見出し画像

引き算でモノを作るのは逃げか?

いやしかし、25年ぐらい仕事やら作品を作ってきてますけど、これが来たらこう、あれが来たらああ、みたいに出来ないですね。映像の仕事は毎回条件が変わるから、今まで経験してきたことが、当てはまらないことが多いんです。

そして、歳を取れば取るほど悩まされるのが、引き算的な作り方と足し算的な作り方です。私はグラフィックデザイナーをちょっとだけやっていたせいか、基本的には引き算の考え方でモノを作る傾向があります。それは25年ぐらい仕事をしてきて今でも変わりません。

例えば、画面にたくさんの種類のテロップを入れなければならない時、わざと文字の大きさに差をつけずに、同じ大きさにして、同じ書体で入れたくなります。なるべく見た目の情報量を減らしたいからです。その結果、どれが一番優先したいテロップなのかは分かりづらくなります。

例えば、私は子ども番組を作っているので、うたの歌詞を書く機会が多いんです。そんな時も、出来るだけシンプルに、要素を少なくしようとします。究極的にはその歌のテーマの単語ひとつの繰り返しでいいとすら思ってしまいます。

あるいは、私が撮影して作った映画の『SHELL and JOINT』は、全部のカットを1本の単焦点レンズで撮っています。これも、いろんなサイズのヨリとヒキの画角が入ると、情報量が多い気がしてしまうからです。

そして、私が自分の問題だと思っているのは、そうやって情報量を減らしてシンプルにすることが、効果的な伝達のための手段としてやっているのではなくて、私の生理的な感覚に拠っているところです。ひとつの画面の中にいろんなサイズの書体の文字が入っていると、下品に思ってしまうんです。これは先輩デザイナーから叩き込まれたことではありません。

でも、仕事ではもちろん、情報に優先順位があるので、文字の大きさに差をつけてレイアウトします。仕事では私の生理的な感覚という理由では突破出来ませんし、全部同じ大きさの文字で完パケられる方がむしろ稀です。

この引き算的な考え方は、どちらかというと自分のネガティブな部分という認識です。悪い言い方をすると、引き算的に作ると、それなりに「やった感」が出るんです。仕事した感と言いますか、デザイン的な思考を使った感と言いますか。でも、薄々気がついているんです。それってただ「部屋を片付けただけ」なんだということを。

本当は部屋を片付けてから創造が始まると思うんです。部屋を片付けるのはマイナスをゼロにする作業です。そこからプラスに持っていかなきゃならないのに、部屋を片付けただけでやった気になってしまうんです。

そしてもちろん、部屋を片付けただけの表現は刺さりませんね。誰も振り向かないし、見向きもしない。だったら散らかっていた部屋の方が、存在感あったんじゃないかとすら思ってしまいます。

もっと言うと、マイナスからゼロへ、散らかっている部屋を片付ける作業って、それほど高いレベルの才能は要らないとも思ってます。本当は片付け終わってからが勝負なんです。プラスにしていくって、本当の能力が問われますし、上限が無いから怖い世界です。

この怖さは本当に感じます。本当に凄いものって、引き算的ではなく足し算的に作らている気がします。これは見た目のシンプルさの話ではなく、追求の強さと言ってもいいかも知れません。概念の話です。

とっ散らかった情報やコンセプトをいったんキレイに整理します。キレイに整理しただけでも、世の中の人は「センスがいい」とか言ってくれるかも知れませんが、その真っ白になった部屋に絵の具を持ち込むんです。白と黒とグレーの絵の具だけじゃダメですよ。それではまだ逃げてます。あえての12色の絵の具です。1200色の絵の具でもありません。そこで「この部屋を素晴らしいものにしてください。」と言われるんです。震えが来ますね。だって、「真っ白いままでいいじゃん。」って思っちゃってますから。でも、本当の勝負はこの先なんじゃないかと思うんです。

そういう問題意識をずっと持っているんですが、引き返して来てしまうことが多いですね。足し算を始めてしばらくすると、この先は無いんじゃないかと思っちゃうんです。キツイ言い方をすると、自分の脳力ではこの先に進めないんじゃないかと思うんです。だったら、あの白い部屋のままで完成でいいんじゃないかと思ってしまうんですね。あるいは、白と黒とグレーの絵の具だけ使って、ちょっとだけ足した感を出してお茶を濁すと言いますか。

でも、勇気を持って進まなきゃダメなんです。片付いてキレイになった部屋は錯覚ですから。印象として完成した感じがしますし、その「成功体験」は強力な引力を持っています。成功してないんですけど、キレイに片付いた真っ白い部屋を見ると、成功したと勘違いしてしまうんです。もういい加減、その先に進まなきゃダメなんだと自分を鼓舞するために、このnoteを書きました。


サポートして頂けたら、更新頻度が上がる気がしておりますが、読んで頂けるだけで嬉しいです!