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『赤シャツ』を予習しよう①〜元ネタ「坊っちゃん」

この秋から開幕の舞台劇『ブライトン・ビーチ回顧録』の
予習をするにあたって、
戯曲(原作脚本)を読んでみましたら
「やっぱり戯曲っていいな!」とおもいました。


そこで、9月5日から始まっている舞台劇
『赤シャツ』もこの機会に予習してみます。

予習、っていうかチケットないんですけど。
チケット申込時に、ワクチン2回目を打ち終わってる時期か分からなくて
申し込まなかったんで…。


舞台劇『赤シャツ』についてはこちら。

年配ジャニオタも観に行きやすい、貴重な「外部舞台」です。
ジャニーズからは、ジャニーズWESTの桐山照史くんが主演で
Sexy Zoneの松島聡くんが出演。

この秋のSexy Zoneは舞台づいてて良いね。
9/6から開演の菊池風磨くんの『DREAM  BOYS』の脚本も
読みたいところだわ。
(ジャニーズオリジナル舞台は脚本出回ってません)

■さて『赤シャツ』とは?

舞台劇『赤シャツ』はマキノノゾミさん作の戯曲です。
マキノさんは劇団M.O.Pで役者・演出家として活躍し、
近年ではNHK朝の連続テレビ小説「まんてん」など、話題作・受賞作の脚本を多数書かれています。

「まんてん」は気象予報士志望のヒロインが
宇宙から伝える天気予報士になる、という
2002年〜2003年放送の作品です。
最終回に2009年の皆既日食を想像させるシーンが入ったり、
まだ現実にない「宇宙の現場から気象を伝える」職業にヒロインが就く、など
未来の可能性を感じさせるストーリーでした。


そして『赤シャツ』。
2001年にマキノノゾミさんが戯曲を書き、
劇団青年座で初演されています。
紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した時のこの舞台の演出家が、
今回の公演でも演出をされている宮田慶子さん。
以来、宮田慶子さん演出・劇団青年座公演で
長く上演されている人気の演目です。

戯曲『赤シャツ』の主人公は
夏目漱石の名作「坊っちゃん」に出てくる、
坊っちゃんの赴任先の中学校の教頭「赤シャツ」です。

赤いフランネルのシャツばかり着ているので「赤シャツ」。
ハイカラで学のあるインテリぶりをひけらかして
遠回しな裏工作をする学校の権力者で、
坊っちゃんは赤シャツが大嫌いです。
最後には坊っちゃんと同僚の数学教師・山嵐によって
赤シャツはボコボコにされます。

…という「坊っちゃん」のストーリーを
原作中で「悪いやつ代表」の赤シャツの視点から見てみよう!というのが
今回上演の舞台劇『赤シャツ』。

いわば「坊っちゃん」のスピンオフなので、
まずは元ネタの「坊っちゃん」を読むところから始めます。

教科書で有名な冒頭文

「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。」


は知ってても
それ以降は読んだことなくて、今回初めて全文読みました。
青空文庫で読めます。


■では、元ネタ「坊っちゃん」スタート!

主人公は「親譲りの無鉄砲」な性格の「坊っちゃん」。
東京の下町の生まれ育ちの江戸っ子です。

夏目漱石自身が東京の下町生まれなので、
坊っちゃんが生まれた土地のモデルは
漱石が生まれ育ったところだろう、と想像できます。

夏目漱石は1867年、江戸牛込馬場下横町生まれ。
江戸です。漱石は江戸時代最後の年に生まれて、
1歳の時に元号が明治になっています。

漱石が生まれたところはこちら↓

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江戸の古地図です(国立国会図書館「江戸切地図」)
さすがに分からないので画面引きます。

画像2

現在の新宿区牛込喜久井町とのことなので、
現代の地図と照らし合わせてみます。

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早稲田大学のすぐお隣。
そういえば漱石は一時期、東京専門学校(早稲田大学の前身)で講師をしていました。

漱石の生誕地跡のあたりをアップにしますと、

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「夏目坂」という通りの名前がよく出てきます。
これ、夏目漱石のお父さんが、自分ちの家の前の坂道に
自分の名前を付けたのが始まりです。

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早稲田の駅前には「夏目漱石誕生の地」石碑があるとのことです。


