833万円

 第3に、兄弟姉妹には遺留分がありません。亡くなった方と兄弟姉妹は別生計であることが一般的で、遺産を相続出来なくても生活に困ることはないと考えられています。

 以上、大切な基礎知識として、遺言書があれば、自分の気持ち通りに分け方を決めることができますが、遺留分だけは変えられない!と結論を抑えていただければ幸いです。遺言書をキチンと作ったとしても、遺留分を侵害する内容になっていれば、争いの火種となり「争族」に発展する可能性があるということです。

5.補足:相続税を支払っているのは〇%

 これまで「遺言書」を切り口に「相続の基礎知識」を紹介してきました。で、最後に「相続税」の税金分野の入口を補足します。まず、相続税は、亡くなった全ての方に課税されるのではなく「一定額以上の遺産を遺して亡くなった」場合にのみ課税される税金です。その一定額のことを基礎控除といい、3,000万円+600万円×法定相続人の数で算出されます。

図⑤:相続税の課税最低限=3,000万円+600万円×法定相続人の数です。

 この課税最低限を超えているのであれば、相続税の申告をして、併せて相続税を納税しなければいけません。相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。裏を返せば、もし遺産が課税最低限(基礎控除額)以下でしたら、相続税は一切かからず申告も不要です。
 もし申告手続きの概要も確認されたい方のために、関連note記事のリンクも貼っておきました。よろしければ覗いて見てください。

図⑥:相続開始を知った日の翌日から10か月以内が申告期限になります。

 それでは一体、今現在どれくらいの人が相続税を支払っているのでしょうか。国税庁が公表しています「令和3年分 相続税の申告実績の概要」によりますと、次の通りになります。
 ・日本全国の年間死亡者=1,439,856人・・・Ⓐ
 ・相続税が発生した人 =   134,275人・・・Ⓑ
 ・課税割合(Ⓑ÷Ⓐ)     =   9.3%

図⑦:「令和3年分 相続税の申告実績の概要」より

 つまり相続税を支払っているのは「100人中9人」という統計が出ています。よって、小説で「争族」ついでに「相続税」を登場させるのも、これだけの資産家が亡くなった設定にする必要がありそうですよね。
 この記事がnoteクリエイターの皆さんにとって、正しい遺言書の基礎知識のベースとなり、これからの新たな小説の執筆活動のヒントになれば嬉しいです。

【参考書籍】
・福田真弓『自分でできる相続税申告』自由国民社、2023年6月26日。
・橘慶太『ぶっちゃけ相続』ダイヤモンド社、2023年5月16日。
・橘慶太『ぶっちゃけ相続・手続大全』ダイヤモンド社、2021年12月7日。
・北本高男『基礎から身につく財産評価』大蔵財務協会、2023年8月4日。
・北本高男『基礎から身につく相続税・贈与税』大蔵財務協会、2023年6月20日。

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>

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