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『ブライトン・ビーチ回顧録』予習録

この秋から始まる舞台
『ブライトン・ビーチ回顧録』のチケットが
思いがけず当たりました。

「思いがけず」と言うのは、
ジャニーズ事務所所属のタレントさんが出る一般舞台(ジャニーズファン側からは「外部舞台」と言います)は
いっぺんにチケット倍率が上がるのよ。

と、まるでジャニーズさんには興味がない
一般の舞台演劇好きが
「ジャニーズの子が来るとこうなっちゃうのよねぇ」と言ってるみたいですが、
私は舞台演劇も好きなジャニオタです。
劇団四季も宝塚も小劇場もアニーも観ましたが、
ジャニーズも好きです。

が、ジャニーズのライブは参戦したことないです。
私は相当歳食ってからのジャニオタなので、
若い方々であふれるライブには
とても行けやしないです。

ライブでなければ、ジャニーズさんが出る舞台演劇というものもあるのですが、
全キャストがジャニーズタレントで構成されている「ジャニーズオリジナル舞台」は
お客さんの構成がライブとほぼ同じです。
やはり歳食った人間はなかなか足を踏み込めないです。

となると、狙い目は「外部舞台」。
これなら年配層も観に行きやすいです。
もともと舞台好きなら、
名高い演出家さんやベテラン俳優さんの
興味深い舞台演劇が観られるうえに、
ジャニーズタレントさんの外部舞台での頑張りも
見ることができて更に楽しいです。

チケット取りについては、
私はジャニーズファンクラブ先行が外れたので
一般のチケットサイトで取りました。
感覚としては、劇団四季くらいの取りにくさだったかなと。

まぁ、社会状況がこうなので
実際に観に行けるか、また舞台そのものが開催されるかは
当日になってみないと分からないところです。

■原作名は『ブライトン・ビーチ回顧録』ではない

とはいえ、観に行く、となったからには
予習したいところです。
舞台演劇は是非原作を読んでから観たい!

まず、今回の舞台についてはこちら。

『ブライトン・ビーチ回顧録』公式HP

『ブライトン・ビーチ回顧録』
2021.9/18(土)〜10/3(日) 東京芸術劇場プレイハウス
10/7(木)〜10/13(水) 京都劇場

原作は、アメリカの国民的コメディ作家である
ニール・サイモン(1927年〜2018年)。
ブロードウェイで30年近くコメディ脚本を書き続けたヒットメーカーです。

原作は英語ですので、これを日本語に翻訳されたのは青木陽治さん。
『ブライトン・ビーチ回顧録』の日本初演(1985年)時の翻訳家さんとのこと。

演出家は小山ゆうなさん。
あ、この冬から劇団四季で上演される話題作
「ロボット・イン・ザ・ガーデン」の演出家さんだ!と
四季好きは嬉しくなります。
小山さんは読売演劇大賞・優秀演出家賞なども受賞されている、
今をときめく演出家さんです。


さて、原作の脚本を読もうと
「ニールサイモン ブライトン・ビーチ回顧録 脚本」で検索しても、
そういう題名の原作は出てきません。

日本で発行されている、ニール・サイモンの脚本集は
早川書房の「ニール・サイモン戯曲集」で、
『ブライトン・ビーチ回顧録』の原作が収録されているのは
その4巻目。

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出版元では廃刊らしいので、近所の図書館で借りました。

目次はこちら↓

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この最初の「思い出のブライトン・ビーチ」
『ブライトン・ビーチ回顧録』の原作です。

じゃあ「回顧録」はどこから?と言うと、
主人公の少年ユージンが日々書いている日記帳が
「回顧録」という名前なのです。

■「ブライトンビーチ」ってどこ?

この目次に載っている三作品
「思い出のブライトン・ビーチ」
「ビロクシー・ブルース」
「ブロードウェイ・バウンド」
は合わせて
B・B三部作(どれもタイトルがBで始まる単語二つだから)と呼ばれています。

いずれも主人公はフルネームがユージン・モーリス・ジェローム、
「ユージン」の名で出てきます。

「思い出のブライトン・ビーチ」に15歳直前で登場するユージンは
「ビロクシー・ブルース」「ブロードウェイ・バウンド」では20歳前後。
三部作に思春期から青年期まで書かれているユージンの姿は
若き日のニール・サイモン本人がモデルとなっています。


ときに、「ブライトン・ビーチ」とはどこか?

「ブライトン・ビーチ」は
アメリカ・ニューヨーク市ブルックリン区の
ブライトン・ビーチという海沿いの地域です。

Googleマップで見ると、アメリカのここらへん。

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さらに寄ってみます。

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ほぼニューヨークですね。
さらに寄ると、

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ニューヨークってこんなに川や湾が多いんですね。
そんなニューヨーク・ブルックリン区の南の地域、ここ。

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なんか近くに観覧車があります。
ビーチはこんな風景だそうです。

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いきなり引いてみると、
日本との位置関係はこんな感じ。

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日本の東北地方とほぼ同じ緯度です。

■「思い出」っていつの話?