というわけで、「坊っちゃん」も
このあたり出身のちゃきちゃきの江戸っ子、という
設定と思われます。

さて、「坊っちゃん」に戻ります。
「無鉄砲」と本人が言うとおり、
友だちにからかわれて高いとこから飛び降りたりナイフで手を切ったり、
よそさまの畑でもいたずらし放題。

「親譲り」とは言うけど、
親父さんには「貴様はダメだ」と言われ続けてるし、
早くに亡くなった母上も
出来の良い兄をひいきして坊っちゃんには愛想を尽かしていました。

そんな坊っちゃんを、家に10年来奉公している下女の清だけが
「あなたは真っすぐでよいご気性」と
ベタ褒めして可愛がっています。

■坊っちゃん、四国の中学校の先生に

坊っちゃんが中学生の時、親父さんも亡くなります。
兄が仕事で九州に移るため家を売ったので、
坊っちゃんは下宿に移り、清は甥の家へ。

中学校を卒業後、坊っちゃんはなんとなく物理学校に入り、
3年勉強して卒業。
直後、「四国辺りの学校」の数学教師の職を紹介されます。


この設定は、漱石が28歳の時に
四国・松山の中学校に赴任した体験談が元と言われてますので、
ここからの舞台は四国・愛媛県の松山市と推定。
漱石が赴任した愛媛県尋常中学校は
現在の愛媛県立松山東高等学校の前身です。

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物語中の坊っちゃんも、はるばる四国までやってきます。
着いて泊まった宿の主人は骨董品を売りつけてくるクセ者。
赴任先の中学校の教師たちもまた、クセ者揃いです。

校長は、色が黒くて目が大きい。
タヌキに似てる校長に坊っちゃんは「(たぬき)🟤」と
あだ名を付けます。

教頭はインテリで口が達者な文学士。
暑そうな赤いシャツを着てるので「赤シャツ🧍🏻‍♂️」。
この中学校に通っている弟と一緒に住んでいます。

画学(美術)の吉川先生はペラペラの羽織を着て扇子を持ってる芸人風。
教頭赤シャツのご機嫌取りばかりしてるので、
素人の太鼓持ちっぽいから「野だいこ(野だ)🥁」。

数学の主任の堀田先生はイガグリ頭でたくましいので「山嵐🦔」。
生徒に人気のある先生です。

英語の古賀先生はとても顔色が悪い。
うらなりの唐茄子(未成熟なカボチャの実)ばかり食べてそうだから「うらなり🍐」。
気の弱そうなお人好しです。

他に、漢学のお爺ちゃん先生や終始控えめな体育の先生とかがいます。

■新任先生、生徒たちの洗礼を受ける

赴任してきた坊っちゃん先生の数学の授業が始まります。
授業中も生徒たちは騒がしく、学校が終わった後も
坊っちゃんの宿の部屋まで来ていたずらをします。

坊っちゃんは気分転換に外出して
蕎麦屋に入ったり団子屋で食べたりするのですが、
その現場をなぜか生徒たちに見られていて(田舎は狭い)、
授業で教室に入ると
「昨日先生がどこそこで何を食べてた!」と
黒板に書かれてる始末。

ある夜、いつもの宿屋の部屋で布団に入ろうとすると
布団の中に大量のバッタが!
さすがに激オコの坊っちゃん。
やってそうな生徒たちを問いただすが、
「それはバッタじゃなくてイナゴ〜」とか茶化すうえに、
四国の訛りが坊っちゃんには耳障りでイライラ。

そんな時、教頭・赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁吉川先生が
「数学主任の堀田先生(山嵐🦔)が生徒たちをそそのかして
坊っちゃん先生に嫌がらせをさせている」とささやいてきます。
それは、坊っちゃんと山嵐🦔を仲違いさせようという
赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁の策略だったのですが、
単純な坊っちゃんはそれをまに受けて
山嵐🦔を避けるようになります。


やがて、生徒たちの坊っちゃん先生への嫌がらせについて
職員会議が開かれます。

校長・狸🟤は処分や責任について、もっともらしいことを述べただけで放置。
教頭赤シャツ🧍🏻‍♂️は「生徒たちなんて子どもでそんなものだから許してやれ」と言います。
野だいこ🥁は校長や教頭の意見に賛同します、とヘラヘラするばかり。

