ハブ ア ベイビー

せっかくの海外研修でここにいるのだから
日本人ばかりと過ごすのはもったいないと
日本人以外と交流しようとしていたけれど
短期研修ばかりが集まるクラスだったから
仲良くなれたのはほとんど日本人と韓国人

特に仲良くなっていつもペアを組むほどになった
何歳か年上の男の子は兵役を済ませてきた韓国人
担当の先生にからかわれるほどに私たちふたりは
授業中の課題すら話を膨らませては盛り上がった

その日のテーマは確か 家族のかたち か何かだった
韓国はまだあるべきかたちみたいなものが根強いから
自分は外国を放浪していつか定住したいと彼は言った
日本ではいろんなかたちが出てきていると思うけれど
個人的には子どもを持つつもりはないのと私は言った

韓国では考えられない話だよ と彼は言った
日本でも珍しいほうかもしれない と私は言った
どうして子どもを持たないの と彼が聞いた
私いい母親になれないと思うから と私は答えた

先生が もうそろそろやめようか と告げに来て
周りはもう話し合いを終えていることに気づいて
白熱しすぎた二人で顔を見合わせて苦笑いをして
彼は最後に一言私の目を見て真剣な表情で言った
“Have a baby.”

あれからもうずいぶん時間がたって
私はもし今子供を授かったとしても
ばっちり高齢出産の範囲になったし
ビョーキもしたから妊娠した場合は
ハイリスクすぎるハイリスク妊婦だ
パートナーができる気配もないけど

あれからもうずいぶん時間がたって
彼はどこかの国に定住しただろうか
いまだ世界を旅しているんだろうか
望み通りに国際結婚をしただろうか
彼のほうこそ父親になっただろうか

“Have a baby.”
でもあの言葉の響きだけは
今も残るほど悪くなかった
“Have a baby.”