場所が分かったところで、次は時代背景を。
戯曲集収録の「思い出のブライトン・ビーチ」の冒頭には
登場人物やストーリーの場所・年月が記されています。
それによると時代設定は
「1937年9月」。
このときユージン少年14歳。

ユージンのモデルはニール・サイモン自身のはず、なのですが
1927年生まれのニール・サイモンはこの時10歳。
まぁ、細かいことはいいでしょう。

では、1937年9月のアメリカ・ブライトンビーチは
どんな状況だったのでしょうか?

当時のブライトン・ビーチは、ユダヤ人・アイルランド人・ドイツ人などが多く住む、
下層の中流階級の住宅地でした。
ユージン一家(そしてニール・サイモン自身)もユダヤ人です。

「思い出のブライトン・ビーチ」ストーリーの時期から
さかのぼること8年前の1929年、
アメリカの株価大暴落を皮切りとして
世界恐慌が始まりました。
所得や物価が下落して経済が大混乱し、
当時のアメリカの失業率は23%。

そんな時期、ヨーロッパやアジアの方では
1933年にナチス・ドイツの独裁が始まります。
ドイツと日本は国際連盟から脱退し、
1937年には日中戦争が勃発。
大不況に加えて、戦争のムードが
じわじわと漂い始めます。

この頃から、ナチス・ドイツは
ユダヤ人迫害をはじめています。
ストーリー中でもユージンの父の台詞で
「ヒトラーがオーストリアに侵入した」と
ニュースを読むところがありますが、
ユダヤ人であるユージン一家の親戚も
たくさんヨーロッパに居るので、
親戚たちの安否を心配しているシーンが出てきます。

世界的な大不況のうえに、
世界全体で戦争勃発の予感。
しかも自分たちの民族がヨーロッパで迫害されている。
そんな不穏な時代に思春期を迎えている少年ユージンを主人公とした、
アメリカ在住のユダヤ人家庭の物語が
「思い出のブライトン・ビーチ」なのです。

そして、このストーリーの時代設定から2年後の1939年9月、
ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発。
1941年に日本がアメリカの真珠湾を攻撃したことにより、
アメリカも第二次世界大戦に参戦することに。

「思い出のブライトン・ビーチ」の続編の
「ビロクシー・ブルース」では、
成長した青年のユージンが
アメリカ軍の訓練所に参加している様子が書かれています。

■大変な時代を生きる一家のコメディ


「大不況時代の、世界大戦直前の物語」と書くと
とても暗い時代の重い話のように想像されますが、
原作脚本を読んでみると
とてもユーモアにあふれ、テンポ良く
絶妙な台詞やちょこちょこ笑いも楽しめる内容です。

ユージンのお母さんの口グセ
「世界も家庭があってこそ」のとおり、
B・B三部作に流れるテーマは
「厳しい現実の中でも、共に生きていく家族愛」。

これが実話だったとしたらニール・サイモン大変や!と思うくらい
ドタバタと事件が家庭で起こり、
家族それぞれが秘めた不満や不安が
事件をきっかけに表に出てきます。
それを歩み寄り、胸のうちを打ち明けながら解決して
家族の絆を確かめなおす…という家族の物語。
派手な笑いはありませんが、
ほろ苦くほっこり笑える温かいコメディです。


思春期のユージンが登場する「思い出のブライトン・ビーチ」でのサブテーマは
「少年の性のめざめ」。
ここ、ユージン役がジャニーズの正統派アイドルなもので
「え…性のめざめ?!」とファン界隈が
ザワザワしてたところです。

とは言っても舞台演劇で、アイドル起用で若い女性ファンも観に来るのを
制作側もご承知のはずなので、
まさかどぎつい性描写は無いだろうし言わせないだろう、と思いつつ
原作脚本を読んでみましたら、

そこそこ性的用語はリアルです。
(原作では。
実際の舞台でどう持ってくるかは分かりませんが。)

でも、それが「厳しく暗い社会の中でも
人間として確かに成長していく若者の希望」を
象徴する大事な部分なので、
戸惑わずに観ましょう。
そしてユージン役の佐藤勝利くん、腹決めてがんばって…。ここ照れちゃダメだぞ!

■できれば原作を読んでから観たいものですが…

舞台劇は、出来るなら
原作や戯曲(脚本)を読んでから観たほうが
実際に舞台を観た時の理解が深まります。

とはいえ、今回の『ブライトン・ビーチ回顧録』の戯曲は
日本語では手に入りにくい状況です。

私は図書館で借りて読んだのですが、
内容は著作権法があるので
あらすじが載せられません。

ですので、「思い出のブライトン・ビーチ」の
人物相関図を載せておきます。

物語はほぼ、ジェローム家の中で進められます。
戯曲の最初に書いてある「家の間取り」を参考に
描いてみたのがこちらです。

※アバウトです。

実際の舞台ではどんなセットになってるのか
見るのが楽しみです。

というわけで、ワクワクしつつ
感染対策に気をつけつつ、
観劇の日を待つことにします。

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