そんな中、山嵐🦔は「いたずらした生徒が悪い。先生に謝るのがスジ」とキッパリ。
山嵐🦔を信用していない坊っちゃんも、アレ?この人…とちょっと見方を変えます。

■先生たちの恋愛模様が不穏に

坊っちゃんは宿屋を出て下宿に移ります。
そこで下宿のお婆さんから土地の噂話を聞かされます。

この土地で「マドンナ」とあだ名される良いとこのお嬢さまがいて、
彼女はもともと英語のうらなり🍐先生の婚約者でした。

しかし、うらなり🍐家の父親が亡くなって家が苦しくなったすきに
前からマドンナを狙っていた赤シャツ🧍🏻‍♂️が
マドンナに手を出して
横取りしてしまった、と。

事を知った山嵐🦔が赤シャツ🧍🏻‍♂️に忠告しに行くものの
口のうまい赤シャツ🧍🏻‍♂️に誤魔化されたらしい。
それで赤シャツ🧍🏻‍♂️と山嵐🦔が険悪だ、という地域情報を
坊っちゃんは知るわけです。

ある日、赤シャツ🧍🏻‍♂️に呼び出された坊っちゃん。
赤シャツ🧍🏻‍♂️の家に行くと、自分の教え子である赤シャツの弟が出てきました。
引き継いでもらって赤シャツ🧍🏻‍♂️の部屋に行くと野だいこ🥁もいます。

そこで坊っちゃんは
「英語の古賀先生(うらなり🍐)が九州に転勤するので
その分坊っちゃんの給料を上げてやる」と聞かされます。

坊っちゃんは一度下宿に戻って、下宿のお婆さんに噂を聞いてみると
うらなり🍐は転勤したくないのに、
赤シャツ🧍🏻‍♂️がマドンナ欲しさに
うらなり🍐を追い出した、ということらしい。
怒った坊っちゃんは赤シャツ🧍🏻‍♂️の家に取って返し、
増給はいらないと突っぱねます。

■悪だくみする赤シャツの弱みを見つけた

九州に追い出されるうらなり🍐の送別会が開かれます。
その頃、坊っちゃんと山嵐🦔の誤解がとけ、
2人は赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁への不信を共有しながら
送別会に参加します。

自分でうらなり🍐を追い出しておきながら
送別会では上手にうらなり🍐を褒める赤シャツ🧍🏻‍♂️。
うらなり🍐はただただ人が良いばかり。
そこで山嵐🦔が赤シャツ🧍🏻‍♂️への皮肉たっぷりのスピーチをします。

宴会は主役そっちのけで盛り上がり、
芸者さん達まで呼ばれて来ます。
その呼ばれた芸者の1人、小鈴が赤シャツ🧍🏻‍♂️と親しげなことに
山嵐🦔と坊っちゃんは気が付きます。

■生徒の喧嘩を止めたはずが新聞ざたに

ところで、「坊っちゃん」の時代設定は
この物語が書かれた当時の明治38〜39年。
この頃、日本はロシア帝国との日露戦争に勝利し
ポーツマス条約を締結しています。

そんなわけで、「坊っちゃん」のストーリー中にも
祝勝会のエピソードが出てきます。

漱石が実際に松山の中学校に赴任していたのは明治28年、
日清戦争が終わるか終わらないかの頃。
松山での兵の壮行会に、漱石自身も
自分の生徒の付き添いで行っています。

その壮行会で自分の中学校の生徒たちと
地元の師範学校の生徒たちが喧嘩になり、
漱石先生も止めに入った、という実話があります。

それがそのまま体験談として書かれているのが
ここの部分です。


祝勝会で、中学校の生徒と師範学校の生徒が
小競り合いを起こしそうになります。
その場は収まり、祝勝会も終わって
坊っちゃんと山嵐🦔が下宿で休んでいるところに
赤シャツの弟が「祝勝会の打ち上げ」に誘いに来ます。

坊っちゃんと山嵐🦔が行った先で、
中学校の生徒たちと師範学校の生徒たちが
ついに大喧嘩を始めます。
止めに入った坊っちゃんと山嵐🦔は
巻き込まれて殴られ、ケガをします。


その翌日。
地元の新聞には
「中学校の教師二人が師範学校の生徒たちに
暴行した」という記事が出ます。
ひそひそ噂する地域の人たちや学校の先生たち。
坊っちゃんと山嵐🦔が事実無根だと
校長狸🟤や教頭赤シャツ🧍🏻‍♂️に訴えると、
「学校側から新聞社に訂正依頼を出した」と言います。

