『赤シャツ』を予習しよう②〜戯曲『赤シャツ』のポイント
9/5から開幕している舞台劇『赤シャツ』
初日から大好評のようです。
舞台劇って、現場の空気感が独特で良いんだよねぇ。
DVDが出たら観たいけど、ステージで観たかったなぁ。
チケットはないのですが、戯曲って読むだけでも面白いので
この機会に『赤シャツ』の戯曲を読んでみた、という記事の続編です。
『赤シャツ』は夏目漱石の名作「坊っちゃん」のスピンオフなので、
まず「坊っちゃん」を読んでみたストーリー解説がこちら。
「坊っちゃん」の物語中の悪役「赤シャツ」の視点から
ストーリーの裏事情を語るストレートプレイの戯曲が『赤シャツ』です。
電子書籍版はもう少し安くなります。
というわけで、私は戯曲『赤シャツ』読んでみました。
350ページの戯曲には、
「坊っちゃん」とリンクした仕掛けがいっぱいです。
そもそも舞台役者さんって、この分厚い台本を
全部暗記して演じるのですね。すごい。
で、「坊っちゃん」の、どの箇所と
『赤シャツ』のどの台詞がリンクしているか
対比させたいところなのですが、
著作権法がありますので
『赤シャツ』のあらすじは掲載できません。
(前の記事の「坊っちゃん」のほうは
著作権が切れている作品なので、あらすじ掲載しています。)
ですので、「坊っちゃん」『赤シャツ』を読んでみたうえで
「これを押さえれば『赤シャツ』がもっと楽しめる!」
と思われるポイントを挙げていきます。
■「坊っちゃん」原文に一度は目を通しておく
『赤シャツ』の台詞回しは、元ネタ「坊っちゃん」の会話文や設定と
細かく関連付けられています。
「坊っちゃん」はテンポが早くエピソードが大変多い物語です。
私も前記事であらすじを書いてみたものの、
実は端折って書かなかったエピソードもあります。
その後『赤シャツ』を読んでいくと
「あ、ブログ記事では書きこぼしたあのエピソードと
『赤シャツ』のこの会話が繋がってた!しまった!」と
悔しい思い(笑)をしたところが何ヵ所もあります。
スピンオフはやはり元ネタが分かっててこそ面白いので、
『赤シャツ』を読む前、また観劇前には
「坊っちゃん」の原文全部をひととおり読んでおくことを
是非おすすめします。
「坊っちゃん」は青空文庫でフリーで読めます。
■『赤シャツ』の時代背景を知っておく
「坊っちゃん」には「祝勝会」など
戦時中を思わせる語句がうっすら出てきますが、
『赤シャツ』のほうはさらにはっきりと
戦争の真っ最中の物語であるという描写が何ヵ所も書かれています。
これはいつのどの戦争中という設定か?を
あらかじめ知っておくと、
物語の深い意味が読み取りやすいです。
「坊っちゃん」の時代設定は
明治38〜39年あたりと推測されていますが、
『赤シャツ』のほうは戯曲の始めにはっきりと
「明治38年」と時代設定が書かれています。
明治38年は、前年から開戦していた
日露戦争が終結した年です。
日本とロシア帝国が争った日露戦争で
日本は勝利を収めるものの、
多くの日本兵が亡くなり、また国の財政も限界に達しました。
日本国民は、たくさんの人が身内知人を戦争で失い、
しかも財政難をカバーするための大増税にも耐えていました。
ですので、戦勝後の講和条約では
日本がたくさんの利権と賠償金をロシアから取れることを
国民が期待していたのです。
ものすごい犠牲を払って戦争に勝ったのだから、
たくさんの見返りをもらえないとやってられない、と。
しかし、締結されたポーツマス講和条約では
利権を全部もらえると予想していた樺太は
南半分しかもらえず、
賠償金については、まったくもらえずじまいとなりました。
見返りを期待して我慢し続けていた国民は
この結果を見て不満が爆発し、
講和反対運動から暴動が起こっています。
戦争で多大な犠牲を払って勝ったのに
得るものが少なすぎ、失ったものが多かったことに
人々が失望を感じている社会。
そんな時代の空気が、『赤シャツ』の設定や台詞のそこかしこに表れています。
なお、日露戦争の前の戦争の話も
ちょろっと出てきます。
日露戦争の10年前、
明治27年に日清戦争が勃発しています。
日本と清国(現在の中国)が争い、
翌年の明治28年に日清講和条約が締結されました。
松山で漱石が中学校の先生をしていた頃に起こっていたのは
この日清戦争です。
■ちなみに物語の場所は?
漱石が実際に中学校の先生として赴任した
愛媛県松山市の松山中学校が
「坊っちゃん」の舞台と言われていますので、
『赤シャツ』の舞台も同じ中学校周辺だと思われます。
松山中学校は、
現在の愛媛県立松山東高等学校の前身です。
ところで、「坊っちゃん」には
「列車に乗って温泉に行く」シーンが
しばしば出てきます。
近所の銭湯に歩いて行くんじゃないの⁈
どれだけ温泉好き?と思って
地図をよーく見てみたら、
道後温泉が近くにあるんですね。
列車で二駅ってとこでしょうか。
現在の道後温泉駅
駅前に「坊っちゃん列車」が展示されています。
現在の道後温泉本館
これならしょっちゅう通いますねぇ。
坊っちゃんが風呂で泳いで「泳ぐな」の貼り紙をされたのも
この道後温泉と思われます。
■『赤シャツ』にはオリジナルキャラもいます
戯曲『赤シャツ』には、「坊っちゃん」にはいない
オリジナルのキャラクターも数人出てきます。
『赤シャツ』の登場人物一覧を見ていただくと、
赤シャツ家の「ウシ」、ロシア人将校のウラジーミルは
『赤シャツ』独自のキャラクターですね。
前の数学主任、「角屋」の番頭、四国新聞の記者あたりは
「まぁ居てたっぽいな」くらい。
『赤シャツ』で特徴的なのは、
赤シャツの弟・武右衛門の存在です。
「坊っちゃん」では「坊っちゃんが数学を教えているが、至って出来が悪い」の一言で済まされてますが、
『赤シャツ』ではストーリーに風を吹かしまくります。
そして「角屋」芸者の小鈴。
『赤シャツ』では「坊っちゃん」よりも
人間味あふれた女性として描かれています。
■『赤シャツ』のテーマとは
「坊っちゃん」は無鉄砲で真っ直ぐな坊っちゃんが
世間スレした忖度ばかりで偉そうにしている田舎教師たちを懲らしめる、という
勧善懲悪の爽快ストーリーでした。
一方の『赤シャツ』は
なんといっても「坊っちゃん」では悪者として書かれている
赤シャツが主役ですから、
坊っちゃん目線ではない「テーマ」があるはずです。
『赤シャツ』の中でも、坊っちゃんや山嵐は
真っ直ぐな一本気野郎です。
そんな彼らを、女性陣は
「男らしい」と言ってほめています。
しかし、赤シャツは
考えて考えていつも胃が痛い男です。
心に思うことがあっても、場を納めるために
口に出さないことも多々あります。
それが裏目に出て、人のためにせっかく配慮したことでさえ
誤解されまくり、
周りと上手くコミュニケーションが取れません。
坊っちゃんや山嵐のような「男らしさ」に憧れる赤シャツ。
でも、「坊っちゃん」の物語の最後で
結局学校を辞めて行った坊っちゃんや山嵐は
「上手く生きている」と言えるでしょうか?
だからといって、赤シャツや野だいこのように
根回しや気遣いをして立ち回るのも
「良く生きている」と言えるのか…。
赤シャツの葛藤は、
正直に生きたいけれど周りを気にせずにはいられない、
今の世の人たちにも共通するものだと思います。
また、「坊っちゃん」よりも『赤シャツ』の方が
「戦時中の様子」について色濃く描かれています。
日露戦争の勝利で盛り上がってはみたが
国際社会での地位は低いままである不満、
また戦争で身内を亡くした人たちの悲哀が
ストーリーのここかしこに流れています。
戦争に出ることが正義なのか?
戦争をしないためにはどうすればいいのか?
ストーリーの中で、赤シャツも答えを見つけようとしています。
戦時中が舞台の「坊っちゃん」のスピンオフとして、
より「戦争の現実とはどういうものか」を
『赤シャツ』で打ち出しているように思えます。
■舞台は生物(なまもの)だから
どんな舞台劇でも共通ですが、
その上演回ごとに役者さんが
「アドリブ」をおっしゃるのも楽しみの一つです。
『赤シャツ』も、台詞回しや掛け合いが多いので
アドリブが出てくるかもしれません。
現場で観劇した時、原作を知らなければ
どこが台本どおりでどこがアドリブか分かりません。
ですので、実際に観に行くかたは特に
元ネタ「坊っちゃん」や戯曲『赤シャツ』を
読んでおくとより楽しめるはずです!
🟥
と、チケットのない私ですが
『赤シャツ』予習してみました。
熱演の好評っぷりをメディアで見るにつけ、
DVD出してほしいな、と切に思います…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?