しかし、その後も新聞にはきちんとした訂正は出ず、
山嵐🦔は校長狸🟤から「外聞が悪いので学校を辞めてほしい」と言われます。
坊っちゃんと山嵐🦔は「これは赤シャツ🧍🏻‍♂️の企みでは?」と推測します。

■ついに赤シャツに溜飲を下げる

山嵐🦔は辞表を提出して学校を辞めます。
しかし「赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁が例の芸者のところに通っている証拠をつかんで
やり返してやる!」と誓い、
芸者の角屋の向かいの宿屋に張り込んで
見張りを始めます。

自分も学校を辞める覚悟の坊っちゃんは
山嵐🦔と一緒に張り込みをします。

見張り始めて数日後、
ついに赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁があらわれます。
二人で坊っちゃんと山嵐🦔の悪口を言いながら
芸者小鈴の角屋に入っていき、
そのまま一晩泊まって翌朝早くに出てきました。

その現場を押さえた坊っちゃんと山嵐🦔は
赤シャツ🧍🏻‍♂️と野だいこ🥁をボコボコに殴って立ち去ります。


坊っちゃんは学校に辞表を郵送し、
東京に帰ります。

その後、街鉄(路面電車)の技師に就職して、
清を呼び寄せてまた一緒に暮らしました。
しかし清は肺炎で亡くなり、
今は坊っちゃん家の墓のあるお寺で眠っています。

■結局、坊っちゃんだけが「善」なのか?

以上、「坊っちゃん」のストーリーのザッとした解説です。

江戸っ子気質で真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐの坊っちゃんと、
四国の田舎暮らしで忖度しまくりの地元の権力教師たちの対比が
分かりやすい文章でサラサラと綴られています。
漱石の文章って、明治の文豪達の中でも
群を抜いて読みやすいです。
テンポの良さは、落語が好きだったという漱石ならではでしょう。

坊っちゃんは「文学芸術にうとい」設定で書かれてますが、
インテリ赤シャツや芸術かぶれ野だいこの台詞から
漱石が文学や芸術に造詣が深いこともうかがえます。

そして漱石自身が「坊っちゃん」ではないことは、
漱石が胃潰瘍で亡くなるくらい
考えすぎの神経質だったことからも明らかです。


この「坊っちゃん」発表の翌年、
漱石は大学教授の職を辞めて
新聞に連載小説を書くようになります。
今で言うなら「堅い仕事を辞めてエンタメ小説を書く」という感じです。

その直前時期に書かれた「坊っちゃん」も
エンタメ色が強く、
完全な勧善懲悪パターンで綴られています。

ただ、「勧善懲悪」とは言っても
結局、坊っちゃんは同僚教師や上司を殴って
辞表を一方的に郵送して学校を辞めています。
やはり「さすがに子どもっぽくないか?」と
思わざるを得ません。

一方で、女性を巡ってこずるい策略はしたものの
上手く立ち回って出世も美女も手に入れる赤シャツや、
権力者のご機嫌を伺って自分の身を安泰にする野だいこに
社会で生きる「大人の知恵」があると見ることもできます。

そして、何より「坊っちゃん」は
主人公・坊っちゃんの一人称で語られる物語です。
坊っちゃんの正義やモットーは分かったものの、
他の登場人物が心底何を思い、どんな事情があったかは
定かではありません。

■そこで「赤シャツの言い分」を!

そうか…だから
『赤シャツ』なのか!

そう、戯曲『赤シャツ』は
「坊っちゃん」で起こった状況を
赤シャツ目線で語り直す舞台劇、とのこと。

真っ直ぐで威勢がいい坊っちゃんは
そりゃ分かりやすい暴れん坊ヒーローだけど、
「悪役」とされている赤シャツにも
何か「大人の事情」があって、
そう生きざるを得なかったのでは…。


というわけで、次は戯曲『赤シャツ』を読みます。
Amazonに売ってました。

電子書籍だともうちょい安いです。


次の記事は、この
戯曲『赤シャツ』を読んで
「坊っちゃん」のスピンオフ『赤シャツ』の楽しみ方について
見てみようと思います。

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